「最高デジタル責任者」がやるべきことは、デジタルトランスフォーメーションではない
NEC | NewsPicks Brand Design
2018/4/24
デジタルを活用した業務変革「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の実行を標榜する企業が増えてきた。世界最大のタイヤメーカーであるブリヂストンもその1社だろう。単なる「物売り」ではなく、移動を支援するソリューションプロバイダーへと変貌を遂げるため、2017年1月に「デジタルソリューションセンター」を設置。改革の最中にいる。
このミッションの陣頭指揮をとるのが、ブリヂストンにとって初のポスト「CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)」を務める三枝幸夫氏。開発畑を長く歩んできた技術屋の三枝氏が手がけるDXとは何か。NECのCMOとして企業のDXを支援する榎本亮氏との対談でひもとく。
このミッションの陣頭指揮をとるのが、ブリヂストンにとって初のポスト「CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)」を務める三枝幸夫氏。開発畑を長く歩んできた技術屋の三枝氏が手がけるDXとは何か。NECのCMOとして企業のDXを支援する榎本亮氏との対談でひもとく。
ビジネスとテクノロジーのブリッジ
──ブリヂストンが、「デジタルソリューションセンター」やCDOといったポジションを設置した理由を聞かせてください。
三枝:タイヤ業界では、ミシュラン(仏)、グッドイヤー(米)、そしてブリヂストンが「ビッグ3」と言われ、長い間、この3社で激しいトップシェア争いをしてきました。
ところが、近年は安価で高性能なタイヤを製造する新興メーカーが台頭し、シェアを伸ばしています。また、タイヤを活用する自動車産業もシェアリングサービスなどの影響で大きな変化を遂げるでしょう。
私たちは、この激動の波の中で、新しい価値の創出や新しい提供形態を生み出していかなければなりません。単純にタイヤを販売するだけでなく、サービスモデルの創出などで他社との差別化を図り、これまでとは異なる戦略で成長曲線を描きたいという思いがありました。
これは、ある事業部門に閉じた話ではなく、全社横断的に手がける必要がありますから、部署横断で、かつ既存事業のしがらみがない新設組織が必要だと考えました。
その必要性や形態を上層部と議論していましたが、「じゃあ、おまえがやれ」ってことになり(笑)、CDOを新設して私が就任し、その実行部隊であるデジタルソリューションセンターが誕生したんです。
私のミッションは、単純にデジタルを活用した業務改革だとは思っていません。CDOの「D」は「Digital」の頭文字ですし、センター名称も「Digital Solution Center」ではありますが、私の役割は、デジタルトランスフォーメーションではなくブリヂストン全体のビジネスに変革をもたらす、「ビジネストランスフォーメーション」だと強く意識しています。
そのために、「ビジネスとテクノロジーをブリッジ」させて、さまざまなメンバーを巻き込み、社内にたくさんの化学反応を起こしていきたいと思っています。
榎本:三枝さんの「デジタルトランスフォーメーションではなく、ビジネストランスフォーメーションを担う」というのはとてもいい言葉ですね。
CDOを設置する企業はまだまだ少ないですが、デジタルがどんな業種・業界、さらに言えばどんな仕事にも必要な今、CDOはビジネス変革を促すリーダーですから、ビジネストランスフォーメーションを担う存在と位置付けるのが最適だと感じます。
──CDOに就任して約1年が経過しましたが、その成果を教えてください。
三枝:一例を挙げると、鉱山での採掘から輸出される港への輸送までの一連のオペレーションを最適化するソリューションセンターがオーストラリアにあります。
鉱山で使われるダンプトラックのタイヤとホイールに、デジタルデバイスを取り付け、空気圧の減り状況、温度のデータを収集。ソリューションセンターでこのデータを集めて解析し、安定した作業環境の整備とオペレーションの最適化を実現しました。
これは単なるタイヤ売りにはなかった新しい発想のサービスモデルだと自負しています。
当初は苦労もありました。データ集めはうまくいったのですが、データの整理や解析、トレーサビリティなどのノウハウが乏しくて。やはりそこは、「餅は餅屋」。NECのようなこの分野に強い企業の力を借りる必要があることを実感しました。
技術者も「ビジネスドリブン」思考に
──先ほど、ビジネスとテクノロジーをブリッジすることが役割だとおっしゃいましたが、「言うは易く行うは難し」で実現には苦労も多かったのではありませんか。企業が今後CDOを設置してデジタルトランスフォーメーションを担うことになった場合、どんなことに気をつければいいか、アドバイスをいただきたいと思います。
三枝:私自身が技術畑出身だからよく分かるのですが、多くの技術者は、ビジネスやサービスではなく、技術ばかりに着目しがちです。
しかし、ソリューションプロバイダーとして成長していくためには、技術の人間もビジネスやマーケティングのことを考え、技術主導ではなく、「ビジネスドリブン」で進めていく必要がある。いくら素晴らしい技術であっても、マーケットで必要とされなければ意味がありませんから。
そのため、デジタルソリューションセンターではさまざまな部署の人間をメンバーにしました。
技術の人間もビジネスのメンバーと一緒になって、技術ありきではなくお客さまに対する価値を最優先に考えてアイデアを出し、ディスカッションしています。このセンターが、お客さまに寄り添っているCMO(チーフマーケティングオフィサー)が上司となる部門に属しているのは、まさしくこのような意図を明確に示したものです。
榎本:うちも同じですよ。あたかもテクノロジーが商材のように扱われ「世界一の技術を開発した。どうだ」みたいな風潮は、どこのテクノロジー企業でもあると思います。
