ユーザベースグループには「NewsPicks」「SPEEDA」に次ぎ、第三の柱となるべく生まれた子会社「FORCAS(フォーカス)」がある。2017年8月の設立以降、未来のB2Bマーケティングの創造を目指し、急速な成長を続けている。FORCASは、どのように生まれ、どのような世界観を描いているのか。FORCAS代表の佐久間衡氏に話を聞いた。

SPEEDAから生まれた事業アイデア

――ユーザベースには、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」と、ソーシャル経済メディアの「NewsPicks」があります。ここに、グループ第三の柱となる、最先端のB2Bマーケティングプラットフォーム「FORCAS」が誕生しました。どのようにして事業を構想したのか、教えてください。
佐久間 私は、構造化や分析のオタクで、数学の研究者を目指していた時期もあるんです。だから、前職の証券会社でコーポレートファイナンスや企業分析の面白さに目覚め、その「分析の価値」を社会に広めたいと思うようになりました。
それを、証券会社で同僚だったユーザベースの創業者・梅田や新野に話すと、「ユーザベースが目指す世界観と同じだ。一緒にやろう」と言われ、2013年にユーザベースに入社。以降約4年間、SPEEDAの日本事業を担当していました。
SPEEDAの日本事業は、まさに私がやりたかった仕事。なぜなら、SPEEDAのお客様を、金融機関やコンサルティングファームから、事業会社に広めていくことがミッションだからです。これは「分析の価値」を社会に広めることそのものでした。
しかし、経営戦略の策定のために高額なWebサービスを利用するという事業会社は当時非常に少なかった。SPEEDAのユーザーを再定義し、事業会社に広げていくためにはこれまでの延長線上のやり方ではダメで、開発も、営業・マーケティングも、アナリスト・コンサルタントも、全部変わる必要がある。
それをメンバーと一緒に挑戦し、取り組んできました。
結果、SPEEDAのユーザーは大きく変わりました。以前は事業会社のお客様はかなり少なかったのですが、今は、新しくSPEEDAを契約してくださるお客様の半数以上が事業会社です。
――事業会社への取り組みの中でFORCASの構想が生まれたのでしょうか?
そうです。構想が生まれた背景には2つのストーリーがあります。
1つは、自分自身が欲しいと感じて形にしていったこと。もう1つはSPEEDAのお客様からの声でサービスの価値に確信を持ったことです。
1つ目のストーリーについて、具体例で説明します。
私は事業会社にアプローチするためのマーケティング戦略を立てるとき、SPEEDAをフル活用していました。例えば、M&Aを頻繁に実施している会社が、SPEEDAの既存顧客に多いことが分析で判明し、SPEEDAは「事業会社がM&A戦略を立案する」ニーズに対して価値が出せると分かった。
それなら、M&Aを頻繁に実施している会社をリストアップし、「SPEEDAはM&A戦略を立案していく際に、なくてはならないパートナーとしての価値が出せる」ことを訴求し、リード(見込み客)化し、契約締結を狙っていく戦略が取れます。
ほかにも、「新規事業戦略立案」「CRE戦略のソリューション提案」「アジア展開のアライアンス・パートナー戦略」など、「既存顧客の特徴で、かつSPEEDAの価値が出せるニーズ」をいくつも特定し、具体的な企業名までターゲティングすることで、小さな市場の独占を繰り返していきました。
ただ、この分析には膨大なエクセルワークが必要でした。仮説・検証を何度も繰り返す必要がありますし、何より「新事業創出に積極的に取り組んでいる会社」「アジア展開でアライアンス・パートナーを探している会社」などの情報を取得するのは非常に困難です。
しかし、SPEEDAを使えば、こうした会社をある程度の精度で特定することが可能なのです。
――FORCASは、その分析を効率化するサービスでしょうか?
そうです。既存顧客の特徴を見出し、同じ特徴を持つ見込み顧客をリストアップする。これを私は「今獲得しているマーケットと未来のマーケットを可視化する」とよく表現します。
どのような業界か、規模か、地域か、という比較的シンプルな可視化だけではなく、「新規事業創出に積極的に取り組んでいる」「広告宣伝費を増やしている」「グローバル展開している」「高成長を遂げている」など、さまざまな企業の特徴・戦略を含めて可視化。
これは、SPEEDAの構造化された企業データベースがあって、初めて可能になりました。その見込み顧客は、具体的な企業名まで特定されていて、優先順位も付いているので、マーケティングや営業の実行力が大幅に上がり、成果につながっていくのです。

価値を確信し、サービス開発を決意

――FORCASが生まれたもう1つのストーリーを教えてもらえますか?
私の実体験から、役に立つサービスになる自信はありました。実際に、このSPEEDAを用いた戦略の実行を通して、SPEEDA日本は4年間で契約数を3倍以上に伸ばし、大きく成長できました。
ただ、こうしたニーズが多く存在するかは分からない。“分析マニアのため”のニッチなサービスになる恐れもあります。
そこで、サービスの可能性を検討するために、まずはSPEEDAに「ターゲットリスト」という機能を追加しました。これは、企業の特徴からリストを作成できるシンプルな機能です。
すると、「この機能があるからSPEEDAを契約する」というお客様が何社も生まれたんですね。反応がとても良く、「これは価値あるサービスになる」と確信しました。
これは、私がユーザベースでやりたかった「分析の価値を社会に広める」ことそのもの。
SPEEDAを事業会社に広める取り組みで、事業会社に対して「経営戦略立案のための分析の価値」を広めることができた。次は、「営業、マーケティング戦略立案のための分析の価値」を広めていきたい。そうして、FORCASは生まれました。

