農と食をつなげる「6次産業化」のリアル

2018/7/20
2009年に農業経済学者の今村奈良臣氏が「6次産業化」を提唱してから、早10年が経とうとしている。
これまで長らく販売流通を農協に任せてきた農家にとって、加工品を作ったりレストランを開くといった「作る」フェーズにはなんとか取り組めても、小売りやマーケティングの知識が必要とされる「流通」を行うのは至難の業だ。
しかし今、自ら顧客とつながることで、新しい流通を作ろうとする農家が生まれつつある。

消費者と直接つながる農家たち

農業産出額に占める農協の販売取扱高の割合は、平成24年(2012年)時点で49%。この数字は昭和55年(1980年)の52%からほとんど変わっていない。
つまり多くの農家は、いまだに販路を農協に頼っているのが現状だ。
一方で、専業農家の中には、個人客に対して定期宅配を行い、6次産業化に成功している事例もある。
「くにさき農未来」代表の村田光貴さん
「私たちは育てたお米を直接販売し、さらにお米から作る加工品も自ら製造・販売しています。もちろん直接販売することによる大変さもありますが、1人1人のお客さまとじっくりつながっていく方が、結果的にリスクが小さいのではないかと考えたのです」

直接支えてもらう強さ

村田さんがこうした考えを持つようになったのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。
もともと岩手県陸前高田市で営んでいたリンゴ農園や野菜畑は津波に全て流され、再開の見込みが立たない状態だった。
失意の中、偶然訪れた国東市の雰囲気が陸前高田に似ていたことから移住を決意。
そのとき支援してくれたのは、行政や公的機関ではなく、陸前高田時代にひいきにしてくれていた個人客たちだった。
「震災が起きた際にたくさんのお客さまが『また農業が始められるように』と義援金を送ってくださったんです。
総額にすると数百万円にもなり、そのおかげで新しく国東で農業を始めることができました。この経験があったからこそ、流通業者を介さず直接つながることで単なる農家とお客さま以上のつながりを作っていきたいなと」

「先に設備投資」の理由

村田さんが果樹園から米作りに転向するにあたって意識したのは「設備投資を躊躇しない」ことだ。
もともと米は、野菜や果物に比べて大型の農機具を必要とし、それを収納する倉庫も建てなければならない。
村田さんが建てた倉庫には、農機具が所狭しと並ぶ
加えて村田さんは、生産から加工までを見越して、販売資格を獲得したり、販売許可を満たす加工場造りに投資をしている。
「普通の会社だとビジネスは小さく始めますよね。でも、農業の場合は小さく作って大きくする方が大変なので、将来を見据えて初めからしっかり設備投資をしようと考えました」

次は自分が受け入れる側に

村田さんの積極的な設備投資の裏には、別の理由もある。