【新】旅先で日本人だけが知らない「教養」としての新・宗教戦争

2019/3/22
「世界最大の宗教はイスラム教になっている」
こんな驚くべき調査結果を、米調査機関ピュー・リサーチ・センターが公開していたのをご存知だろうか。
イスラム教徒が世界人口の平均成長率より2倍ほどのスピードで増え続け、2100年には「世界最大の宗教」になる可能性がある、というのだ。
現在はキリスト教徒が世界の最大勢力となって久しいが、イスラム教徒がその数を超えた場合、人類史上初めて、イスラム教徒がその数でトップに立つ。
宗教史における、最大の構造的転換──。
この調査は、234カ国・地域の統計をもとに、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教、ユダヤ教、イスラム教の5大宗教と民俗宗教および無宗教について、平均年齢や出生率、死亡率、多宗教間での改宗など、様々な要素をもとに人口動態を調査し、変動予測をまとめた、初めての大規模な調査だ(2017年、調査手法として初めて)。
それによると、2010年の時点でキリスト教徒は約21億7000万人と、世界人口の31.4%を占める最多の宗教人口。これに対し、イスラム教徒は約16億人の23.2%。
しかし、2060年にはイスラム教徒が約30億人(31%)となり、キリスト教徒の約31億人(32%)を急激なスピードで追い上げ、その増加率(2015-2060年比)は実に70%にも及ぶと見込まれている。
その間、キリスト教人口の増加率は34%、世界人口全体の増加率も32%という中、イスラム教人口は、それらの2倍近いペースで増えてゆくことになる。
そして、その増加率がそのまま継続した場合、来たる2100年には、イスラム教徒が初めてキリスト教徒の数を上回るという、歴史的な大転換が起こり得る──そんな衝撃的なデータなのだ。

唯一減り続ける「あの宗教」

なぜ、イスラム教徒がそこまで急激に増えることが予想されるのか?
まず、イスラム教徒の出生率の高さ。イスラム教徒の女性の出生率は1人当たり約3.1人と、宗教別で最多だ。
さらにイスラム教徒は平均年齢が若い。15歳以下が34%にのぼり、宗教別で現在、最多だ。近年、東南アジアや中東、アフリカ諸国のみならず、欧米諸国などにも急速な広がりを見せている。
その一方で、世界の宗教別人口予測で唯一、「減少」を示した宗教がある。
仏教だ。
イスラム教を始め、キリスト教、ヒンドゥー教、ユダヤ教のすべてが軒並み人口数の伸びを示したのに対し、仏教徒だけが7%の減少である。背景には、中国やタイ、日本における出生率の低下が主な理由として挙げられている。
これをもってして「イスラム教徒が増え、仏教徒が減ってしまう」と、脅威に感じる日本人は、さほど多くないだろう。
しかし、そんな感覚は日本人だからなのかもしれない。海外で「宗教はなんですか?」と聞かれ、「無宗教です」と答えた時の、相手の少し怪訝な、理解しがたいような複雑な表情に出会う経験をしたことはないだろうか?
確かに、近年は科学の進歩とともに世俗化も進み、世界各国で特定の宗教を信じない人たちの数も増えてはいる。しかし、実は “無宗教”の人口が多い国は、中国、チェコ、エストニア、スロベニア、北朝鮮など、ごくわずかしかない。
世界では、何かしらの宗教を信じている人々が多数派という国がほとんどだ。
特定の宗教を信じる人口が加速度的に増加してゆくのに対し、無宗教の人々の「割合」は減っていく。そう、世界の宗教人口は膨らみ続けているのだ。
そして今、仏教徒が大半を占めている「あの国」で、イスラム教徒の“脅威”が少しずつ蠢きつつある。世界中のメディアが注目する仏教国「スリランカ」だ。
NewsPicksは全3回にわたって、教養としての“宗教”の現実をお伝えしてゆく。第1回では、併せてショート・ドキュメンタリーもぜひ一度見てほしい。ぐっと引き込まれるはずだ。
そこに潜むのは、世界で急速に広がるイスラモフォビア(イスラムに対する嫌悪)、SNS上に拡散する憎悪に満ちた大量のフェイクニュースだ。そして、それを陰で操る「過激な仏教徒」の存在にも迫る。

「スリランカの奇跡」