記者採用対決。強敵ビジネス・インサイダーを知る7つのルール

2018/5/12
2018年4月。NewsPicks編集部は、オリジナルコンテンツを取材・執筆できる記者・編集者について、初めて公募を開始した。
この公募開始に伴い、多くの部署を巻き込んだ採用イベントの企画会議が始まった。このときはまだ、社内だけでなく、まさか社外のメディアまで巻き込むことになるとは想像だにしなかった。
デジタル経済メディアとして、近年、勢いがあるのが、昨年1月に発足したBUSINESS INSIDER JAPAN(BI)だ。
彼らの動向は、正直、全く気にならないといえばウソになる。いや、彼らだって、NewsPicksを少なからず意識しているはずだ。
「どちらが新時代の記者・編集者にとって魅力あるメディアか、公開トークバトルでもやりませんか?」
ライバルの動向をそれとなく知りたいという下心はうまく隠しつつ、BIの浜田敬子・統括編集長に、ダメ元で打診してみたのである。
有り難いことに、「面白そうですね」と即答でOKのお返事をいただくこととなった。
こうして4月25日、NewsPicks Roppongiで実現してしまった合同イベント。その当日の様子について、本日より4回にわたってレポートしていく。
初回は、そうしたトークバトルという本題に入る前に、まずはBIという新しいメディアを解剖していこう。
滅多に聞くことのできない、BI統括編集長の浜田氏と、副編集長の伊藤有氏によるプレゼンを、余すことなくお届けする。

BIを紐解く「7つのキーワード」

司会:大室Pro 本日はお足元の悪い中、お集まりいただきありがとうございます。
前代未聞の採用イベント、NewsPicks × BUSINESS INSIDER JAPAN「ジャーナリスト2.0」を開催します。
3本勝負、対バン形式で、両社の取り組みをアピールしていただきたいと思います。
大室 ちなみに今日は、ジャーナリストや編集者を目指す若い方たち向けのイベントだと思っていたんですが、会場を見渡すと、どうやらかなり玄人筋の人たちがちらほら見えて、ちょっと不穏な空気も漂っていますけれども(笑)。
その辺も踏まえて、後半は、質疑応答も含めて進めていきたいと思います。
金泉 NewsPicks編集長の金泉です。今日はまず1本目に、BUSINESS INSIDER JAPANの創刊1年ということで、統括編集長の浜田敬子さんにプレゼンをしていただきます。その後、私と浜田さんのトークバトル(笑)です。
2本目は、新人社員バトル。入社1年目の記者同士による対談です。
そして最後、3本目は中堅の記者同士、2対2のバトルロワイヤル。ここでは、「ウケた企画、スベった企画」をテーマに進めます。
皆さん、お楽しみいただければと思います。それでは、浜田さん、よろしくお願いします。
浜田 皆さん、こんばんは。BUSINESS INSIDER JAPANの浜田と申します。
伊藤 副編集長の伊藤でございます。
浜田 よろしくお願いします。皆さん、恐らく、NewsPicksさんのお話を聞きたいと思って来られたと思うんですけれど(笑)、ちょっとだけ私たちについてプレゼンをさせてください。
本当に、懐の深いNewsPicksさんでね。時間を15分も取っていただいて。
伊藤 こんなにもらっていいんですか、みたいな(笑)。
浜田 なので、気合いを入れて資料も作ってきました。お題は、「BUSINESS INSIDERを知る、7つのキーワード」です。
BUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長の浜田敬子氏(右)と伊藤有・副編集長(左)

