entrepediaの2010年から2017年6月30日までのデータを対象とし、特に2017年上半期(2017年1月1日~2017年6月30日)にフォーカスした国内未公開ベンチャー企業の資金調達動向を概観する。
2017年上半期資金調達レポートは概要投資家タイプ、クラスターの3つに分けて報告する。今回は、最後のクラスターについて報告する。

entrepediaでは32セクターに分類

entrepediaでは独自のセクター分類を行っている。本レポートで利用するセクター分類では、学習エンジンを用いて分類を行っている。
FinTechやIoTなど32種類の事業領域を設定し、それらの事業領域の要素となるキーワードタグを自動的に作成し、階層化している。
ベンチャー企業は、多くがこれまでにない事業領域を開拓し、成長している企業である。したがって、本学習エンジンも日々学習して進化し、entrepediaの登録企業に紐づく業種分類データも毎日更新される変動データとなっている。
本レポートではベンチャー企業の増資ラウンドデータを元に、セクターごとの特徴を概観する。
なお、32セクターの分類は1企業につき、1セクターではなく、複数のセクターが紐づく場合もあり、企業によっては重複カウントされている。また、本レポートの基準日は既に報告している資金調達レポート(概要)および(投資家タイプ)とは基準日が異なることにご留意いただきたい。
ベンチャー企業の資金調達は後日判明するケースが多くあるため、過去時点の数字であっても、調査時期(基準日)によって変化する。

32セクター別の資金調達の状況

32セクター別に2017年上半期の資金調達状況を確認する。1社あたりの増資ラウンド平均額は2.5億円であった。平均額より高かったセクターはおおよそ3分の1程度あった。「FinTech」がちょうど平均額上に位置している。
同期間で最も資金調達額が大きかったセクターは、「製薬/創薬」で146億円であった。そのあとを「HealthTech」145億円、「人工知能」139億円、「ソフトウェア/システム」114億円、「FinTech」105億円と続く。
「製薬/創薬」は、スコヒアファーマの会社設立に伴う調達100億円が同期間にあったため、社数比で大きい金額となっている。詳しくは後述するが、「人工知能」セクターの資金調達額は2017年の上半期だけで2016年を超過しており、2017年は大幅な増加が見込まれている。
また、現在のセクター分類は、使用する技術や市場など様々な角度の特徴を示している。たとえば、「人工知能」と「AdTech」にあてはまる企業は人工知能というテクノロジー開発を行い、「AdTech」分野でサービスの提供を行っている。各セクターをテクノロジー軸とサービス軸でグルーピングし、金額が大きいものをみる。
テクノロジー軸では「人工知能」「IoT」「ロボット」の金額が大きい。サービス軸では、「HealthTech」「FinTech」「コンテンツ/著作権ビジネス」「AdTech」「CleanTech」などの金額が大きい。
今回は、サービス軸で金額が大きい「HealthTech」「FinTech」とテクノロジー軸の中で金額が大きい「人工知能」をとりあげる。

HealthTechのピークは社数で2015年、資金調達金額では2016年

まずは、「HealthTech」セクターに該当する企業の資金調達動向を確認する。金額は2013年から2016年までは毎年大きく金額が伸びており、2017年上半期は145億円と前年比48%の水準でほぼ横ばいに推移している。社数は2014年から2015年に大きく伸び、2016年は横ばい、2017年上半期は61社で前年比41%の水準と、やや減少傾向がみられる。
HealthTechの1社あたりの資金調達動向をみると、2017年上半期の平均値は2.9億円、中央値は1.1億円とベンチャー企業全体の資金調達と同様に選択と集中の傾向が読み取れる。
2013年に平均値が大きく伸びるものの、中央値は下がっている。この時期は特定の企業が大きな資金調達をしていたと考えられるが、2014年と2016年は中央値の伸び率が平均値の伸び率を上回っていることから、同期間では成長している企業が増えていると推察される。
金額が大きく伸び始めた2013年からの大きな資金調達の傾向をみる。2013年は10億円以上の調達は2社であった。調達額3億円以上の企業をみると、iPS細胞を活用した再生医療などが中心であった。
2014年では、調達額10億円以上が4社に増え、調達額3億円以上の企業をみると、医療機器が中心である。
2015年は、調達額10億円以上の企業は6社で、調達額3億円以上の企業は、検査関連、医療関連ポータルサイト、動作補助装置などがあり、サービスの幅がここで拡大している。
2016年の調達額10億円以上の企業は8社あった。調達額3億円以上の企業をみると検査関連を扱う企業が増加しており、医療用ロボットを扱う企業などが登場している。

