【亀山×藤原】これから求められるのは「ルールを決める人材」

2018/3/4
大人気連載「亀っちの部屋」の特別編。本格的なAI時代の到来を前に、既存の教育制度の制度疲労が指摘されている昨今。先端的な企業や教育機関が行う「新たな教育」に関する期待も高まっている。
そんな中、「DMMアカデミー」「よのなか科」でこれからの時代を生き抜く人材の育成に取り組んでいる亀山敬司氏と藤原和博氏が、教育のあるべき姿や、育成すべき人材像について徹底議論する。

「指の仕事」は今後も残る

──これからAI時代に突入する中で、教育や仕事のやり方にも変化があるはずです。今回は、そんな時代にどのような仕事や人材が生き残るのかを、2人に語り尽くしてもらえればと思います。
藤原 現在様々なところで議論していると、今後10年経っても残っている仕事には2つ3つの要素があります。そこに仕事の本質が隠されていると思います。
例えば、腕や足の動き、筋力などは今後ロボットに全て取って代わられるはず。既に細胞技術やパワースーツもあります。一方、残るのは人間の絡み合う指の動き。これは最先端のロボット学者からしても、10年経ってもロボットにはできないみたいです。
そうなると、手を使う工芸の仕事や撫でると癒やされる手の温もりのような、指から発想した仕事は残りそう。例えば、指圧師なんて20年経っても残ると思います。
藤原和博(ふじわら・かずひろ)/教育改革実践家
1955年東京生まれ。 1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。 東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、 1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。 2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として 杉並区立和田中学校校長を務める。 2008年~2011年、橋下大阪府知事特別顧問。現在は奈良市立一条高校校長として現場復帰。著書に『10年後、君に仕事はあるのか?』など。
どんなに優秀なAIマッサージチェアでも僕は満足しない。やっぱり人間の手でグッと、ツボを押してほしい。
アメリカでIBMの開発したワトソンが癌の診断に使われているように、医者の仕事もAIに代替される。だけど、指の仕事の延長で、意外に保育や介護、看護といった高度なヒューマンケアの仕事は残っていくと思います。
──亀山さんはいかがですか。
亀山 今の時代、ほとんどのことはGoogleで調べればわかるから、自分で考えられるかどうかかな。
例えば、去年からはじめたDMMアカデミーでも、「ルールとか要らない」「自由がいい」とか言っていたヤツらが、「自分たちでルールをつくろう」とか言い出したりしている。
アカデミーは、基本的に自分のやりたいことを探して、自分から色んな部署に売り込んで、やりたい仕事をやらせてもらう仕組み。「2週間に1回だけ集まる」っていう以外は自由で、「自分たちで考えろ」って、みんな好き勝手やっていたんだ。
ところが、仲間が暴れて問題を起こしたり、2週間に1回の集まりでも遅刻してくるヤツが出てくる。「自由がいい」とか言っていたのに、いつしか自分たちで決めごとを考え出した。
「このままじゃ組織が回らない」「アカデミーがダメになる」とか言いながら、全く何もないところからルールがつくられていくんだ。それを見てると面白いなぁと。

