【佐藤優】2020年を境に日本人の知識レベルが激変する

2018/1/15
外交官として国際基準のビジネスエリートを多数見てきた佐藤優氏は、これまでにも彼らの知識の欠損を補うための「スタディサプリ」を使った学習を推奨してきた。
大学教授としての顔も持つ佐藤氏から見た、今の入試制度の問題点とは何か。また、2020年度の改定で、入試制度及び学校教育はどのように変わるのか。
「スタディサプリ」の生みの親であるリクルートの山口文洋氏との対談で、スタディサプリの役割を明らかにする。(全3回連載)
【佐藤優】私がスタディサプリを「学び直し」に使う理由

センター試験が及ぼした最大の悪影響とは

山口:これまで40年ほぼ変わらずに続いてきた入試制度が、2020年度の改定を境にまったくの別物になります。そして、今の大学生を含む旧来型の勉強をしてきた世代は、新型の教育を受ける世代に簡単に追い越されてしまう可能性が高い。
これについては強い危機感を抱いています。
佐藤:その通りです。まずは、1979年の大学入学試験からはじまった現行の入試制度が生んだ問題点を整理しましょう。
一番のトピックは、マークシート式の共通一次試験が導入されたことです。いわずもがなですが、選択式回答なら、内容を完全に理解していなくても点数を取れる可能性が高まります。
しかも、大学独自が実施する二次試験は小論文程度の簡易的なものが主流になった。このことが、のちの大学教育にひどい悪影響を及ぼしました。
最大の問題は、大学が高校でどんな勉強をしているかわからなくなり、高大接続に支障をきたすようになってしまったことです。
さらに、マークシート導入により、完全に偏差値による序列化ができました。大学側も「自校の偏差値を上げなければならない」という強迫観念にとらわれるようになり、私大文系学科の多くが受験必修科目から数学を除外した。
結果として、数学に極めて強い苦手意識を持った経済学部生、商学部生が生まれるという、国際基準から考えると異様な事態に陥ったのです。
山口:私もまさに商学部出身ですが、現役大学生および社会人の数学の知識の欠落がいかに深刻か、という話は前回詳しくしましたね。
佐藤:しかし、この状況が2020年度入試を境に変わります。以降は丸暗記で太刀打ちできる問題ではなく、自分で考えて答えを導き出す力が問われるようになる。
1979年型の教育で育った人間は、マークシート式に慣れて「考える力」「書く力」が衰えています。それでは、2020年度型で知識を積み上げた人間にはかなわない。20年後、ハイスペックな人材が社会に出てきたとき、今の大学生、社会人はビジネスの現場で確実に落伍します。
そうならないためには、欠落している知識や能力を埋める必要がある。私がそもそもスタディサプリに着目した理由は、欠落している知識を埋めるのにもってこいの教材だからです。
しかも、ただ一方的に教えるのではなく、「考える力」が身につくような構成になっていますよね。
山口:ありがとうございます。スタディサプリで授業を担当している講師陣は、いわゆる「カリスマ講師」と呼ばれる方たちなのですが、みなさんアクティブラーニング型の語りかけをして、生徒たちがきちんと自分で考えて答えられるような授業設計をしています。
受動的に講義を聞いているだけでは、応用できる強さには結びつきませんから。
佐藤:私も教えている学生の「考える力」「書く力」を強化するために、約300項目のキーワードやテーマに対して数百字程度のミニレポートを書かせる課題をよく出します。補助教材としてスタディサプリの活用をすすめたりもします。
学び直したい部分をピンポイントで学習できるシステムだから、とても使い勝手がいいんですよね。
もうひとつ、2020年度の教育改革で大きく変わるのが英語です。こちらは実用英語に近づけるための大改革が行われるとあって、メディアでも多少は話題にしはじめています。
山口:小学3年生から「外国語活動」として英語のプレ授業がはじまり、中学校の英語の授業は基本的に英語で行われる、と。大変な変わりようです。
佐藤:英語の幼児教育には否定的な意見も多いけれど、早くはじめること自体は悪くはないんですよ。
ただ、小さい頃から英会話を習っても、多くの人は中学受験のはじまる小学校高学年で一度レッスンをストップする。これくらいの年齢だと、2〜3年のブランクがあると、それまでに学んだ英語を完全に忘れてしまう。
語学学習でもっとも効率が悪いのは、初級段階で学習が途切れることなんです。継続が第一の語学だからこそ、今の学習スタイルは効果が薄いんです。
山口:おっしゃる通りです。日常英会話に特化した「スタディサプリENGLISH」は、読む、聞く、話す、書くの4実技を、1日に15分から30分の短時間、毎日続けてもらうシステムです。
まさに「継続」がキモなので、ドラマ仕立てのシナリオなどを使って、ゲーム感覚で楽しく続けてもらうことを重視しました。
2017年夏にはTOEIC対策のコースもはじめました。今後はさらに、英検やTOEFLといったアセスメントを加味することで、より自己成長を感じられるようにしていきたいと思っています。
佐藤:とてもいいですね。英検は最近軽視される傾向があるけれど、英検の勉強は日本語能力も含めた総合的な言語力をつけるのに最適です。自分の教えている学生には、最低でも英検の準1級までは取るように言ってます。
英検にしてもTOEFLやTOEICにしても、必要な英語力は通常のスタディサプリの英語の講義をきちっとやっていけば身につきますからね。

