【大室正志】どうすれば「疲労感」をマネジメントできるのか

2019/2/14
フライトを含む出張など、肉体的には疲れていないはずなのに、なぜか「疲れた……」と感じることがある。実は、医学的には「疲労」と「疲労感」は区別され、「疲労感」の原因となるストレスを自己管理できていないビジネスパーソンは、自ずとパフォーマンスが落ちてしまうのだ。
では、私たちはストレスや疲れとどのように付き合い、マネジメントすればいいのか。ビジネスパーソンの不調に詳しい産業医・大室氏が語る。

似て非なる「疲労」と「疲労感」の正体

一般的に「疲れ」は、「発熱」と「痛み」に並ぶ「身体の三大アラート」とされている。
「ただし、一口に『疲れ』といっても、その原因はさまざまです」と話すのは、約30社の産業医業務に従事する大室正志氏だ。
ジムに行って疲れた、などの肉体的疲労はわかりやすいが、現代人が悩まされているのは、どちらかといえば脳の疲労だという。そして、脳の疲労はほかの要因によってマスク、つまり隠されることが往々にしてあり、自覚しにくいからこそ厄介なのだ。
「疲労のマスク問題には産業医としてしばしば直面します。過重労働面談でも、明らかに働きすぎの人が『全然元気です』と答えることがあるのです。この場合、実際には体も脳も疲れているのですが、仕事が好きすぎてハイになり、それに気づかないだけ。
私はゲームが大好きで、以前は徹夜するほどでしたが、プレイしている最中はまったく疲れを感じなかった。それと同じです」(大室氏)
この状態は、健康的には非常に大きなリスクをはらんでいる。なにせ、まったくの無自覚なので、周りから心配する声をかけられても、本人はどこ吹く風だ。
最近流行りのエナジードリンクを飲めば、カフェインと微量のアルコールにより、たしかに脳は覚醒するものの、体の疲れが消えてなくなるわけではない。肉体の疲労に対しては休息以外に回復する手立てはない。
一方、体は疲れていないのに、疲労感だけ感じるということもある。
たとえば、ビジネスパーソンにとっては、何も決まらない退屈な会議ほどつらいものはないだろう。出張なども、飛行機や新幹線で移動しただけで、勤務時間が長くなったわけではないのに、いつもより疲れを感じることがある。
「私の大学にも『並みの睡眠薬よりもずっと効く』と評判の名物教授がいました(笑)。授業を受けていると、さっきまで元気だった学生たちがみんな寝てしまうのです。そうした例から考えると、疲労そのものと『疲労感』は同一のものではないことがわかってきます」(大室氏)
では、疲労感の原因はなんなのか。「ハイになって疲労を感じない」状態の逆、つまりはストレスだ。
「ストレスがかかると交感神経が活性化して、血圧や血糖値が上昇します。これは危機に対処できるように、『これから戦うぞ』と体が準備している状態です。生存のためにそれが有用な場合もあるのですが、体はエネルギーをたくさん使う状態になる。
現代人のように常にストレスにさらされ、交感神経が高ぶった状態が長く続くと、気づかぬうちに体も脳も疲労している。それが疲労感につながるのです」(大室氏)
つまり、疲労感に対処しようと思えば、ストレスを軽減するべきなのだ。

2つのストレス。「ライフイベント」と「デイリーハッスル」

まずは疲労感のもとである「ストレス」について知っておこう。ストレスには、大きくわけて「ライフイベント」と「デイリーハッスル」の2つがある。
ライフイベントとは、配偶者を亡くした、仕事で降格された、給料下げられたなどの、比較的大きな出来事によるもの。一方のデイリーハッスルは、渋滞にはまった、仕事相手からのメール返信が遅い、など日常のイライラに代表される。
ここで気をつけるべきは、細かいイライラは、積み重なっても本人以外にはよくわからないということだ。
たとえば休職の申し出があったとき、上司や同僚の意識はライフイベントによるストレスに向きがちだ。結果、「最近、ショックを受けるようなことはなかったはずだが、いったい何が理由なんだ」と頭を抱えることになる。
「ストレスが積み重なって、どうにもならなくなった状態をコップから水が溢れた状態だとします。本人も周りも『大量の水が一気に入った』ことについてはわかるのですが、その前から、溢れやすい状態だったかもしれない。
つまり、もともとストレスがあり、『基本水位』が上がっていたのではないかということについても考える必要があるのです」(大室氏)
大室氏がよく思い返すのは、東日本大震災当時のことだ。自分の知り合いが直接被災したわけではないのに、あるいは会社の仕事量は変わっていないのにもかかわらず、メンタルに問題を抱えた人が増えたのだ。
「震災による不安(=ストレス)から、全国的に『基本水位』が上がったからなのでしょう。特に『親の介護がある』『子どもに障がいがある』というような、普段からストレスを抱えていた人にとっては、かなりつらい時期だったようです」(大室氏)
疲れ、それに付随する不調を引き起こさないためには、ストレスの「基本水位」を低くしておく必要がある。そして、「基本水位」を低く維持しておくためには、避けようのないライフイベントによるストレスだけではなく、デイリーハッスルに注目するべきだと言えそうだ。