けれども、大切なのは世界一の技術ではなく、技術の先にあるお客さまへの価値なのだと。だから新しい技術を生み出すのはもちろんいいけれど、それをどうソリューションに変えるかが大事なんです。
デジタルは最先端の分野ですから、常に新しいことに着手するのが仕事のようなマーケティング部門とも相性がいい。そのため、NECもブリヂストンと同じように、マーケティング部門のとなりにデジタルトランスフォーメーションを担う「デジタル戦略本部」を設置して、さらにこの4月には両部門を1つに統合したんです。
また、技術の人間に限らず、全社員に「デジタルトランスフォーメーションとはなんぞや」ということを啓蒙(けいもう)する必要もあると考えています。
デジタルを使って、どんな新しい価値をお客さまに提供できるのか。この“考える力”こそ、これからのビジネスの現場では必要だと思っていますし、マーケティング部門はこの考える力を育む役割も担っていると考えています。
「育む」というよりも「変える」と言った方が適切かもしれません。これは持論になりますが、CMOのCはChiefという意味だけではなく、Change(変化)の意味も含まれていると、私は考えています。
事業部ではなく業務でマネジメントする
三枝:意識を「育んでいく」「変えていく」のは確かにその通りかもしれません。社内では当初、「デジタルトランスフォーメーション、何それ? 何が始まるの……」との声が圧倒的に多かったですから。座学で研修をしてみても、しっくりきていない様子でした。
そこで実際の成果を見せることにしたんです。大きなものでなくて構わない。POC(Proof of Concept:概念実証)のようなテストやデモンストレーションレベルの事例をいくつも成功させることで、感覚的にデジタルトランスフォーメーションを感じてもらうようにしました。
同時に事業部ごとでアプローチしていく従来の仕事の進め方ではなく、業務ごとに部を横断し携わっていくフローに変えました。
榎本:ビジネスをドライブするためには、小さな成功事例を積み重ねる三枝さんの考えに大いに共感します。実際、NECでも同じような手法をとっています。
「変革推進」の理想的な体制とは
──今後のブリヂストンのトランスフォーメーションストーリーを教えてください。
三枝:デジタルソリューションセンターでは、まず価値を判断してもらいやすいBtoBビジネスに照準を合わせ、いくつかの施策を打ち、実績を出してきました。このBtoB領域では、この1年の成果と課題を検証しながら、先にお話ししたように単なる売り切りではないサービス型のビジネスモデルを生み、浸透させることに注力していきます。
それに加えて、今後は一般ユーザー向け、BtoCの新たなサービスモデルも生み出していきたいと意欲を燃やしています。乗用車に向けたサービス型のソリューションを展開していければと考えていて、社内にはいくつか温めているアイデアがあります。
そして、CDOやデジタルソリューションセンターと事業部との関わり方を少しずつ変えていければと思っています。これまではデジタルソリューションセンターから事業ユニットへの流れで、デジタルを中心としたトランスフォーメーションを進めていました。これからはこの流れが、逆になる未来を描いています。
──逆、ですか?
三枝:個々の事業ユニットがデジタルネイティブ企業のような存在になってもらいたいのです。我々センターは、その全体をまとめる、シェアードサービスのような位置づけになればいいなと。例えるならば、Appleのコンテンツを網羅するApple Storeのような存在です。
ある事業ユニットで、何らかのデジタルサービスやソリューションが必要になった。我々センターに打診すれば、すぐにそれが用意できる。言うなれば「デジタルストア」。そんな部署に成長できれば、と考えています。
──ブリヂストンのビジネストランスフォーメーションを支援する立場として、今後のデジタルトランスフォーメーションの流れをどのように見ていますか。また、NECはどのように変わっていくのですか。
榎本:今では当たり前となったAWSやセールスフォース・ドットコムのようなクラウドコンピューティングサービスも、浸透するには10~15年ほどかかりましたよね。
同じようにデジタルトランスフォーメーションも急にではなく、徐々にではないかと考えています。その、微妙な波の速度やリズムに注意を払い、速すぎず、かつ、遅くならないように。イメージとしては一歩先を走っているような感覚で、デジタルトランスフォーメーションを進めていければ、と考えています。おそらく、今年あたりが潮目の変わるタイミングでしょうから。
これまで50年以上研究開発を続けてきたAIをベースにさまざまなソリューションを新年度から続々と投入していきます。
お客さまと一緒にDXのその先を見据えて、NECのイノベーションの力を最大限生かしながら、社会価値を創造していきたいですね。
(取材:木村剛士、構成:杉山忠義、撮影:北山宏一)
NEC主催イベント「NEC the WISE Summit」が6月7日に開催されます。本イベントの基調講演には、対談に登場した三枝氏と榎本氏が登壇します。参加は無料(事前登録制)ですので、ぜひご参加ください。詳細はこちらです。
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この連載について
NECは、先進のICT技術・サービス・長年培った知見を融合して、世界の人々との協奏・共創をとおして社会課題を解決し、より明るく豊かに生きていくための「安全」「安心」「公平」「効率」な社会を実現していきます。「Orchestrating a brighter world」には、NECの強い意志と未来への想いが込められています。ビジネスに役立つ最新情報と、NECの最新ソリューションや技術の情報をお届けします。
株式会社ブリヂストン(英語: Bridgestone Corporation)は、東京都中央区に本社を置く世界最大手のタイヤメーカーおよびそのブランド。 ウィキペディア
時価総額
3.48 兆円
業績

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