SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回はブームとなりつつある家庭菜園や貸し農園についてその背景や動向をまとめる。

広がる家庭菜園

家庭菜園は、ホームセンターなどの家庭菜園向けコーナーで商品も拡充され、農業体験などをきっかけに身近な存在になっている。タキイ種苗が行った、2017年3月に発表した「家庭菜園に関する全国調査」では、「現在、家庭菜園を実施」しているのは17.5%、「現在は作っていないが過去に作ったことがある」 のは30.9%となっており、両者合わせて約半数が「家庭菜園の経験がある」という結果もある。家庭菜園に関心を持つ人口は多く、潜在ニーズは高いものがあると想定される。
また、あおぞら銀行が実施した「シニアのリアル調査2015」でも、 “現在学んでいること、今後学びたいこと”の上位として、「パソコン」や「英会話」と並んで、「園芸・ガーデニング」がランクインした。
このように、一時的にはリタイア後の団塊世代ボリュームが増えるほか、野菜を育て楽しむことや収穫して味わうなど体験を重視するファミリー層の出現、さらにマンションなど集合住宅でもベランダ菜園を楽しみたい層など、幅広いゾーンで家庭菜園が注目を集めている。なお、家庭菜園を行う場所は、貸し農園や自宅の庭、プランターなど住まいの環境によって異なる。

ガーデニングと家庭菜園

しかし、拡がっているといっても、家庭菜園はガーデニング市場のうちまだごく一部である。
ガーデニング市場は、植物とガーデニング資材で構成され、様々な製品がある。
経済センサスの「苗・種子小売業」及び「花・植木小売業」の出荷額では、「花・植木小売業」が4,190億円、「苗・種子小売業」が610億円となっている。うち家庭菜園向けの野菜苗・果樹苗に限定すると、業界では200億円未満とされ、規模は小さい。

ガーデニング市場はやや停滞気味

ガーデニング市場自体を表す統計はないが、各種苗等の出荷量からガーデニング市場の推移をみてみたい。
ガーデニングは1990年の「国際花と緑の博覧会」をきっかけにブームとなったといわれる。花壇用苗もの類(業務用も含む)は、それに伴い1990年代に急激に増加、2002年には1990年の6倍以上の出荷量となっている。
しかし、その後市場は減少に転じ、鉢物類とともに現在はピーク時の7割程度の規模である。

一方で、家庭菜園ブームは約20以前から始まり、眺めて楽しむ花壇から収穫が楽しめる花壇に趣向の変化がみられた。これにより家庭菜園向け野菜苗の需要が顕在化しつつあるようだ。

縮むガーデニング消費

ガーデニング市場の低下はその他の統計からも裏付けられる。家計調査の「園芸用植物・園芸用品」の1世帯当たりの品目別支出金額(総世帯)をみると、やや減少傾向とも読み取れる。内訳では園芸用植物と園芸用品とが半々だが、こちらも前年を下回っており、投資意欲は低調である。

ガーデニングの行動率は総じて低下

総務省「社会生活基本調査」による「園芸・庭いじり・ガーデニング」の行動率をみると、過去10年にわたり徐々に減退しており、勢いはなくなってきている。内訳では、女性の60-69歳で5割近くあり、「25~29歳」「40~49歳」では行動率の下落がみられる。

高齢者に偏るユーザー

また、全体としての行動率の低下以外に若年層への浸透不足も懸念である。
レジャー白書によると、2016 年は「園芸、庭いじり」や「日曜大工」など、日常生活に近い空間での創作系の種目で参加人口が増加したり、順位を上げたりした。「日曜大工」「園芸、庭いじり」ともに 60~70 代が参加者の 5 割以上を占めている。参加人口は、2015年で2,670万人、2016年で2,660万人と若干減少しており、ここでも全体ボリュームとしては減少に向かうトレンドが窺える。

種苗企業も野菜に注力

ガーデニング全体が低調な中、パイはまだ小さいが家庭菜園は野菜関連製品の需要が拡大しており、参入各社の注力度も高い。季節に合わせた野菜の提案、種類ごとの専用肥料、育て方に至るまできめ細かな展開している。
種苗の上場企業であるカネコ種苗の事業売上高は、業務用や海外事業を含むものの、花きの減少に対して野菜等の種苗の成長が顕著である。

