「愚かさ」の研究で有名な、ミシガン大学の心理学者デイヴィッド・ダニング。彼の研究は、実践すれば誰でも賢明になれる方法を提示している。

ダニング=クルーガー効果

ミシガン大学の心理学者、デイヴィッド・ダニング。その名前を聞いたことがなくても、彼の名を冠したコンセプトについては知っている人もいるだろう。
有能な人には自身の能力に疑いを持つ傾向がある一方で、無能な人には自分は優れていると過信して悦に入る傾向があるとした「ダニング=クルーガー効果」だ。
もっとはっきり言えば、愚か者や無能者は、愚かすぎたり無能すぎたりするため、自分がどんなに愚かで無能なのかを理解できない。そういう人たちは、自分は最高と思っているのだ。
ダニング=クルーガー効果は、現実世界における人間の行動を非常にうまく説明している。そのため、私たちの誰もが日常的に遭遇する愚かさの説明としてよく知られるようになったのはうなずける。
しかしダニングは、ニュースサイト「Vox」のブライアン・レズニックによるインタビューで、自身の研究は最高に厄介な同僚(あるいは大衆から嫌われる政治家)に貼るための便利なラベルであるだけではないと述べている。
ダニングによれば、この効果をうまく活用すれば、私たちの誰もが自分の愚かさにいくらか気づき、いくらか賢明になれるという。

1. 他人の意見を聞く

ダニングが行っている研究の要点は、ほかの人々は自分の力量を判断するのが苦手だということではない。私たちはみな、自分のスキルを評価するのが苦手だということだ。
ダニング=クルーガー効果は「遅かれ早かれ、誰もが経験する現象だ。それを騒ぎ立てる傾向が少し強い人もいれば、そうでない人もいる。しかし、自分がどれだけ無知であるかを自覚しないのは、人間が人間である条件のひとつでもある」とダニングは説明する。
私たちはみな、愚かさや過信に陥りやすい。これを補正していく方法のひとつは、他人の意見を聞くことだ。個人よりも集団のほうが愚かになりにくいのだ。
「私たちがさまざまな問題を引き起こすのは、自分自身に頼りすぎていることに原因がある。すべてをひとりで行い、孤立した状態で決断を下しているからだ」と、ダニングは語る。「ほかの人に相談したり、会話したりすれば、多くの場合、何かが学べたり、おおいに役立つ別の視点が得られるものだ」

2. 最悪のシナリオを想像する

楽観主義というものが、人生において何らかの役割を果たしていることは確かだ。しかし、本当に賢明な決断を下そうとしているときには、そうとは言えないようだ。心理学によれば、そうした場合には悲観主義や神経質さのほうが役立つという。
「その決断が重要なものである場合は、どこで間違いをおかす危険があるのか、どうなれば計画が惨事に終わるのかを自問すべきだ。徹底的に考えることが重要だ」と、ダニングは助言している。

3. 確実性ではなく、可能性で考える

未来をより正確に予見することで、よりよい決断を下せるようになりたいと誰もが思っていることだろう。
「白か黒か」「イエスかノーか」式の思考はやめて、可能性の観点からものごとを考えよう。つまり「XあるいはYは起こるのか」ではなく、「XあるいはYが起こる可能性は10%か、50%か、あるいは80%か」と考えるのだ。
この助言の出所について、ダニングは「ペンシルベニア大学の心理学者フィリップ・テトロックの研究と、彼が『超予測者(superforecaster:さまざまな問題について驚異的なまでの正確さを誇る人々)』と呼ぶ人たちだ」と説明する。
テトロックは「確実性の観点から物事を考える人々よりも、可能性の観点から物事を考える人々のほうが、今後の世界で何が起こるのかを予測することに長けている」ことを発見した人物だ。

4.「事実」と「意見」を見分ける

小学生のころに学校で、先生に「事実」と「意見」を見分ける練習させられた人もいるだろう。「この絵は美しい」は意見であり、「バラク・オバマはアメリカで生まれた」は事実だ。
ダニングによれば、両者の区別はきわめて重要であるにもかかわらず、多くの人々がそれを忘れつつあるという。賢明さを少し向上させたければ、疑問には個人の解釈が入る余地がないものもあるということを自分に言い聞かせる必要がある。
「民主党と共和党に目を向けると、両者はアメリカの進むべき道について優先させる価値観やどう舵取りをすべきかに関する持論などの点で異なっている。だが、現在のアメリカをどのようにとらえているのかという点でも異なっている」と、ダニングは指摘する。
「両者のあいだには、さまざまな点で大きな意見の相違がある。『いまの経済はうまく回っているのか』『オバマ政権の業績とは』『株価は上がったのか、それとも下がったのか』といった問題についてだ」
「そうしたものは、事実に関する疑問だ」と、ダニングは強調する。そこに、意見をはさむ余地はない。すべきことは、正しい事実を調べることだけだ。

5.「知らない」と言うことをためらわない

こうした事実を調べることは、Googleのおかげで非常に簡単になった。だが困難なのは調査自体ではなく、心理学の領域にある。
情報を探しに行く前にはまず、自分がその情報について無知であることを認めなければならない。それには「知的謙虚さ」が必要とされるが、人は必ずしも謙虚であることを得意としていない。
「人は『知らない』と言うことに不快感を覚えるようだ。これには私たち心理学者もお手上げだ」と、ダニングは述べる。
私たちを謙虚さへと向かわせるのに適した方法を、心理学では見つけられていないかもしれない。しかし、自身の知識の限界をみずから進んで自覚する道を選ぶことは、個人の力でできる。自分の無知を自覚することで、いまよりも賢明になれるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman/Contributor, Inc.com、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:mikkelwilliam/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.