企業の未来を描くスキルとは。「次世代CFO」の作り方

2018/5/18
CFO(chief financial officer)という役職は、その名の通り「財務の最高責任者」。だが近年、急成長を遂げるベンチャーを中心に、従来の枠を超えて経営に関わる“次世代CFO”が増えている。これからのCFOのあり方とは。著作『デジタルCFO』で次世代CFOについて論じたEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの髙見陽一郎氏と、理想のCFOを求めてきた株式会社じげんの代表取締役社長・平尾丈氏がそれぞれの立場から語った。
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CFOの使命は“企業価値の極大化”

──「CFOの業務」は極めて幅広く、企業の規模やステージによって役割も異なります。お二人にとってCFOとはどんな存在でしょうか。
髙見 日本では、CFO=最高財務責任者と訳されるのが一般的ですが、単に「ファイナンスのプロ」という専門家ではなく、「企業のリーダーの一員であり、ファイナンスのリテラシーも備えている人材」だと考えています。
 具体的には、自社の事業と内外の経営環境をよく理解し、自社の戦略策定、意思決定に関わること。また、戦略実現のために仕組みやプロセス、インフラを構築することも必要ですし、社内外の利害関係者とのコミュニケーションも大切です。
 これらを通じて“企業価値を極大化”できる人材であることが、CFOの理想像といえるでしょう。さらにいえば、CEOに何か事故が起こったとき、その日から一時的にでもトップの代わりを担える。そういった責務がCFOにはあると思います。
平尾 私が経営者としてCFOに求める役割を考えても、かなり範囲が広いです。実は、株式上場前から100人以上をCFO候補として面接したのですが、私の思い描くCFO像にピッタリ当てはまる方を見つけることができず、役職自体設けていなかったほどです。
──株式会社じげんで初のCFOに就任したのが、上場後の2016年に入社した寺田修輔氏ですね。まず経営戦略部長として参画し、その後、CFOに就任されます。
平尾 細分化された専門業務に特化されている方だと、ビジネスの総論と各論を行き来する議論についてこれないこともありますが、寺田はこちらの期待を超えてきたので、一緒にビジネスを設計することができると思ったのです。
 じげんの場合はもともと小さなスタートアップからはじめたこともあり、以前の私には「CFOがいなくても何とかなる」という考えがありました。そのため、構造的に「平尾とthe others」という経営になりがちでした。
 ただ、会社の規模が大きくなるほど、経営に関して他者から進言してもらう機会は減っていきます。「代表者がすべてを決める」スタイルの経営に、次第に問題意識を感じるようになっていきました。
 そこで、私と違う強みを持った経営人材が必要だと思い、本格的にCFOを求めました。「the others」ではなく「another」として私と議論を戦わせる人材が必要だったのです。そこからCxO制度を取り入れていったという経緯です。
髙見 どんなに優秀な経営者でも、人間の思考には限界があります。意思決定の質を上げるためには健全な意思決定プロセスが必要です。
 違う角度からの視点を提供したり、牽制してくれたりするCFOがいるというのは、企業にとって極めて重要なことですね。
平尾 そうですね。ボードメンバーはお互いが議論を戦わせる発射台であり、知見を結晶化させる相手という感覚です。最終的には、その会議体の中で意思決定していくという制度で現在は経営を行っています。