#01「ミレニアル」を意識する

浜田 7つのうち、最初に出てくる私たちの大事なキーワードは、「ミレニアル」。
もともとBUSINESS INSIDERは、10年前にアメリカのシリコンバレーで誕生した媒体です。
アメリカでは、ミレニアルが非常に人口的に力を持っているんですね。政治的にもそうですし、購買力もある。こうしたミレニアルをターゲットにした経済媒体として始まりました。
日本版は、去年の1月にローンチしました。現在は世界17カ国、全ての国でミレニアルをターゲットにして、ミレニアルのための経済メディアを作っています。
インタビュー相手も、ミレニアル世代を中心にしています。ミレニアルの起業家だったり、大企業の中でもミレニアルの悩みだったり。
私たちの間では「ミレニアルフィルター」と言っているんですけど、例えば私が編集部で2番目に年上で、50代なんですが、私たちが知っている言葉を、20代の子は知らなかったりする。だから、20代でも分かる言葉で、経済ニュースを報じることを心掛けています。
世代間対立の起きやすいテーマもあります。例えば「就職問題」。
こうしたテーマは、「誰の目線で、何を報じるか」を、非常に大事にしています。
例えば、リストラが話題の銀行。「もう、未来はないよ」と言われて、若手が次々と辞めていますけども、世の中の若手社員の目から見たら、銀行って今、どう見えるのか。そういった視点を大事にしています。
「転勤」もそうです。これ、ハッシュタグ「#転勤、嫌だ」で記事を書いたら、Twitterで拡散されました。でも、「そんなの甘いよ」と、上の世代から見れば思ってしまう。
じゃあ、若い人たちはなぜ、転勤が嫌なのか。
例えば、ヤフトピ(ヤフートピックス)でヒットした「高学歴女子はなぜ今、あえて一般職を目指すのか」という記事。
これも、うちの編集部のインターンの大学生たちが、「周囲には早慶に通っているのに、一般職で就職したいという人が多い」と言っているのを聞いて、なぜなんだろうと取材をしてみました。すると、「長く働きたいからこそ転勤があったら困る」と。
やっぱり、落ち着いて、長く働ける環境で働きたい。そんな若い彼ら、彼女らの目線から報じた記事でした。
このほか、「仮想通貨」についても、うちは割と早くから、去年の夏ぐらいからずっと報じていました。なぜかというと、うちの編集部の横に、「GIZMODO」とか「Lifehacker」の編集部があって、みんな早くから仮想通貨を持っていたんですよ。
「上がった!」とか言っていて、「え?みんな、持ってるんだ」と思って。
ある統計では、今、20代の男性の14%が仮想通貨を持っていると言われています。それで取材をしてみると、実際に、みんな意外と持っている。
彼らは、中央集権的な価値観に、嫌悪感がる。
ある20代は、「ビットコインは僕らのノアの箱舟」という名言を吐きました。
大人から見ると、「こんな危なっかしいものを、よく買うな」と思いがちかもしれませんが、彼らの身になってみれば、年金制度が破綻するかもしれない日本で、仮想通貨に手を出さざるを得ない。
そういう視点で報じてきました。

#02「英訳してくれ」といわれた記事

浜田 2つめのキーワードが「グローバル」。
グローバルメディアとして、先に述べた通り、現在、世界17カ国で展開しています。日本は、14カ国目にできました。
この編集部にきて面白いなと思ったのが、毎日、夕方になると、「ベスト・オブ・UK」とか、「ベスト・オブ・ポーランド」といって、各国編集部の編集長が「今日のお勧め記事はこれ」といってリストをメールしてくるんです。それを見ているだけでも面白い。
逆に、日本から出した記事について、「これを英訳した記事が欲しい」と各国の編集部から言われるんですが、その視点が、これまた意外と面白い。
例えば、「なぜ今、20代の女子は、早婚願望なのか」という記事の英訳が欲しいという依頼がオーストラリアからきたり。
それから、浅草にある、創業70年の「ペリカン」というパン屋さん。ここになぜ、今も行列ができるのか。これは、アメリカから英訳で欲しいと言われたり。
*NewsPicks関連特集「伝説のパン屋ペリカン」
【実録】商品はたったの2種類。75年続く「伝説のパン屋」の秘密
浜田 そういった形で、世界から日本がどう見られているかについても、普段から意識しています。

#03「レガシー✕テック」が流行

浜田 3番目のキーワードが「テクノロジー」。副編集長の伊藤は、PC・IT週刊誌「アスキー」の元編集長代理なのですが、伊藤を中心にテクノロジーを取材していこうと意識しています。
BUSINESS INSIDER自体、最初は「SILICON VALLEY INSIDER」という、シリコンバレー発のテックニュースから始まった媒体なんですね。
今もアメリカでは、シリコンバレーと、金融街のウォール街に、記者を張り付けています。私たちも、テーマは「テック×●●」をすごく意識して、テクノロジーが私たちの生活や社会をどう変えていくのか、ベースのテーマとして持っています。
例えば、「テクノロジー×ファッション」。AmazonやZOZOもそうですよね。
それから「テクノロジー×コンテンツ」。今だと、ネットフリックス。この辺はNewsPicksさんとかぶるテーマなので、後でお話ししたいと思います。
他にも、「テック×モビリティ」とか、最近だと「レガシー業界×テクノロジー」というのが流行っています。
例えば「リテック」。「不動産業界(Real Estate)×テクノロジー」で、リテックですね。あるいは「建設業界(Construction)×テック」の「コンテック」などもそうです。
こうしたいわゆるレガシー、非効率な業界に、どういうふうにテクノロジーが入ったら、何が変わるのか。それらは、私たちの重要なテーマになっています。
浜田敬子(はまだ・けいこ)Business Insider Japan統括編集長
1989年、朝日新聞社入社。前橋支局、仙台支局、「週刊朝日」編集部を経て、99年から「AERA」編集部。2004年より副編集長。その後、編集長代理を経て、AERA初の女性編集長に就任。2017年4月よりBUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長に就任。

