No.1売り子が伝授。球場で誰よりもビールを売る方法

2017/10/7
球界で今なお続く“ビール売り子”ブームにおいて、牽引役となっている福岡ソフトバンクホークス。
まだ世間の認知度が高まる前の2015年8月に当連載で「ビール売り子のブランディング化」について取り上げた。当時、まず手始めに行ったのが球団公式サイト内に「売り子名鑑」を立ち上げたことだった。
以降、2016年には球界初の「売り子カード」を登場させた。
(提供:SoftBank HAWKS)
こちらもプロ野球選手と同じように、売り子のビジュアルのほかにプロフィールなども掲載されており、これが意外とウケた。
(提供:SoftBank HAWKS)
売り子カードはヤフオクドームで使用できるビール回数券(1杯700円×10枚綴りを7000円で販売)を購入すれば、1枚をランダムで貰えるシステム。2017年には第2弾カードも登場してやはり好評を博した。
また、今年2月には「ワールドベースボールクラシック(WBC)」開幕直前の侍ジャパン壮行試合がヤフオクドームで2試合行われた際に「売り子ジャパン」が結成されて、各球団を代表する人気売り子たちがヤフオクドームのスタンドを縦横無尽に巡り歩いた。

売り子ブランディングの成果

では、売り子がブランディングされたことで、実際に売上はどのような変化があったのか。
ホークス球団がヤフオクドームにおけるビール販売杯数のデータを明かしてくれた。
売り子ブランディング化の仕掛人であるホークスのテナント課の大山隆太課長はこの成果に胸を張りつつも、「正直、期待以上です」と驚きの反応も示していた。
「売り子の部分だけを見ても、年10%近い上昇を見せています。それは予想を上回る伸び率でしたし、ましてや世間ではビールが売れなくなっていることを考えれば大健闘といっていいと思います」
また、数字に表れない「顧客満足度」を上げる成果もあった。
「以前はお客様から『売り子が邪魔で野球が見られない』という苦情をいただいていました。しかし、近年はそれがほとんどなくなりました」

売り子に必要なスキル

売り子自身は、このブランディングの成果をどのように感じているのだろうか。
今年で売り子歴8年目の中村真悠子さんは、アサヒビールの売り子を務めており、同ビールの売り子の中で売上1位に輝く自身も『売れっ子』だ。
ヤフオクドームでは1試合につき120~160人程度の売り子が動員される。一人あたりの平均売上杯数は100杯ほどだというが、真悠子さんは平均およそ200杯を売り上げる。
開門から試合終了までスタンドで売り歩くため、実働はおおよそ5時間だ。つまりは1時間で40杯、1.5分間に1杯を売っていく計算となる。もちろん、ビール樽の交換もあるため、実売時間はもっと短くなる。
ちなみに、先述した侍ジャパン戦の「売り子日本代表」にも選ばれ、その試合では自己最高335杯を記録した。
なぜ、彼女は平均の倍以上も売上を伸ばせるのか。
そのワケ、テクニックを聞いてみた。
まず売り子にはある程度の担当エリアがあり、真悠子さんはネット裏から内野席、ライトスタンドといった一塁側で販売することになっている。
「たとえば平日ナイターの場合、一般開場は16時20分(ファンクラブは15時30分)です。私たちの仕事はそこから始まります。ただ、ビールが一番売れる時間帯は19~20時頃です。その時間帯にどの場所にいれば、効率よく売ることができるのかを見極めるのが試合前なんです」
試合開始までの練習時間に売り歩きながら、スタンドを見渡す。
「たとえば外野席のお客様はリピーターで応援に来られる方も多くて、常連で買ってくださる方も多いんです。今日は常連さんがあの辺にたくさん来てるなとか、あまり来られていなければ内野の方がいいかなと、試合前までに“あたり”をつけておくんです。それは日々違うので、必ず試合前にやっています」
そして、試合中もホークスの攻撃が盛り上がると見ればライトスタンドに足を向けるし、お客から声を掛けられてもビール樽が空になれば交換して、その場所にすぐ戻らなければならない。
洞察力や分析力、野球を見る力、記憶力、空間認識力など、様々なスキルが優れていなければ好結果を残すことはできない仕事なのだ。
(提供:SoftBank HAWKS)
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売り子データで新商品誕生

また、大山課長によれば、球団としても売り子のデータを同時期からとり始めたことで、一つの新商品の誕生につながったという。
それが、ホークスが8回表終了時にリードをしていれば発売される「勝利のビール」だ。
「先ほど話の中にも出ていましたが、ビールが売れる時間帯とそうではない時間帯があります。以前は感覚的なものでしかありませんでしたが、数字にそれがはっきりと表れました。試合の終盤は売上が落ちていました」
「そこで、少し量を減らし、値段も安く(通常700円→500円)して今シーズンから販売したところ、かなりのヒット商品となりました。今年のビール売上が伸びている一つの要因となっていると思います」
そして、言葉を継ぐ。
「売り子部門に関しては、まだまだ伸びていくと思いますし、発展途上の数字だと思っています」
ところで、売上女王の真悠子さんは今季限りでビール売り子の仕事から退くという。
「来年はアサヒビールのスタッフとして、売り子さんたちの指導や管理などを行う仕事に就きます」
真悠子さんからビールを買うことができるのは、18日開幕のクライマックスシリーズ・ファイナルステージ。そしてホークスが勝ち進めば日本シリーズが最後となる。
この機会にヤフオクドームに足を運んで、ナンバーワン売り子から注いでもらうビールを片手に、野球観戦の秋を楽しむのはいかがだろうか。
(撮影:田尻耕太郎)