CFOは「Forecast」(予測)を語る

──CFOの役割は、過去と現在で変化しているのでしょうか。
髙見 CFOの本質的な役割そのものが変わったとは考えていません。先ほど述べたように、企業価値の極大化に寄与するのがCxOの使命であり、CFOはその一員。過去も現在も同じです。
 ただ、日本におけるCFOはこれまで「ファイナンス」という部分が強調されすぎて、『財務』的な側面から語られることが多いように感じています。
平尾 私が寺田を面接したときの話ですが、「御社のエクイティストーリーを教えてください」などと逆に多くの質問をされて、ビジネスについて深い議論になり、「この人はビジネスの本質を見る目がある」と感じたことがCFOに据えたひとつの理由です。
 じげんのボードメンバーには、自分の専門性だけでなく、経営全体について多角的な議論ができることを求めます。だからCFOは事業サイドに詳しくなければいけないし、人事についてもわかってなくてはいけない。
 髙見さんがおっしゃったように、専門性は強みの違いでしかなくて、その中でファイナンスにおける最高な有識者がCFOであると、そう定義しています。
11期連続で増収増益を記録し、時価総額1000億円を超えたじげん。戦略的M&Aを成長の原動力とし、それを推進しているのが平尾氏(左)とCFOの寺田修輔氏(右)。
さまざまな専門性を持つCxO陣のなかで、CFOに特に期待されることは?
髙見 本来ファイナンスというのは、自分たちの会社がどう動くか、どう動かしていくかを決定するためのツールです。
 たとえば記帳をするにしても、それは「今年、うちの会社はうまくいった」という過去を確認する目的だけではないはずですよね。「次にどうするか」を考える材料とすることが本質です。
 こうした経営に必要な計数情報を、迅速かつミスリードしない程度の正確さで提供したり、情報の分析や解釈をほかの経営陣にコミュニケーションしたり、という役割は変わらず重要でしょう。
 逆に言うと、CxOの中で、こうした機能を果たすことができるのはCFO以外にはいないと思います。
平尾 そうですね。CFOの“F”はFinancial(財務)だけではなくて、数字を元に未来を語るという意味でForecast(予測)という役割があると思います。
 投資家の方々は「現在いい会社」ではなく、常に「これから伸びる会社」を探しています。CFOには、資本市場に未来を語ることで企業価値を極大化するという重要なミッションがあります。
 実際、寺田がCFOとして最初に果たした大きな仕事も、上場後初の「中期経営計画をつくる」という経営戦略に深く突っ込んだ仕事でした。そこで、彼は実に見事なForecastを提出してくれました。
髙見 まさに、そういった人材が増えていくことが重要です。私はファイナンスで扱う「数字」というものを考えると、考古学の穴掘りと似ていると感じるんです。
 たとえば地面を掘って、何かのカケラを見つけたとしますよね。そのカケラをある人が見れば、「単なる石ころ」。しかし、仮説をもって見る人にとっては、古代の人たちの生活を示す遺物に映るかもしれません。
 同じように、数字も扱う人によって情報の価値は変わります。CFOにとって肝心なのは、数字から見いだした情報をどう未来に向けていくかということではないでしょうか。

