人工知能が世界にもたらす変化

人工知能(AI)の専門家に話を聞けば、誰もが口をそろえて「AIは世界を根本から変える」と言うだろう。だが、具体的にどんなふうに変えるのかと問うと、おそらく喧嘩が始まるはずだ。
スマートマシンは、人類に破滅をもたらす脅威なのか。あるいは、たっぷり余暇がある幸福な未来の鍵を握るものなのか。その点については、AI分野を代表する研究者たちの意見は割れている。
ロボットは、大多数の人の職を奪い、ひどい格差をもたらすのだろうか。それとも、現在の退屈な仕事や汚れ仕事に代わって、より良い新たな仕事を生みだしてくれるのだろうか。
この問題をめぐっては、米国屈指の頭脳を持つ人たちが論戦を繰り広げている。専門家ではない私たち一般人も、人類の暮らしを変えるこの最重要テクノロジーの可能性を理解する望みはあるのだろうか。
そこでおすすめするのが、「ビッグ・シンク(Big Think)」サイトがこのテーマに関してリストアップした、魅力的な推薦書リストだ。
ビッグ・シンクの記事は「AIの世界では、豊かな歴史や過激な憶測、そして好奇心をかきたてるフィクションなどに飲みこまれ、途方に暮れてしまうこともあるだろう」と述べる。しかし、これらの推薦書は「この驚異的なテクノロジーについて、多角的な視点を与えてくれるだろう」と約束している。
1.『人工知能は敵か味方か パートナー、主人、奴隷──人間と機械の関係を決める転換点』ジョン・マルコフ著(邦訳:日経BP社)
「作家でジャーナリストのジョン・マルコフは、ロボティクスと人工知能の豊かな歴史を詳しく綴っている」とビッグ・シンクは述べる。すべてが良いニュースというわけではない。
マルコフは「人類の知的能力を拡げるまさにその技術が、人類に取って代わる可能性もある」と警告しつつ、AI技術の明るい未来とパラドックスを深く掘り下げている。
2.『われはロボット』アイザック・アシモフ著(邦訳:早川書房)他、ロボットシリーズ
SFは技術オタクの暇つぶしだと思っている人もいるかもしれないが、世界屈指の頭脳を誇る人のなかには(イーロン・マスクもその1人だ)、現実世界のテクノロジーやその社会的含意をめぐる思考を刺激する、驚くほど有益な手段だと主張する人もいる。
ビッグ・シンクも、この古典的シリーズを次のように推薦している。「SFはしばしば、未来を予想するだけでなく、それに対する備えをするための手段にもなる」
3.『How to Create a Mind』レイ・カーツワイル著
著名な(そして物議を醸しがちな)未来学者のカーツワイルは、大胆な予想やショッキングな問題を厭わない人物だが、この本では、人間よりも賢いマシンをつくるプロジェクトについて理解しやすいやり方で紐解いている。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のラファエル・リーフ学長は本書についてこう語っている。
「レイは、圧倒的とも思える課題に理知を駆使して挑むなかで、我々の知能を凌駕するような非生物由来の知能の構築は不可能ではないということについて、最終的に読者を納得させている。洞察力に満ちた内容だが、とっつきやすく、楽しめる本でもある」
4.『スーパーインテリジェンス──超絶AIと人類の命運』ニック・ボストロム著(日本経済新聞出版社)
オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロムが著した本書について、ビッグ・シンクは「きわめて野心的な本書は、すでに古典になっている」と評している。
ボストロムはこの本のなかで「人類の知能を凌駕するマシンの構築」というカーツワイルの夢の実現が意味するところを考察している。本書で提示されているのは、決定的な答えではなく、むしろ思考を刺激する疑問だが、このテーマについて考えを深めるきっかけになるはずだ。
5.『Life 3.0』マックス・テグマーク著
MITで物理学を研究するテグマーク教授が書いた本書について、スーパー起業家のイーロン・マスクは次のように語っている。
「生命、知能、意識をめぐる、地球と宇宙の偉大なる未来の探求に関して、数々の課題と選択肢を提示する魅力的なガイドブックだ」
6.『Robot Ethics』パトリック・リン、キース・アブニー、ジョージ・A・ベーキー編
ロボットは、工学上の課題というだけではない。倫理上の課題でもある。
われわれ人類は、みずから開発したロボットとどう付きあうべきなのか。「ロボットによる戦争」にどのような制限を設けるべきか。そもそも制限を設けることは可能なのか。
マシンが倫理観を持つようにプログラミングするべきか。そうであるなら、誰の倫理観を使うべきか。ロボットが狂ったり危害を及ぼしたりしたら、誰が訴えられるべきなのか。
著名な専門家の論文をまとめた本書は、そうした厄介な疑問を掘り下げて考察する1冊だ。
7.『人工知能──人類最悪にして最後の発明』ジェイムズ・バラット著(邦訳:ダイヤモンド社)
カーツワイルのようなテクノロジー楽観主義者に対抗する勢力を探しているなら、AIの招く危機に重きを置いた悲観的な本書を読んでみるといい。
スカイプ創業者のジャン・タリンは、本書についてこう語っている。「今世紀の、そしておそらくはその先の時代のもっとも重要な問題、つまり人類という種が生き延びられるか否かをめぐる痛烈な1冊だ。SFだったらよかったのだが、そうではないことを私は知っている」
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もっと技術的なことに興味があり、AI開発の核心を扱ったおすすめ本を探している方は、ビッグ・シンクの記事全文を読み、ここで紹介していない推薦書もチェックしてみてほしい。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman/Contributor, Inc.com、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:CookiesForDevo/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.