いざ自由を与えられて動けるか

藤原 近著の『10年後、君に仕事はあるのか?』にも書きましたが、僕はそのことを、「情報処理力」と「情報編集力」という言葉を用いて説明しています。
あらかじめ決められたルールの中で最大限の力を発揮することを「情報処理力」とするのなら、ルールが決まっていない中で、周囲と話し合いながら「納得できる解」を導き出すことを「情報編集力」と言います。
その中で、情報処理力はロボットに代替されても、情報編集力はまだ置き換わらない。「ルールを自分たちで決める」というのは、典型的な「情報編集力」の領域です。
亀山 ただ、アカデミー生も、はじめは「ミッションをください」「何をやればいいですか?」って言っていました。「自分たちで考えろ」と言っても、やっぱり何をすればいいかとみんな苦悩する。
今でも自分で考えられるのは半分ぐらいで、残り半分は迷子のような状態ですかね。
勢いのあるヤツを集めたつもりでも、いざ「自由にやってみろ」って言うと、やれると思っていたのにやれないことに気づく。みんな自由にさえなれば、何でもできると思っているかもしれないけど、意外と難しい感じはしますね。
亀山敬司(かめやま・けいし)/DMM.comグループ会長
1961年石川県生まれ。19歳でアクセサリー販売の露天商から起業家人生をスタート。1999年に株式会社デジタルメディアマート(現:株式会社DMM.com)を設立。現在は、DMM.comグループの会長として、動画配信、オンラインゲーム、英会話、FX、ソーラーパネル、3Dプリンター、VRシアターなど、多岐にわたる事業を展開。2017年には『自ら気付き、考え、行動を起こすことができる人間を育成すること』を目指す私塾「DMMアカデミー」を設立。
藤原 それは様々な会社の社長や人事部長のいう、「なぜここまで指示待ちになったのか」という話に似通った部分がありそうです。
「ゆとり教育が学力低下をもたらした」という批判が集まったことで、実は今、揺り戻しが起きています。教科書の量が「ゆとり教育」の3割増になったものの、授業時間は1割しか増えていない。
つまり、この10年はものすごい勢いで詰め込み教育に戻っていて、「自分で考えなければダメだ」とわかっているのに、正解主義の学生がどんどん生まれています。
彼らは早く正確に正解は出せても、「自分で考えてやれ」と言われると、どこに行けばいいかわからなくなってしまう。日本の教育では「考えるとは何か」を教えないからです。
正解のないことを誰かと一緒に、主体的に考えることを癖にしていないと、「考えろ」と言われても、「は?」ってなるのは当たり前です。

逃げ道があったほうが救われる

──大学受験は「情報処理力」を競うものの典型ですが、「情報編集力」を身につけるために、大学進学はどれくらい重要なのでしょうか。
藤原 今は教育の過渡期ですから、もしもあなたが小・中・高校生を育てているとしたら、本当に迷うと思います。
例えば落合陽一くんの両親は、毎日家庭教師をつけていたらしいです。それも、そのうちの1人は東大の歴史学の教授だったと言います。
これは非常に変わっているやり方で、正しいと思い込まなければできません。親が「自分は正しい」と思い込めるなら、その通りに教育すればいい。子育てに正解なんてありませんから、僕も「こうした方がいいです」とは口が裂けても言えません。
ただ、もし自分の思い通りのことをやろうとするなら、子どもをたくさん持つことだと思います。1人より2人、2人より3人、3人より5人、6人、7人と。
長男の子育ては親も初めて直面することの連続で、不安に感じるから、どうしても保守的にならざるを得ない。5人、6人、7人と子どもをたくさんつくって、末っ子は戦略的に思い切った教育をさせてもいいと思います。
亀山 それは体力が要る戦略ですね(笑)。今は一人っ子も多いですから、そのときの教育はどうなりますか?
藤原 一人っ子だと保守的にならざるを得ないと思います。僕も長男は保守的に育てましたから。亀山さんはお子さんが2人いますけど、どうでしたか?
亀山 ウチは上の長男が暴れん坊で、下の長女が真面目という感じですかね。
僕は勉強にしても運動にしても、どこか逃げ道をつくっておいた方が、失敗したときにも救いがあるかなと思っていて。
例えば、ウチの近所に非常に教育熱心な家庭があって、ある日、そこの子が塾をサボってサッカーをしているところを見かけました。その子も知り合いの僕を見て、「しまった」って顔をしてましてね。
でも、僕が「内緒にしといてやるから、遊んじゃえ」と言ったら、彼は安心して笑った。もちろん、その家庭の厳しい教育方針に異議があるわけではありません。
ただ、もしもその子が受験に失敗して、「自分はいらない人間だ」とか思ってしまったとき、僕とのやりとりが記憶の片隅にでも残っていて、「まあいいか」と思ってくれたらいいかなって。
何が正しいかはわからないから、一つのことに徹底させるより、上手くいかなくても救いになるものがわずかでもあればいい。
それには、本人のやりたいことをちょっとだけでもやらせてあげるようなゆとり、別の道を与えることがやっぱり大事だと思うんです。
(聞き手:野村高文、構成:小谷紘友、撮影:是枝右恭、デザイン:砂田優花)
本記事は今年1月に行われたNewsPicksアカデミア講義、亀山敬司×藤原和博「AI時代をどう生きるか」を再構成したものです。
*続きは明日掲載します