[シンガポール 22日 ロイター] - ビットコインなど仮想通貨の根幹となるブロックチェーン(分散型台帳)技術は、自由化や技術開発によって細分化が進むエネルギー市場と相性が良く、エネルギー業界を大きく変える力を秘めている。

ブロックチェーン技術は活用の場が仮想通貨や金融サービスを越えてエネルギー分野に広がり、一部で大規模な商用プロジェクトも始まっている。

IBMのエネルギー・環境・公益・グローバル戦略部門バイスプレジデント、スティーブン・キャラハン氏は「インターネットがコミュニケーションを変えたように、ブロックチェーンは信用を伴う取引を変えるだろう。エネルギーや公益などの業界も例外ではない」と話す。

取引データを複数のコンピューターで管理するブロックチェーンは、信用機能を持つ仲介者が存在せず、取引データの書き換えや消去が不可能。こうした特性はエネルギー業界にとって魅力的だ。

エネルギー市場は自由化が進み、再生可能エネルギーが拡大。ユーザー、さまざまな規模の生産者、小売業者、さらにはトレーダーまで巻き込んで取引の複雑化、分散化が進行している。ブロックチェーンはこうした変化に上手に対応する手立てとなる。

ブロックチェーンのシステム内の通貨「トークン」は、太陽光パネルを設置した小口ユーザーである「プロシューマー」(生産行動を行う消費者)間の小規模な取引や省エネを達成したユーザーに見返りを与える手段になる。

ブロックチェーンに「スマートコントラクト」(契約の自動化)を組み合わせることができれば、自動的な取引を市場の最末端に広げ、メーターやコンピューターによって需要と供給を自動的に調整することも可能になる。

いずれもお金の節約につながり、電力の生産、備蓄、消費の姿を変えるもので、DHLエナジー・のスティーブ・ハーレー社長はこれを「電力のインターネット化」と呼ぶ。

世界エネルギー会議は、こうした分散化したエネルギーのシェアが2025年には現在の5%から25%に高まると予想している。

既にこの2、3年にBP<BP.L>やロイヤル・ダッチ・シェル<RDSa.L>など大手がテキサス州やタスマニアなどでマイクログリッド(供給と消費の両方を含む小規模なエネルギーネットワーク)の実証実験を行っている。

ただ、オポチューンLLPのマネジングディレクター、シェーン・ランドルフ氏によると、ブロックチェーンに大規模な投資を行ったエネルギー関連企業はまだ少ない。そのため新参企業にもチャンスはある。

オーストラリアの新興企業パワー・レッジャーは10月にイニシャル・コイン・オファリング(ICO)で3400万豪ドル(2600万米ドル)を調達し、タイとインドでマイクログリッドの商用ベースの運用を可能とするプラットフォームを組み、商用ビル2棟も建設した。

またシンガポール企業のエレクトリファイは電力市場自由化を受けて、料金を比較する市場を運営している。

ただ、ブロックチェーンのエネルギー市場での活用には障害も残っている。この業界は先行組が優位な立場にあり、ブロックチェーン自体もまだ10年弱と歴史が浅く、信頼性が確立していない。

フォレスターのIT業界アナリストのマーサ・ベネット氏は、ブロックチェーン技術がいかに未熟かが理解されていないと指摘。特にエネルギー業界は当局の規制下にあるため、ブロックチェーンの普及には規制当局を説き伏せる必要があるという。

アクセンチュアのエネルギーアナリストのトニー・マセラ氏は、インターネットの黎明期にネットワークのプロトコル(通信規約)がそうであったように、ブロックチェーンもエネルギー産業に大変革をもたらし、価値を解き放つと予想するが、「こうした変化が一夜にして起きることはない」とみている。

(Jeremy Wagstaff記者)