想像上の未来は、現実逃避などではない。SFは、現実世界のイノベーションをじっくる考えるきっかけになる。

語られる技術革新は偶然ではない

サイエンスフィクションは、オタク的な現実逃避と言われることが多い。
だが、その道のエキスパートたちに言わせれば、嘲笑の的になりがちなSFというジャンルは、オタッキーなコスプレで遊んだり、『スター・トレック』世界のいろいろな点について詳細に議論したりするための口実などではなく、もっと奥深いものだ。
SFは昔から、重要な革新的技術を予言してきた。潜水艦やテーザー銃やレーダーは、その典型例だ。あなたが毎日使っている携帯電話も、スター・トレックに登場する「コミュニケーター」にインスパイアされたところがある。
そうした予言は、単なるまぐれ当たりや奇妙な偶然ではない。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』の最新記事でエリオット・ペパーが述べているところによれば、未来のテクノロジーを想像することは、ビジネスリーダーが現実世界のイノベーションをじっくり考えるのにうってつけの方法だという。
「『別の現実』を説得力のある形で提示するSFのストーリーは、『何を考えるか』にとどまらず、『どのように考えるのか』『なぜそれを考えるのか』という問題と真正面から向き合う力を与えてくれる。現状がいかにもろいもので、未来がいかに柔軟なものかを露わにしている」

MIT、SFの活用を促す講座を開設

マサチューセッツ工科大学(MIT)が将来のテック業界のリーダーたちに向けて、急速に変化する未来を考えるための手段としてSFを活用するよう促す講座を開いたのも、おそらくそれが理由だろう。
同講座でインストラクターを務めたソフィア・ブリュックナーは、「SF作家たちは、単に現代の技術を予言しているだけではない。そうした物語上の発明がもたらす結果についても、きわめて仔細に考えをめぐらせている」と説明する。
同氏はあるインタビューのなかで、SF小説に着想を得たいくつかの学生のプロジェクトを詳しく紹介している。
では、思考力を刺激し、急速なイノベーションに備えるうえで役立つのは、どんなSF作品なのだろうか。本記事では、テック業界や起業の世界で才能を発揮している人たちの意見をもとに、SF初心者にもぴったりの作品をいくつか紹介しよう。

マスクやゲイツ、お気に入りの1冊

1. 『ファウンデーション』3部作 アイザック・アシモフ著(邦訳:早川書房)
イーロン・マスクが推薦している作品だ。同氏はこの3部作について、大きな夢を抱き、人類が今後も技術の進歩とともに歩んでいくために懸命に働こうと考えるきっかけになったと語っている。
2. 『銀河ヒッチハイク・ガイド』ダグラス・アダムス著(邦訳:河出書房新社)
こちらもマスクの愛読書。ヴァージン・グループ創設者のリチャード・ブランソンにとっても、お気に入りの1冊だ。マスクはこの本について「質問することは、答えるよりも難しい」ことを教えてくれたと語っている。
3. 『スノウ・クラッシュ』ニール・スティーヴンスン著(邦訳:早川書房)
聞くところによれば、ペイパルを創業する前のリード・ホフマンとピーター・ティールは、影響力の大きいこの小説について語り合って週末を過ごしたことがあるらしい。この作品は、セルゲイ・ブリンのお気に入りの1冊でもある。
4. 『Seveneves』ニール・スティーヴンスン著(未訳)
この大作は、ビル・ゲイツのお気に入りの1冊だ。目前に迫った地球滅亡の危機を描くこの小説が「私のSF愛を再び燃え上がらせた」と同氏は語っている。ただし、「技術的な細々とした点にうんざりする読者もいるだろう」とも警告している。
5. 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック著(邦訳早川書房)
この作品は、前述のMITの講座でも扱われている。「作品のなかで描かれているデバイスには、とてもユーモラスで風刺に富んだものもあるが、掛け値なしに奥の深いものだ」とブリュックナーは述べている。

ザッカーバーグ、創業初期の愛読書

6. 『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード著(邦訳:早川書房)
この人気SF小説は、ビデオゲームの天才少年が現実の戦争に巻き込まれていく物語だ。マーク・ザッカーバーグは初期のフェイスブックのプロフィールのなかで、この本をお気に入りの1冊と紹介していた。
7. 『The Three-Body Problem(三体)』劉慈欣(リウ・ズーシン)著(未訳)
その後、少しおとなになったザッカーバーグは、自身のブッククラブで中国人SF作家によるこの作品をピックアップしている。3部作の1作目だ。
8. 『New York 2140』キム・スタンリー・ロビンスン著(未訳)
冒頭で紹介したペパーの記事には推薦書が満載で、この作品もそのうちの1冊だ。
本書の世界では、海水面の上昇がきっかけとなり、「ヘッジファンド・マネージャーや不動産投資家が、潮間帯市場指数という新しい指数をつくりだす。気候変動が加速し、世界経済が大都市にますます集中していくのに伴い、インフラの見直しがこれまで以上に緊急の課題になる」。
9. 『Change Agent』ダニエル・スアレース著(未訳)
これもペパーの薦める1冊だ。この作品では、不気味に迫りくる合成生物学の影響が描かれている。
10. 『The Last Firewall』ウィリアム・ハートリング著(未訳)
ベンチャーキャピタリストもSFが大好きだ。VC2社の共同創業者であるブラッド・フェルドは、SFというジャンルを読むと「さまざまな投資対象に関して、脳のなかで無意識のフレームワークが生まれる」と語っている。
フェルドのブログでは、おすすめ作品が数多く紹介されている。同氏が「傑作」と評する本書も、そのうちの1冊だ。
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あなたなら、SFの世界を探検したい初心者に、ほかにどんな本を薦めるだろうか?
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman/Contributor, Inc.com、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:Kirillm/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.