求職者と仕事の適切なマッチングは難しい。あるスタートアップが、人材採用プロセス全体をもっと簡単にしようと取り組んでいる。

新しい仕事の機会創出にAIを利用

人工知能(AI)とオートメーションが人々の不安を高めている。仕事を奪われる恐れがあるからだ。最近の推計によれば、すべての仕事の半分近くがすでに存在しているテクノロジーを使って自動化されうると予測されている。
だが、仕事の機会を奪うのではなく、新しい仕事の機会を作り出すためにAIを利用しているスタートアップがある。ボストンに本拠を置くAvrioだ。ナチ・ジュナンカルが設立した同社は、人材斡旋会社や企業の採用担当者がAIと機械学習を利用して、採用活動で適切な人材を見つけられるように支援している。
採用担当者はAvrioのシステムを使うことで、大勢の求職者の中から適切な人材を簡単に見分けられるようになる。また求職者の側も、自分のスキル、経験、志望するキャリアに最も適した就業機会を見つけ出せるようになる。
今はほとんどの企業が求職サイトや自社の採用ページから履歴書を集めるシステムを運用している。また、キーワードベースのジョブマッチングシステムを利用していることをアピールする企業もある。
だが、AvrioのAIベースのシステムは膨大な数のデータをチェックして分析し、求職者を評価してランク付け。企業が募集している仕事とマッチングする作業まで行ってくれる。そのため採用担当者は、売り込みや人脈づくりといった人間が最もうまくこなせる仕事に集中できるようになる。
Avrioは、レイモンド・チャン率いるボストンのベンチャーキャピタルNXT Venturesなどの投資家から2度にわたって資金を調達した。また、近いうちに3回目の資金調達を実施してスタッフを増員する計画だ。同社は現在、14名の従業員を抱えている。
筆者はジュナンカルにインタビューを行った。以下は、同氏の発言内容に、読みやすいよう編集を加えたものだ。

仕事の適性を数値化してマッチング

──Avrioの設立を決めた理由は?
企業の人事採用部門は、さまざまな目的に利用できる豊富な人的資源を抱えています。しかし、こうしたスタッフはもっぱら自社内部での求人・採用業務に時間を費やし、多くの人的資源が活用されないままになっているのが現状です。
Avrioを設立するにあたって、私たちはいくつかの基本的な目標を掲げました。
1つ目は、人間には人間が最も得意なことをしてもらい、機械には機械が最も得意なことをしてもらうということです。人間は、人脈づくりや売り込みを得意とします。いっぽう機械は、大量にあるデータの分析、候補者のマッチング、採点、ランク付けといった認知的作業が得意です。
2つ目は、求職者を手厚くサポートすることです。具体的には、彼らにとって有意義な体験を提供し、プロセスを可視化し、応募した仕事への適性について有益な情報を提供する必要があります。
現状では、求職者は求職活動中に何が起こっているのかがわからず、応募した仕事への適性についてフィードバックを得られることさえありません。
当社のプラットフォームでは、求職者に対して応募した仕事への適性に関する有益な情報を提供します。最も適している仕事は何なのかを伝え、求職活動中にサポートや支援を豊富に得られるようにするのです。そして、応募した仕事への適性がどれぐらいあるのかがわかる情報を提供します。
たとえば、「ジョイさん、あなたが応募したXという仕事への適性は55点と評価されました。しかし、70点台を獲得している仕事がほかにいくつかあります」といったわかりやすい形で情報を提供できます。このような情報は、求職者にとって非常に価値が高く、時間の節約にもつながります。
全体として、AIを活用して求職者とやり取りすることは、求職者と企業の双方にとって非常に有効だと私たちは考えています。
──採用担当者に対しては、どのように支援を行うのですか?
AvrioのAIは、採用担当者にとってあまり価値のない多くの繰り返し作業を不要にするプラットフォームです。採用担当者は現在、履歴書や仕事内容の確認に多くの時間を取られています。彼らはきっと、自分の時間や能力が有効に使われていないと考えているでしょう。
また、採用担当者も人間であるため、公平なデータ分析ができていない可能性があります。個々人の主観的な見方が分析結果に影響する可能性があることは言うまでもありません。
AvrioのAIではAPIを使って応募者追跡システム(ATS)から人材と仕事に関するデータを取得し、マッチング、採点、選抜に必要なあらゆる作業を行います。
私たちは採用担当者側に立って、仕事の応募要件、仕事に「必須」のスキル、職務説明書に書かれたすべての細かい内容を把握します。次に、マッチングと採点を行うためのアルゴリズムを利用して、たくさんの重要なデータを分析します。
Xという仕事に応募した求職者がその仕事に対して高い適性を持っていなくても、問題はありません。私たちがそのことを求職者と採用担当者の双方に伝えます。
「ジョーさんはマーケティング責任者の職に応募しましたが、マーケティングデザイナーのほうが高い適性が認められます」というようにです。このようなマッチングが完了したら、最も高いスコアを獲得した候補者のリストを採用担当者に提供します。
平均的な採用担当者は、一人で20~50件の求人を管理しています。どの仕事が誰に適しているのかについて、詳しい内容をすべて覚えることなどできません。しかし当社のシステムは、求職者一人ひとりについてスコアカードを作成しています。私たちが採用担当者のためにあらゆる仕事を行うのです。