学習にまつわるあらゆる格差を解消して、すべての子どもたちの可能性を開きたい

佐藤:スタディサプリは、リアルな高校教育の現場でも導入されていますよね。
山口:はい。全国の高校の約2割がスタディサプリを利用しています。多くの高校は、苦手克服や学年をまたいだ復習など、生徒さんの補習教材として使っているようです。
生徒さんによって学習の習熟度が違いますから、スタディサプリ上で個別のプランを宿題として与え、先生はコーチングに徹するケースが多いそうです。
佐藤:コーチングがしっかりできる環境であれば、スタディサプリを使って大変な成果を上げることも可能ですよね。
沖縄県立久米島高等学校がいい例です。決して恵まれた学習環境とはいえない、かつて廃校の危機にも直面した離島の高校ですが、補習教材としてスタディサプリを導入後、早稲田合格者を出しましたからね。
山口:そうですね。去年も琉球大学医学部の合格者が出て、私たちも取材させていただきました。
リクルートホールディングスのサイトに掲載の記事でも、久米島での利用の様子が取り上げられている。
佐藤:琉球大学、名桜大学への進学者もどんどん続いています。これまでなら専門学校進学を考えていただろう生徒たちの学力が、スタディサプリ導入後、国公立大学に入れるくらいにまで底上げされたのは本当にすごいことです。
私は久米島の教育振興のお手伝いをしているのですが、久米島町に行くと、町の人たち全体からスタディサプリが感謝されているのを感じますよ。同じだけのインフラを久米島に整えようと思ったら、どれだけの予算がかかることか。
山口:スタディサプリの導入後に思いがけない進路実績が生まれたという事例は、同じような環境の離島や山間部の学校、その他、都市部でも偏差値40〜50程度のいわゆる「進路多様校」から、ここ数年で綺羅星のように続々と出てきています。
そもそも受験サプリのリリース時に掲げた目標のひとつに、子どもたちの環境による教育格差を解消したい、というものがありました。月額980円で、どこでも、いつでも、好きなだけ学ぶことができれば、出自や住んでいる地域も関係ないのではないかと。

レベルに合わせて学べるから、自己肯定感も育まれる

佐藤:スタディサプリのやっていることは、非常に大きな社会貢献ですよ。これまでは、コーチングできる教師の有無が大きな岐路になっていましたが、『スタディサプリ 合格特訓プラン』というコーチングのサービスもはじめられた。これでさらに、学習格差を埋めやすくなりましたね。
山口:はい。月額9800円で、各生徒さんの志望校や学習開始時期に合わせ、授業動画とおすすめの参考書や過去問の着手スケジュールを組み合わせてカリキュラムとして提示し、大学生コーチが自分の受験経験を生かして生徒さんをモチベートしたり学習の困り事や悩みをチャットで解決していくサービスです。
チャットでのやりとりの一例。学習面でのアドバイスを受けられるのはもちろん、受験に対する不安を吐露する場にもなっている
佐藤:受験業界は往々にして、東大京大早慶の合格者数を基準にしますけれど、そういう偏差値72、73の生徒は、正規分布でいえば1%強程度です。
偏差値67、68だって、5%以下でしょう。ボリュームゾーンの子たちに学びの喜びを感じさせるって、本当に重要なことですよ。
山口:スタディサプリのユーザー分布は、ほとんど正規分布通りです。私が思うにスタディサプリの一番の効能は、自分のレベルに合った学習をコツコツと続けるなかで、「わかる喜び」を知ることではないかと。
学校の授業についていけなかった生徒さんでも、わかるところまで遡って、時間をかけて学んでいけば、問題を解けるようになります。一人ひとりにカスタマイズできる環境を提供することで、ユーザーの自己肯定感の醸成にも役立っていると、ある学校の先生から聞きました。
佐藤:学校の現場だけで教えきれなくなっている今、親や教師の情報格差がそのまま子どもたちの進路格差になりますからね。
山口:変化の激しいシンギュラリティ時代において、保護者も先生方も、変わりゆく産業、もしくは、変わりゆく価値ある職について、子どもたちに伝えきれない部分がどうしても出てくると思います。
これからは、受験や学習との関わりも深い、もう一歩先にある仕事の在り方、働き方の変化についても、積極的に情報発信していくつもりです。
(編集:大高志帆 構成:藤崎美穂 撮影:露木聡子)