セラバリューズが2017年上半期調達額最大

2017年上半期の同セクターにおける資金調達額上位5社を示した。セラバリューズが調達額20億円と最も大きかった。同社は、抗炎症作用、抗酸化作用が主な効果であるポリフェノールの1種クルクミンの吸収量を約27倍に高めたセラクルミンをコアとしている。

FinTechは一服感も、次が続く

つづいて、「FinTech」セクターに該当する企業の資金調達動向を確認する。金額は2016年をピークに、2017年上半期は105億円と前年比37%の水準で減少している。社数は2016年まで増加し、2017年上半期は43社と前年比46%の水準で、やや減少傾向がみられる。
2016年までは金額と社数ともに増加傾向であるが、2013年と2015年に金額が急伸していることが特徴だ。
FinTechの1社あたりの資金調達動向をみると、先ほどのHealthTechとは様相が異なる。2015年あたりにレイターステージの企業が比較的多くいたが、Exitなどをし、2017年上半期の平均値は2.8億円、中央値は0.9億円と一旦落ち着いた。
一方、2017年上半期の中央値と平均値の乖離が大きいため、大きく成長している企業とそうでない企業の二極化が進んだと見られる。
金額が急伸した2013年からの大きな調達の傾向をみる。2013年は10億円以上の調達は1社であった。調達額3億円以上の企業をみると、モバイル決済、口座一括管理、給与・会計などのバックオフィス支援サービス、金融情報などである。
2014年では、調達額10億円以上が4社に増え、調達額3億円以上の企業をみると、クラウドファンディング、ロボ・アドバイザーを扱う企業がいくつか登場してくる。
調達金額が再度急伸した2015年は、調達額10億円以上の企業は5社で、調達額3億円以上の企業をみると、資産運用関連の企業数が増え、Bitcoinなどの企業も登場してくる。
2016年は、調達額10億円以上の企業が10社あった。調達額3億円以上の企業をみるとBitcoinを扱う企業が増え、ビッグデータ解析などの企業も登場しており、2013年からみると規制が強い分野へ領域が拡大し、資金調達金額も増加していることがうかがえる。

FOLIOが2017年上半期調達額最大

2017年上半期の同セクターにおける資金調達額上位5社を示した。FOLIOが調達額18億円と最も大きかった。同社は、企業ではなく「ドローン」や「宇宙開発」といったテーマ型の個別株投資を軸にしたオンライン証券を開始している。ロボ・アドバイザーによる資産運用も導入予定である。同社によれば、国内株を取り扱う独立系オンライン証券会社の誕生は約10年ぶりである。

人工知能は二極化

テクノロジー軸である「人工知能」セクターに該当する企業の資金調達動向を確認する。金額は2015年から大きく拡大し、2017年上半期だけでも139億円と前年を超える水準である。社数は金額ほどの伸びではないものの、同じような傾向で推移し、2017年上半期は49社と前年比57%の水準である。
人工知能の1社あたりの資金調達動向をみると、平均値と中央値の乖離の大きさが目立つ。2017年上半期の平均値は3.6億円、中央値は1.0億円といずれも最大であり、乖離幅も最大である。本セクターは二極化が非常に進んでいるといえる。
金額が大きく伸び始めた2015年からの大きな調達の傾向をみる。2015年は10億円以上の調達は3社であった。調達額1億円以上の企業をみると、HealthTech、AdTech、EdTech、FinTechなどが中心であった。
2016年は10億円以上の調達はなく、調達額1億円以上の企業をみると、画像認識が増えていることが特徴であった。

フロムスクラッチが2017年上半期調達額最大

2017年上半期の同セクターにおける資金調達額上位5社を示した。フロムスクラッチが調達額32億円と最も大きかった。同社は、企業のマーケティング活動を入り口から出口まで、ウェブ上で一元管理し、生産性向上と課題解決を実現するSaaS型のマーケティングプラットフォーム「b→dash」を開発・運営する。今回の資金調達は、同社が保有するビッグデータに人工知能などの先端技術を組み合わせ、既存サービスを強化することを目的としている。
3回にわたり、2017年上半期のベンチャー企業の資金調達状況にフォーカスして概観を報告してきた。本レポートには載せられなかったファクトやテーマ、個別セクターをの掘り下げたものなどについては、機会があれば今後報告していく。
2017年上半期資金調達レポート(概要)はこちら
2017年上半期資金調達レポート(投資家タイプ)はこちら
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