【井上尚弥】モンスターが極める、“最も価値のある勝ち方”

2019/2/3
2012年にプロ転向後、17戦17勝15KO。日本人最速の6戦目で世界王座に輝き、25歳にして世界3階級を制覇している。
ボクシングの井上尚弥が誇る才能は、野球の大谷翔平やフィギュアスケートの羽生結弦、テニスの大坂なおみと同じ「怪物」級だ。国内はもちろん、ボクシングの本場アメリカにも「Monster」として名をとどろかせている。
プロ転向時、所属ジムの大橋秀行会長が「井上尚弥にはラスベガス進出、5階級制覇、具志堅用高さんの日本記録を超える世界王座14連続防衛、メジャー4団体統一、ボクサー初の国民栄誉賞をとらせる」と語った逸材は、着実にそのゴールに近づいている。
なぜ、井上は世界の舞台で衝撃のKOを連発できるのか。一流と超一流を分けるわずかな差はどこにあるのか。怪物が誇る、異次元の強さに迫る。

世界の頂点に立つためのプラン

――2012年にプロ転向して大橋ジムと契約した際、「強い選手と戦う。弱い選手とは戦わない」という条件は、どういう理由で決めたのですか。
井上 自分がプロ転向する当時、ランキングの中で勝てそうな相手と戦うという選手もチョボチョボいる時期で、これじゃあボクシング人気がどんどんなくなっていくなってすごく感じていて。それと自分自身の成長のために、大橋会長にそのように伝えたんです。
やっぱり試合が一番成長できる舞台だと思っているので。その中で弱い相手とやって簡単に勝つだけだと、試合での成長がないんですよね。試合を通して成長したいなってすごく感じていたので、「試合の中で自分の力を引き出してくれるレベルの選手と戦いたい」とデビュー前の契約のときに会長に伝えました。
――他のスポーツと比べて、ボクシングは1個の負けが重く見えます。
重いですね。
――強い相手と戦えば、そのリスクは必然的に高まるけれども、そんなことは考えずに?
そうですね、アマチュアのキャリアもあったので。プロ転向で世界チャンピオンを目指すって、軽い気持ちではやっていないですし。強い者じゃないと上がっていけない世界なので、そこで負けているようだったら先が見えないなっていうのもあったし。
――2戦目でタイの国内王者と戦った際、「左手一本で試合をコントロールするのが今回の課題」と著書『怪物』で書いていました。試合ごとの課題設定は今もあるのですか。
今は世界での戦いになっているので、課題というより作戦を立てて、それを実行していく。プラン通りにいくことを心がけてやっていますね。世界に行く前に準備しておかなければいけないことを試合で試す時期が、その2戦目とかでしたね。
――プロ転向前からボクシング人気について考えていたとは驚きました。そんなアスリートはどれほどいるのか。
たぶん、ほぼいないと思いますよ。自分としてはそのときのプロボクシングの流れ、ノリ、人気が好きじゃなかったんですよね。
――大谷翔平の活躍で野球界はかなり盛り上がったように、一人のスーパースターの出現で業界全体に大きな影響が出ます。井上選手はいろんなものを背負っていると自覚を持って戦っていますか。
自覚はありますね。ボクシングには団体がいっぱいある中で、「本当に強いチャンピオンは誰なんだ?」という一般のファンの方の疑問がある限り、たぶん野球やサッカーに追いつけないと思うんですよ。だから、自分はこの大会(ワールドボクシング・スーパーシリーズ=WBSS)に絶対に出たいという思いもありましたし、自分がここで負けたら、ボクシング界を盛り上げる選手は今はいないなと思うし。
――4団体で本当に強いボクサーを決めるWBSSは、見る側としてもかなり楽しみです。
モチベーション、上がっていますね。
――ボクシングをする上のモチベーションでは何が強いですか。
今はボクシングが仕事と思ってやっています。まあ仕事ですけど、自分がやっていることが好きじゃないと、たぶんそこまで追い込めないし、ここまでモチベーションも上がらないと思うんですよね。好きだし、強くなりたい。まずはそこが一番です。