最先端のB2Bマーケティング手法、ABM

このマーケティング戦略は、米国で最先端トレンドになっている「アカウントベースドマーケティング(ABM)」の考え方と類似していました。2016年当時、米国のB2Bマーケターの 圧倒的多数がABMのコンセプトを支持し、その実行のためのソリューションを求めていました(※)。必ずその流れは日本にも来ると考えました。
※SeriusDeisionsの2016年の調査で「70%超のB2BマーケターがABMの実行にフォーカスしている」と判明
ABMは簡単に言うと、「狙うべき見込み顧客を最初に具体的に特定し、そこから逆算して営業・マーケティング戦略を立て、圧倒的な生産性を実現するコンセプト」です。
サービスの価値を届けるべき潜在顧客を特定することで、その潜在顧客に届く活動以外はすべてやめることができ、その顧客に価値を届ける活動にフォーカスできる。
通常、B2B事業で顧客になる数は数十~数千社程度ですから、「直近一年で獲得する顧客候補」を具体的にリストアップすることは可能。この具体化が、マーケティング活動の実行の精度を上げ、生産性を飛躍的に高めるのです。
――マーケティングと営業の生産性を高めることがABMの本質ですか?
それだけではなく、ターゲットが明確になることで、営業やマーケティングを受ける側からしても、ムダな広告、ムダな売り込みが一切無くなることを意味します。
優れたサービスにとっては、狙うべきマーケットが可視化されることで、マーケットを獲得するスピードが飛躍的に上がっていく。
すなわち、FORCASを通じてABMが社会全体に広がることで、「ムダな広告、営業活動がなくなり、サービスを必要としている人に最速で届く」世界が実現できると考えています。

最先端テクノロジー×ユーザーとの共創

――ニーズを確認し、世の中の動向にも後押しされ、FORCASは生まれたのですね。サービスを作るにあたって、こだわった点を教えてください。
「最先端のテクノロジー」と「ユーザーとの共創」の2つです。
まず、最先端のテクノロジーですが、SPEEDAやNewsPicksでアルゴリズム全般、特に、自然言語処理、機械学習、AIを用いたアルゴリズムをリードしてきた北内がメンバーにいます。
日本企業では珍しいと思うのですが、彼はCAIO(Chief AI Officer)という役職に就いており、「企業情報のさらなる構造化」を進めることで、FORCASの価値を高めています。たとえば、企業の開示資料の自然言語処理と機械学習により「働き方改革を推進している企業」などの特徴を判定しています。
FORCASは、最先端テクノロジーを用いた「今しかつくれない」サービスなのです。
もう1つは「ユーザーとの共創」。
FORCASは、これまでにない「未来のマーケティングの創造」にチャレンジしているので、お客様と一緒に取り組んでいくことは欠かせず、共に挑戦者であると考えています。
実際、お客様との議論の中で生まれた機能は多く、FORCASのエンジニアは「◯◯さん(お客様)のためにこの機能をつくる」という明確な目的を持っています。そして、開発後は直接フィードバックをもらいます。
FORCASは、ユーザー(お客様)と企業という垣根を無くし、「未来のマーケティングを創造する」というビジョンを共有する一つのコミュニティにしていきたいと考えています。

圧倒的な成長と自由の両方を実現

――最後に、どのような方にジョインしてもらい、どのような会社に成長させたいですか?
圧倒的な成長と、圧倒的な自由の両方を実現する会社にしていきたいです。自由であるからこそ創造性が開放され、パフォーマンスが向上するという流れをつくりたい。
これはユーザベースグループ全体のバリューでもあるのですが、その中でもっとも尖った会社でありたいです。「こんなに自由に挑戦していいの!?」と驚かれるくらい、ユーザベースグループ全体のバリューを、FORCASでも牽引していきたいと思っています。
FORCASのメンバーは、私に承認を求めることはほとんどありません。それぞれが自分の感性を信じた意思決定をしています。自由に挑戦し、たくさん失敗し、時には成功する。それを繰り返しながら、我々が目指す「未来のマーケティング」が少しずつ形を帯びていく。
私はこの後、米国に長期出張に行きます。「未来のマーケティングの創造」のためには、マーケティングの最先端をいく米国での成功が不可欠。最速で米国市場に挑戦するために、実はすでにFORCAS USAを設立準備中です。
自由に、大胆に、挑戦する。そのバリューとFORCASが描く世界観に共感し、共に熱狂したいと少しでも感じてくれた方は、ぜひ一度話を聞きに来て欲しいです。立ち上がったばかりのFORCASを、ユーザベースグループ第三の力強い柱にすべく、最高の挑戦したい方をお待ちしています。