農と食をつなぐ「フードキュレーター」とは、どんな仕事か

2018/7/19
2018年5月。大分県国東市にある300段もの石段を登った先にあるお寺の一角で、食のイベント「DINING OUT」が開催された。
NewsPicksでも既報の通り、DINING OUTは、地域の歴史と風土を感じる場所で開かれる野外レストランだ。
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参加費は1人10万円を超えるが、2012年のスタート以来、満席が続き、自治体の観光担当も誘致合戦を繰り広げている。
その特徴は、長い期間をかけて地域の歴史や魅力を丹念に洗い出すことだ。今回の国東のイベントでも、わずか2日間の本番のために半年前から準備を進め、地元の人も知らないような伝統ある食材を用意した。
結果として「地元の人が地域への誇りを取り戻すイベント」が実現されている。
DINING OUTでは、サービスも地元の人たちが中心となって行う
地域創生を目標として掲げるDINING OUTだが、準備期間を通してもうひとつの役割も持っている。
それが農家とシェフを結びつける「フードキュレーター」の仕事だ。フードキュレーターとは、産地の魅力と生産者の思い、食材の特性を知り尽くしたうえで、他とは違う一級品の食材を求める料理人や企業と食材をつなげる仕事だ。

シェフの大半は産地を知らない

DINING OUTでは、フードキュレーターとシェフが食材調達のために、2泊3日の旅程でみっちり産地をめぐる。
参加するシェフは、全国で「スターシェフ」と評判の料理人ばかり。名だたるシェフたちがDINING OUTで腕を振るう理由のひとつに、この産地巡りがあるという。
シェフと共に農家のもとを訪れるフードキュレーターの宮内氏(左)
自身も数年前まで星付きのレストランでスーシェフ(副料理長)を経験し、現在はDINING OUTでフードキュレーターとして活躍する宮内隼人氏はこう語る。
「ほとんどの料理人やシェフは、多忙のため取引先開拓のために産地へ足を運ぶ時間はとれないものです。東京のレストランのほとんどは築地市場経由で仲卸人や小売店から食材を調達しており、市場に出さない農家から農家から直接仕入れたくてもルートを持っていない人が多い」
しかし、市場の仲買人は、いつどんな食材が出てくるかといった流通面の知識は豊富だが、調理経験があるわけではない。「どのレストランにどの食材が合うか」といった点を見抜くことも難しい。
DINING OUTならではの産地巡りを楽しみにしているシェフも多い
そのため宮内氏は料理人時代から、レストランが自らの特性に合った食材を使うために、生産者と料理人をつなげる存在が必要だと感じていたという。
「それぞれの食材で有名な産地があるものですが、『おいしさ』はもっと多様性があるものですよね。Aというレストランにはマッチしなくても、Bというレストランのシェフにぴったりハマる食材もあるはず。その多様性を維持するには、生産者と料理人の間をとりもつ存在が必要なんです」

産地とシェフを結ぶ仕事

こうした思いから生まれたのが「フードキュレーター」という仕事だ。
DINING OUTの仕事を通して全国各地を巡り、ユニークな生産者に会いに行く。そしてその食材とマッチしそうなシェフがいれば、感想を交えて情報をシェフに伝える。
なかなか気軽に産地を巡ることができないシェフに代わって、その料理に合った食材を見つけるフードキュレーターの仕事は、宮内氏のようにもともと料理人としての過去があってこそ成り立つものだ。
生産者のこだわりは土作りから始まっている
「現地で生産者さんたちから話を聞き、採れたての食材を口にすると、どのシェフも少年のような素直な感覚で驚いたり喜んだりしています」と宮内氏は語る。
その土地の空気を感じ、食材と向き合うことで、シェフが事前に構想していたメニューを変えてしまうほどの力があるという。
現に、DINING OUTは参加シェフからも評価が高い。冒頭で紹介した、国東市のイベントでシェフを務めた「茶禅華」の川田智也シェフは、現地で生産者を訪ねながらこう語った。