ポジティブなストレスに備えてストレスの基本水位を下げる

「とはいえ、ストレスを受けての反応は、本来、生存に有利に働くものです。たとえばあの錦織圭選手も、相手のサーブを待ち受けているときは、きっとストレスを感じているでしょう。
ですが、それはボールに鋭く反応するために必要な、いわば『ポジティブなストレス』です。そのストレスと戦うために、錦織選手は普段の生活ではあまりストレスがないようにしているはずです。
また、これも極端な例ですが、ホテルを住居にしている堀江貴文さんは、お金を払うことで軽減できるストレスはお金で解決しようという考え方ですよね。
あるいはスティーブ・ジョブズはいつも同じ服を着ることで、『今日どんな服を着ようか』と決断するストレスをカットしていました」(大室氏)
服を選ぶのが楽しみという人もいれば、考えるのが面倒くさいという人もいる。自分が日常生活のどんなことにストレスを感じるかを見直すことが、本来的な意味でのストレス対策になるのだ。
しかし、大室氏によれば、都市部のビジネスパーソンが毎日のようにさらされているデイリーハッスルがあるという。
「ラットを拘束すると、コルチゾールというホルモンが分泌されて、交感神経が活発化します。これは『拘束ストレス』と呼ばれますが、満員電車に乗っている人にも同じ反応が起きています」(大室氏)
満員電車に押し込められると、拘束ストレスによって血圧がグッと上がる。それだけでも、体には負担がかかり、疲れの原因になる。しかも、このストレスに人間が完全に「慣れる」ことはなく、何度経験してもストレスになるという。
「ある研究では、周りの人と死別するようなストレスは、時間の経過によって軽減されることがわかっています。一方で、満員電車に乗り慣れたことによるストレスの軽減具合は、それと比較して非常に鈍い。慣れたとしても、ある程度はストレスを感じてしまうのです」(大室氏)
満員電車に乗って通勤するのは、ストレスの基本水位を上げる行為だ。(画像:iStock)
すし詰めの通勤電車でなくとも、新幹線や飛行機で出張し、移動の疲れがなかなか取れないという経験をした人も多いだろう。それにはこの「拘束ストレス」が関係しているようだ。
「元気な若者がみんなでワイワイ旅行するためにLCCを使うならともかく、大変なディールをこなさなければいけないエグゼクティブであれば、フライト時間の短い香港であっても、到着してすぐに全力を出せるようフルフラットシートを選択するでしょう。
現実的には、みんながみんなビジネスクラスには乗れないでしょうが、パフォーマンスを維持するためにも、少しでも広いシートを選んだほうがいいでしょうね」(大室氏)

より広く、より快適に「新・間隔エコノミー」

フライトでは、少しでも広いシートを選択することがストレスの軽減になり、パフォーマンスの維持につながる。そこで選びたいのが、JALの国際線エコノミークラスシート「新・間隔エコノミー」だ。
シートピッチの拡大と座席のスリム化により、足元スペースが拡大。シート幅も広くなり、乗客一人ひとりの居住空間はより快適になっている。
このように快適なJALの国際線エコノミークラスシートは、SKYTRAX社が運営する「ワールド・エアライン・アワード(World Airline Awards)」において、世界で最も優れたエコノミークラス座席に贈られる「ベスト・エコノミークラス・エアラインシート」賞を受賞。2年連続で世界一を獲得した。
学生時代を思い返してみると、テスト直前になって集中して勉強できた経験があるはずだ。適度なストレスは、優れた成果につながる。
逆に、勉強が嫌になって部屋の片付けに手を出してしまった、ということもあるだろう。あまり大きなストレスがかかると、良い結果にはつながらない。
「現代のビジネスパーソンは、仕事でたくさんのストレスが降ってきます。これをどう避けるか、どう少なくするかということも大事ですが、大きな決断を下すような立場になれば、そうも言っていられません。
ある程度ストレスが降ってきても大丈夫なように、そして、ストレスを受けたときでも、判断を鈍らせないためにも、普段の生活で『基本水位』を極力下げておくことが重要なのです」(大室氏)
(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:加藤ゆき デザイン:砂田優花)