「スコアキーパー」を脱するには

──これからのCFOは、具体的にはどんなスキルが求められるのでしょうか。
平尾 それは企業のフェーズごとに変わってきます。例えば上場前のベンチャーであれば資金調達が求められるし、上場企業であれば資本市場とのコミュニケーションが命題です。
 どんな仕事をしてほしいかは、各社によって異なります。その時点において、企業価値を高める最適な手段が変わってくるからです。
髙見 EYではファイナンス部門の役割や機能を4象限に区分(下図参照)し、取引を正しく記帳するなど従来のファイナンス部門に求められていた役割を「スコアキーパー」と定義しています。
 ファイナンス機能のひとつであるアカウンティングは、もともと過去の記録を正しくつけて、それを振り返るための、スコアキーパーの役割から始まっているわけです。それがビジネスの多様化やニーズの進化で拡大し、4象限の形に広がってきた。つまり、「アカウンティング」から「ファイナンス」に役割要求が広がってきた。
 ただ「企業価値を高める」という観点においては、CFOがこのスコアキーパーの領域に注力している限りにおいては、まったく成果は出てきません。
 これからのCFOは、スコアキーパーからいかに他の3象限へと進出していくか、経営の意思決定に関わっていくかが問われるでしょう。なかでも「ビジネスパートナー」の部分のスキルが強く求められるようになっていくと思います
──では、CFOが「ビジネスパートナー」になっていくために必要なスキルとは?
髙見 CFOは組織のリーダーの中でも、企業価値や企業戦略について、客観的な事実と情報=数字をもって語る必要があります。
 そのためには、事業経営者としての自社ビジネスや事業環境の理解はもとより、仮説構築力と検証力、分析力、コミュニケーション能力といった、いわゆるソフトスキルを磨くことが非常に重要でしょう。
 また、こうしたソフトスキルを最大限に発揮するために必要となるのが情報であり、そのもとになるデータを迅速に収集したり、情報を分析する足がかりを与えてくれたりするのがテクノロジーです。
 様々な新しい技術が驚くようなスピードで登場し進化している現代において、すべてのトレンドを追いかけるのは難しいことですが、何が自社や自部門組織の競争力を強化するうえで役に立ちそうかというアンテナは常に張っておく必要があります。
平尾 寺田の場合は、前職で証券会社で不動産セクターの株式調査業務を担当しており、資本市場とのコミュニケーション能力やファイナンスに関する知識は身につけていましたが、一方でITに関してはそこまでの経験がありませんでした。
 じげんはIT企業ですから、寺田がついてこれるのか疑問があり議論も重ねたのですが、結果として問題ありませんでしたね。
髙見 やはり、「何のためにその仕事をしているのか」をきちんと考えて、必要に応じてスキルを身につけていくという姿勢が求められているのでしょう。
 キャリアパスの観点からは、以前、日本と欧米のCFOの属性をリサーチしたところ、日本は経理または財務出身者が多くを占めていたのに対し、欧米企業のCFOのキャリアパスは事業サイドを経験している人が多かったり、投資銀行やコンサルタント出身者もあったりなど、より多彩でした。
 これはどちらが良い・悪い、あるいは欧米型を見習うべきという単純な話ではなく、CFOという役割を果たすために、何か軸となる領域(知識・経験)を持つことが重要だということを示唆していると考えています。そのうえで、必要なところを伸ばす、横に広げていけばいい。
平尾 スコアキーパーの役割から、どうやってドメインを変えていけるか。そういう意味では、今は時代に合ったCFOのロールモデルが少ないように感じますね。CFOになりたいと思っている人にとっても、「どうしたらいいのか」が見えにくい。寺田にはそうしたロールモデルになってほしいとも思っています。

テクノロジーはCFOの役割を変えるか

──先述のスコアキーパーの役割は、テクノロジーで置き換え可能になりつつあるように思えます。ERPやRPA、AIなどの技術の進歩は、CFOの役割をどう変えるでしょうか。
髙見 スコアキーパーが担ってきた仕事は、テクノロジーによって減っていくことは間違いないでしょう。ただし、世の中のニーズやディマンドは、増えることはあっても減ることはありません。テクノロジーを使って、どんどん依拠せざるを得ないのです。
 決してテクノロジーファーストになる必要はありませんが、テクノロジーを使いこなすことで、より価値の高い仕事に進出していく足がかりになる。
 増え続ける業務をどれだけ極小化して、その他の3象限にどれだけリソースを振り分けられるかが、これからのCFOの分岐点になっていくはずです。
平尾 IT業界に身を置く私としては、同じテクノロジーを使っている競合間でも、“デジタルプラットフォームの使い方”による差分が非常に大きく開いてきていると感じます。
 たとえばGoogle Analytics やGoogle AdWordsは多くの人に使われていると思いますが、使い方の巧拙によってパフォーマンスが100倍以上違うことも珍しくない。
 もちろん、その差分があるからこそ私たちが競争に勝てているという側面はありますが、マーケット全体を「共創」していくという観点からは、テクノロジーの進歩から遅れることは問題だと思います。
 こうした意味からも、数字に強く、テクノロジーについて精通し、それを世の中のビジネスの課題に合わせて広げていく役割の人が必要です。まさに「デジタルCFO待望」の時代が来ているのではないでしょうか。
(構成:小林義崇 編集:呉琢磨 撮影:竹井俊晴)
来る6月15日、本対談に登場した髙見陽一郎氏を「コーチ」として、じげんCFO寺田修輔氏をはじめ、急成長ベンチャーを牽引する“次世代CFO”が一堂に会する少人数限定のスペシャルイベントを開催します。企業成長とCFOのあり方について学びたい方、自らのステージを高めたいと考えるCFOのご参加をお待ちしています。