家庭菜園向けの商品開発が進む

具体的な施策内容をみてみたい。
タキイ種苗は、機能性成分を多く含む新しい野菜品種を育成、商品化、健康野菜シリーズ「ファイトリッチ」を展開している。ミニトマトの「CF千果」、「オレンジ千果」、大玉トマトの「桃太郎ゴールド」、ピーマンの「こどもピーマン(ピー太郎)」など全15品種で、強化商品として位置づけている。
サカタのタネは、初めてでもできる、味よく作りやすく、もっと野菜が育てたくなる、次世代の苗として、野菜苗シリーズ「おうち野菜」を展開。新品種でズッキーニの「夏みのる」、大玉トマト「つよまる」を追加した。園芸の専門家に気軽に相談できるアプリ『サカタコンシェル』を2016年4月からサービスを開始している。
サントリーの園芸部門から独立したサントリーフラワーズは、花きでは実績が多いが、野菜苗は後発である。本気野菜は種子販売を行わず苗での販売に特化し、「育てる」より「食べる」に主眼を置く。また、本気野菜は、家庭菜園を趣味として楽しむアクティブシニア層や、“食育”として子どもと一緒に育てて食べるファミリー層などをターゲットにしている。
アイリスオーヤマは、プランター菜園・家庭菜園の全てが分かる情報・コミュニティサイト「アイリス家庭菜園ドットコム」を運営する。なお、同社の「エアープランター」シリーズは通気性がよく、水もほどよく抜けることから評価が高い。

ビギナー向け製品や都市部では家庭菜園キットも登場

さらなる市場拡大のため、ビギナーやプランター栽培ユーザー向けの製品や、都市部でできる、より簡単な家庭菜園キットも出てきている。
小容量の用土や肥料、簡単に散布できる殺虫・殺菌剤や除草剤など手軽で使いやすい製品も重要なポイントである。 小型耕運機は家庭菜園ユーザーの需要拡大により、堅調な動向となっている。
都市近郊の庭のスペースが限られているところでも出来る品種や、それらをサポートするプランターや資材、さらにマンションのベランダで栽培できる苗や資材、およびセット商品も発売されている。
ファミリーマートでは、2017年4月4日から、タネやプランターの販売を開始した。住友化学園芸、ファミリーマート、サカタのタネの共同開発商品で、圧縮培養土とタネに加えて、栽培の途中に与える肥料がセットになっている。日用品売場でガーデニングコーナーを設置し、全国の約 18,000 店で、ガーデニング関連商品約 20 種類を販売する。
一方では、家庭菜園が、自宅の庭、プランターなど住戸とは別に、市民農園や貸し農園まで活動の場が拡がりつつある。その背景には、市民農園が徐々に増えてきていること、耕作放棄地や有休農地を貸し農園として農作業のサポートを提供してくれる民間企業が登場していることなどが挙げられる。JAグループも体験型農園に本腰を入れ始めている。

増加する市民農園

2005年に改正特定農地貸付法が施行され、地方公共団体及び農業協同組合以外の多様な者による市民農園の開設が可能となった。市民農園の数は、2016年3月の時点で、全国で4,223農園と、20年近くで2倍に拡大している。
農地は生産緑地法の2022 年問題を控え、宅地として大量に供給される可能性が懸念されている。これに対し、農林水産省と国土交通省は、都市部の農地「生産緑地」を維持するための対策に乗り出す。市民農園など生産緑地の貸借を含めた、都市農業振興やまちづくりが求められる。
2016年3月末現在、市民農園の農園数及び区画数は、前年度と比較して1%増加、面積は2%減少している。地域別では、関東ブロックが全体の約5割を占めている。
開設主体別で見ると、地方公共団体が過半を占めているが、農業者及び企業・NPO等による開設が増加している。

農業地域類型区分別では、都市的地域が、農園数・区画数で約8割、面積で約6割と大きな割合を占めている。

貸し農園のマッチングや指導・サポートする企業も出現

市民農園ブームにのって各種ビジネスも登場している。
アグリメディア(東京)は、貸し農園事業「シェア畑」を2012年からスタートさせた。遊休農地と都市住民のニーズをマッチングする。2016年8月現在、全国に70ヶ所、区画は日本最大の 6,200区画を運営している。種や苗の用意から、必要な農具も全て設置済み、菜園アドバイザーが付くので初心者でも始められる。
また、マイファーム(京都)は、自産自消を楽しく始める入り口「体験農園マイファーム」、指導サービス付、手ぶらで有機無農薬栽培を12~15㎡から楽しめるサービスを展開している。耕作放棄地を再生し、関東・関西・東海・九州エリアで、のべ100ヶ所以上開設している。

まとめ ~都市部の農業振興で、市民農園は魅力ある吸引要素で、発展が期待される~

2015年には都市農業振興基本法が制定された。昨年にはこれに基づく都市農業振興基本計画が閣議決定され、都市農地を宅地化すべきものから、農地として活用すべきという方向性が明確化された。これを受けて、地方自治体も都市部の農業振興に力を入れ始めている。今年5月には、「東京農業振興プラン」が策定された。
これを契機に、今後の市民農園は、従来の家庭菜園から飛び出し、需要層の拡大や事業機会が増えるような機運がある。同時に、有機的な循環と新たなコミュニティも醸成される可能性もある。この都市型の市民農園は、「ガーデニング(家庭菜園)」×「農地利用」×「コミュニティ」×「レジャー」といった要素を持つことから注目される。
今後の都市と農業とのグランドデザインを描く上でも、ひとつの過程としてみることもできる。所有から利用のシェアリングエコノミーが潮流にある中、本事業においても、新たな展開が進むと推察される。