ある新刊書が、2600人以上のビジネスリーダーの分析から、リーダーシップの成功に関連性の高い4つの行動特性を明らかにしている。

世界に通用するリーダーに共通する4つの特性

起業家は、会社のなかで昇進してきたリーダーたちと比べて、優れたCEOに必要な資質を持っていることが多い。だが、ある重要な領域で、起業家は厄介な弱点を露呈する。この結論は、2600人以上のトップビジネスリーダーたちを対象とした最近の広範な研究の結果から明らかになった。
リーダーシップ・アドバイザリー会社ジー・エイチ・スマート(ghSMART)の幹部であるエレナ・ボテロとその同僚のキム・パウエルは、会社幹部たちのキャリアや業績、行動に関するデータを分析した。
そしてその情報を、のべ1万3000時間に及ぶ面接調査や20年間にわたってCEOや役員たちにアドバイスを提供してきたジー・エイチ・スマートの経験と組み合わせた。
その結果が、新刊書『The CEO Next Door: The Four Behaviors That Transform Ordinary People Into World-Class Leader』(隣のCEO:どこにでもいる人を、世界に通用するリーダーに変える4つの行動」にまとめられた。ビジネスジャーナリスト、タール・ラズとの共著だ。
この本では、重役室の住人をめぐる多くの神話が取り上げられている。たとえば、重役たちはみんなアイビーリーグの卒業生で、若いころから実業界での成功だけを考えてきたというような話だ。
しかし、それはフォーチュン500に入るような大企業のCEO、すなわちリーダーシップというパイの全体から見れば、ごく小さなひと切れへの関心から生まれたものにすぎない。
この本の著者たちは、スタートアップから中小企業までのCEOをデータに含めることによって、もう少し身近なリーダーシップへの道を探そうと試みた。
ボテロとパウエルは、CEOの成功との関連性が高い4つの行動特性を特定した。起業家たちは、その4つのうち3つで「固有のアドバンテージ」を持っているが、ボテロの言葉を借りれば「残りの1つでは危険な欠落」があるという。

1. 決断力

優れたリーダーは、優れた判断をする。だが、重要なのは質よりもスピードだ。「同じ内容の判断をするなら、より早く決断するという点で、有能なCEOたちは秀でている」と、ボテロは言う。「このスピードに関しては、起業家に大きなアドバンテージがある」
そのアドバンテージの多くは、組織の性格によるものだ。比較的小規模な企業では、リーダーと顧客、競合相手、従業員との距離が短い傾向がある。「小さい企業のリーダーは、物事が起きている現場に近いところにいるので、より迅速に動くことができる」と、ボテロは述べる。
また、判断の速さに、企業の生き残りがかかるという理由もある。たとえばスタートアップの場合、たった1つのチャンスを逃したことが、経営破綻につながるかもしれない。
さらに「慣れ」の問題もある。ボテロは「おそらく、ある1カ月の間に起業家が行う判断の数は、より大きな企業の中で昇進してきたCEOが、そのキャリアを通じて行ってきた判断の数の合計よりも多いだろう」と述べる。
起業家CEOは、自分が新たに立ち上げた事業について、あらゆる部分を理解している。それが、深い知識と、直感に頼って進む自信を与えてくれるのだ。「起業家は、きわめて強力な直感的判断力を発達させていることが多い」と、ボテロは言う。
ただし「状況が異なる方向へ動いた場合」には、そうした直感によって間違った方向へ導かれる可能性もあると警告も発している。

2. 適応力

企業内部で昇進してきたCEOたちが新たな市場やテクノロジーに適応できない場合、それは、彼らが将来を見通すのが下手だからなのではない。むしろ彼らは、過去を手放せずに苦労している。
ボテロによれば、そうしたCEOとその部下たちは「これから向かうべきビジネスではなく、かつてそこにあったビジネス」に自分たちのキャリアを投じてきた。
これとは対照的に、起業家たちは他人から受け継いだものをいつまでも引きずらない。「ピボット(企業経営における方向転換)」という業界用語ができるよりもずっと前から、起業家たちは、計画はいつでも条件次第で変わることを知っていた。
意思決定に関して言えば、CEOが現場や顧客に近いところにいるほど、その適応力が生かされる。「優れた創業者が決して失わないのは、顧客の視点に立ってみたらどう感じるかという観点だ」と、ボテロは述べる。「大企業のCEOがこれを真似るのは、口で言うよりもずっと難しい」
ただし、起業家の高い適応力は、一緒にそのビジネスを築いた仲間たちへの愛情によって損なわれることがある。
ボテロによると、企業の創立者は毎年自分たちのチームについて冷静に考え直し、その人たちの現在の能力が将来のニーズに見合ったものかどうかを確かめるべきだという。たとえその結果として、試練と苦難の年月を共にしてきた人を解雇したり、降格させたりすることになってもだ。
適切な人材ほど重要なものはない。ボテロとパウエルの研究では「自分のチームに起因する問題で職を失うCEO」の数は「自身の能力不足で職を失うCEO」の約2倍であることがわかっている。

3. 熱意と影響力

CEOたちは投資家や顧客、従業員など多くの人を自分のまわりに集め、ビジネスを前へ進める支援を受けることに成功する。そして、ここでも起業家には1つのアドバンテージがある。それは情熱だ。
「リーダーシップ開発プログラムで、起業家たちの多くは、いかにして目的意識を生み出し、従業員を巻き込んでいくかという話をする」と、ボテロは言う。起業家は、解決しようとしている問題に深く没頭するため、その熱意が周囲の人々に「伝染」するのだ。
起業家たちが、時として困難な人生経験を経ていることも、有利に働く場合がある。企業のなかで昇進してきた人々と比べると、創業者CEOにはアイビーリーグを卒業してMBAを取得といった「金ピカの履歴」を持つ人は少ない。
十分な資金と幅広い人脈を持たない彼ら起業家たちは、何か他の方法を用いて、自分の理念に協力してくれる人々を集めざるを得ない。
この研究で取り上げられた成功者たちは、良い家柄に生まれなくても、才能で戦いを勝ち抜いてきた人々だ。「この種の人たちは、会社を立ち上げた最初の日から、優秀なエンジニアたちを迎えることができた」と、ボテロは言っている。

4. 信頼性

約束したことを一貫して実行していくことは、優れたリーダーにとって何よりも重要な特質だ。ボテロとパウエルは、高い信頼を得ているCEOはそうでない人々と比べて、株主にとって良い業績を上げる可能性が15倍も高いことを見出した。
一方、残念なことに多くの起業家には、仕事が予定どおりに運行されるプロセスをずっと監督しているほどの時間と忍耐力がない。また、起業家たちには、創業初期の数少ない取り引き先に対して過大な約束をする傾向がある。まだ試してもいないのだから、本当に結果を出せるかどうか、わかっていないにもかかわらずだ。
ボテロによると、起業家はこうした欠点のかなりの部分を「信頼性のマインドセット」を持つことによって補えるという。つまり、どんなことであれ、約束は必ず守るという意志だ。
「他人にとって信頼できる人であれば、起業家は状況が厳しいときでも何とかやっていける」と、ボテロは述べる。「自分は頼りにされる人間だと思えるようでなければならない」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Leigh Buchanan/Editor-at-large, Inc. magazine、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:istocksdaily/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.