#04 記事にも「ダイバーシティ」を

浜田 4番目のキーワードは、「ダイバーシティ」。
編集部には、さまざまなメディア出身の編集部員がいます。私自身は17年間、「AERA」という雑誌をやってきました。副編集長の伊藤も、最初は雑誌ですが、Webも経験しています。
新聞記者や通信社の記者出身もいます。いろんなバックグラウンドの記者が集まっているのが、逆に強みなのかなと思っています。
もう1人の副編集長は、ブルームバーグでずっとM&Aと金融を担当して来ました。この他、例えば労働問題、働き方に強い元新聞記者も。
平均点が高い記者というより、みんな何かしら得意なものがあって、AO入試で入ってきました、みたいな記者が集まるので、すごく面白い。
コンテンツのダイバーシティも、すごく意識しています。例えば、同じ事件でも、経済記者が見るのと、テック記者が見るのとでは、視点が全然違うな、という議論になっています。
例えば、スパコン開発会社「PEZY Computing(ペジーコンピューティング)」。逮捕された斎藤元章容疑者の会社ですけども、斎藤さんのことは、副編集長の伊藤が、ずっと取材をしていたんですよね。
伊藤 ペジーの斎藤さんは、AIの本を作っていたので、取材をそもそもしていました。ところが逮捕されたので、ちょっとこれは何か書かねばなるまいと。
浜田 一方で私は、斉藤さんのいろいろな情報を前から聞いていて、社会部的な興味があった。
でも、伊藤の目から見ると、この技術がどこにいくのか、という視点になる。
伊藤 この技術がなくなったら、結構まずいんじゃないかと。つまり、技術と、罪の部分を、別々に考えなきゃいけないんじゃないか。
なかなか大手メディア上では、こうした議論は出てこない。なので、これをBIとしてやろうということで、両方を書いたというテーマですね。
伊藤有(いとう・たもつ)Business Insider Japan副編集長/テクノロジー統括
2000年代初頭から大手IT出版社の雑誌、およびPC/IT週刊誌で活動。編集長代理を務めた後、現職。近年はAI/ディープラーニングの産業利用の現状と発展に興味持ち取材を続けている

#05 ニュースの価値は「速報にあらず」

浜田 次の5つめのキーワードとして意識しているのが、「ユニークネス(独自性)」。これはNewsPicksさんも、おそらく同じだと思う。なので、私たちもNewsPicksさんの視点を常に気にしているんですが。
というのも、速報では、やっぱりブルームバーグやロイターには勝てない。だからこそ、「自分たちのオリジナルは、どこで出せるだろうか」ということは、いつも考えています。
ニュースの価値は、これからは速報ではなくなると思っています。
浜田 皆さん、「JX通信社」という会社、ご存じですか? 「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」や、「FASTALERT(ファストアラート)」というサービスをやっていますよね。
私たちは、この会社を立ち上げた米重克洋くんという起業家を取材したんですが、ここはAIで情報をクロールしているので、めちゃくちゃ速い。NewsDigestのアップデートを見ると、どこの速報よりも、今、速く見られます。
私たちも、速報を当初はやっていたんです。何とかロイターよりも早く出そうと、記者会見場に張り付いていたんですけど。
伊藤 まあ、負けますからね。
浜田 負けます。
しかも、いつも他のメディアもみんな、同じものになってしまう。そんなの、ニュースとして価値があるんだろうか、と。
遅すぎればニュースは意味がないけど、二番手であっても、ユニークな視点をどう入れるか。どこにもない視点こそ、現代メディアの価値だと思っています。
例えば、コインチェックの仮想通貨流出事件の時は、早くから本社のあった渋谷に新人記者が張り付いていたので、コインチェック前に立っていた「保有していた人」を徹底取材したり。
あと、去年、有名になったYouTuberヒカル。これは実は、独占インタビューを取る予定になっていたのですが、その矢先に、あの「VALU炎上事件」が起きた。
そこで急遽、違う視点に切り替えて、独自性を出してこの事件を報じました

#06&07 渋谷、そして「変わり続ける」

浜田 6つめのキーワードが、「渋谷」。
なぜ渋谷なのかというと、今、渋谷・道玄坂の雑居ビルには、AIの若いエンジニアたちが、たくさん集まっているんですよ。これから会社を大きくしたいと思っている、ちょっと小さいスタートアップ系の人たちが、渋谷にまた戻ってきている。
伊藤 Googleまで戻ってくる。
浜田 そうなんです。それで、ちょっと出世すると、例えばコインチェックが新南口の新しいビルに行く。みんなやっぱり渋谷が好きで、渋谷駅周辺でぐるぐる回っているんですよね。
私たちも、「渋谷のメディア」ということに、こだわりたいなと思っています。
そして、最後の7つ目のキーワードが、「変わり続ける」。
紙と違って面白いのは、デジタルは「すぐにやってみよう」「駄目だったら、次」というふうに実験していって、どんどん変われることなんですよね。
例えば、記事が当たらなかったら、タイトルも変える。それがデジタルメディアに来て、面白いなと思ったところ。メディア自体として、どんどん変わっていくことで成長したい。
さて、ちょうどお時間になったので、次はNewsPicks編集長の金泉さんと、いよいよ「対バンバトル」です。ご清聴ありがとうございました。
*明日の「NewsPicks ✕ BUSINESS INSIDER JAPAN」編集長対バントークバトルに続きます。
(執筆:池田光史、撮影:加藤昌人)