【佐藤琢磨】わずか10ミリの差を制す、“人車一体”の総力戦

2019/2/19
平均時速350キロのスピードで4Gの重力を受けながら、心拍数180に達する中で3時間近く走った末、最後に勝敗を分けるのはわずか10ミリ――。
世界3大レースの1つであるインディ500に40万人もの観衆が熱狂するのは、エンターテインメント性を突き詰め、極限の戦いが繰り広げられるからだ。
アメリカが誇る「世界で最も偉大なレース」で佐藤琢磨は2017年に初優勝を飾った。F1とインディ500で表彰台に立った、唯一の日本人ドライバーだ。
佐藤琢磨(さとう・たくま)/1977年東京都生まれ。2001年日本人初のF3チャンピオン。2002年からF1に参戦し、2004年アメリカGPで3位。2010年からインディカー・シリーズに参戦し、2017年のインディ500で日本人初の優勝を果たした(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
F1やインディカー・シリーズという最高レベルのモーターレースでは、ドライバー、エンジニア、アナリストのすべてが融合し、ハイレベルのチームにならなければ勝利することはできない。
「僕らがやっていることは、なかなか伝わってないんですよね、ホントに」
個と組織とテクノロジーを掛け合わせ、緻密で高度な戦略を駆使した戦いが繰り広げられるモーターレースの世界について、日本最高の実績を誇るドライバー・佐藤琢磨がその醍醐味を語る。

人と車の相乗効果

――モータースポーツはデータ解析がレースと同時進行され、スポーツで最も進んでいると言われます。ドライバーがパフォーマンスを発揮するにあたりデータはどれくらい影響を与えますか。
佐藤 近代のトップカテゴリーではデータなくしてレースをできないです。エンジニアにとって、データはすべてとも言えると思いますね。ドライバーにとっては人にもよりますが、2〜4割ほどでしょうか。
――そもそも車自体が、そのドライバーの能力を最大限に生かすようにつくられているのですか。
そうとも言えますし、それだけが目的ではないですね。
マシンはドライバーのパフォーマンスを引き出すような道具という見方もできますが、それが結果的にラップタイムとして成功するかどうかは別の話になってきます。そもそもマシン自体が速くないと、ラップタイムは速くなりません。ということは速い車をどう扱うか、ドライバーが順応していかないといけないんですね。
ただし機械を扱うのは人間ですから、その人のスタイルに合わせてバランスを変更していかないと、その人の能力が発揮されない。つまり相乗効果なんです。
どちらかが足りなくても完成しないですし、まったくスタイルが違うものがやっても反発しか起きないので、それをいかにくっつけてイメージ通りに走れるように、“人車一体”みたいな感じにしていくのがエンジニアの仕事です。
そのエンジニアがつくった車が今、どういう状況に置かれているのかという意味でデータはすごく大事になってきます。
2019年1月に行われたスポーツアナリティクスジャパン2019では、アビームコンサルティング のアナリストとともに登壇した(写真:中島大輔)
例えば、ドライバーに車を合わせ込むのはインターフェースのところですね。ステアリング、ペダル、シートなどです。他のスポーツで言う「フォーム」にあたる部分が、僕らは「ドライビングポジション」になるので非常に細かく調整しますし、体に合わなければ能力を発揮できません。
ただマシンの動きそのものは、ある程度ドライバーがドライビングスタイルを変えていかないといけない部分があります。なぜかというと、その車が最も速く走るようなセッティングで乗りこなすことが一番大事だからです。
――エンジニアが速い車をつくろうとする過程で、佐藤選手は要望を結構出しますか。
出します。(エンジニアによる)机上の計算だけでなく、ドライバーが受けるフィーリングはマシンの性能を引き出す上でとても重要になりますから、細かいところまで要望を出していきます。