インタビューに質疑応答も自動化

──求職者についてはどうでしょうか? このシステムはどのように求職者を支援するのですか?
私たちは、求職者にも支援の手を差し伸べます。たとえば、適性評価が50点を超えているすべての求職者に対し、私たちはテキストメッセージやSlackやFacebookで連絡を取ります。
「アリソンさん。あなたはY社のこの仕事とマッチングしました。つきましては、一度お話がしたいのですが、お時間はありますでしょうか」といったようにです。
話を聞きたいという返事が来れば、彼らに連絡手段(テキストメッセージなど)を尋ねます。その後、ロボットが彼らとテキストでやり取りを開始します。
私たちは求職者に対して必ず、AIが彼らに対応していることを明らかにします。AIは高度なマッチング機能を備えており、応募した仕事への適性、求職者のスキル、求職者の希望などについて、状況を踏まえた高度な内容の会話を候補者と続けることができます。
たとえば、候補者に対して「あなたはチームを統率したことがありますか?」「そのチームの規模はどれくらいでしたか?」「そのチームを率いていた期間はどれくらいでしたか?」「途中で無職の期間があるのはなぜですか?」「この国で働くことを許可されていますか?」「機械学習に関わる仕事の経験はありますか?」といった質問をします。
──システムが質問できることはわかりましたが、質問に答えることもできるのですか?
できます。当社のAIは求職者に質問をするだけでなく、彼らの質問に答えることも可能です。
たとえば、「私はこの仕事にどれくらい向いているでしょうか?」「私に合いそうな仕事はほかにあるでしょうか?」「ほかの求職者と比べて私の評価はどうでしょうか?」「会社はどのくらいの時期までに人を採りたいと考えているのでしょうか?」「どのような企業文化でしょうか?」「ビール・フライデーはありますか?」「育児手当はありますか?」といった質問に回答できます。
こうした質疑応答は、完全に自動化されています。また、このようなやり取りをする中で、いくつかの作業が実行されます。
まず、求職者のプロフィール情報と「FitScore」を更新します。FitScoreはAvrioの商標登録済みのアルゴリズムで、過去の就労経験、学歴、資格に基づいて、採用担当者が特定の仕事に対する候補者の適性を0~100点の範囲で評価できるようにします。
次に、候補者とのやり取りをすべて書き起こし、メモセクションに記録します。候補者とのやり取りが終わったら、採用担当者に連絡してその結果を伝えます。
「採用担当者様。私たちはアリソンさんと話をしました。彼女のスコアは85点です。会話の書き起こしは以下をご覧ください。彼女のスキル、希望する給与などを確認しています」といったようにです。
採用部門のスタッフの仕事はきわめてシンプルになります。求職者と採用判断を行う責任者に内容を伝えるだけでいいのです。
5~10年後には、採用部門の業務が今とはまったく異なるものになると確信しています。決まりきった仕事を毎日こなすのではなく、コンサルティング的な役割に近い仕事に携わるようになるのです。
(注:Avrioは筆者のクライアントではなく、Avrioと業務上の関係も一切ない)
原文はこちら(英語)。
(執筆:Glenn Leibowitz/Contributor, Inc.com、翻訳:佐藤卓/ガリレオ、写真:Inok/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.