エネルギー政策において、“捕らぬ狸の皮算用”をしてはいけない

2017/6/15
NewsPicksは、J-WAVE「STEP ONE」(毎週月~木 9:00~13:00)と連携した企画「PICK ONE」(毎週月~木 11:10~11:20)をスタートしました。
15日は、国際環境経済研究所理事の竹内純子さんが出演。「原発新増設を明記、経産省が提案 エネ基本計画」(日本経済新聞)を題材に、今後のエネルギー政策とその課題について解説しました。

原発の新設や建て替えを行うのか

サッシャ 今日は、「原発新増設を明記、経産省が提案 エネ基本計画」というトピックにフォーカスです。
寺岡 解説してくださるのはNewsPicksの公式コメンテーター「プロピッカー」の竹内純子さんです。
竹内さんは、国際環境経済研究所 理事・主席研究員として活躍されています。おはようございます。
竹内 おはようございます。
サッシャ 今回、経済産業省はどんな提案をしているのでしょうか。
竹内 政府は、エネルギーに関する基本計画を3年に1回程度見直しをして、今後の10~20年後の日本がエネルギーに困らないような計画を立てる義務があります。
その中で、この記事はまだ憶測によるものなのですが、「経済産業省が原子力発電所の新設や建て替えも含めて考えるという表現をするのではないか」と出たんです。
サッシャ なるほど。東日本大震災後、当時の民主党政権は原子力発電所を一度すべて廃止しようとする動きがありました。
自民党に代わってからは方向性が変わった印象があります。今後原発を推進していくことになるのでしょうか。
竹内 いえ、推進していくわけではないんですけれども、今週月曜日のPICK ONEでもパリ協定が話題になりましたよね。
日本は、2013年度比で「温室効果ガスの排出を26%削減する」としましたけれど、一定程度の高い目標を達成するためには、再生可能エネルギーも必要だけれども、原子力を使わなければいけないだろうとなっています。
そこにおいて、総発電電力量の20~22%を、原子力発電で賄うとしています。これに関しては、現在の原子力発電所をメンテナンスして使うのであれば、何とか達成できます。
ただ、原子力発電所にも寿命がありますので、だんだん引退していきます。2030年はそれでいいかもしれない。
でも、政府は2040年、50年についての方針を出していない状況なんです。
そのため、この方針を新しく見直しをするときに、原子力発電所の新設や建て替えも否定しないのか、何も言わない形にするのか、非常に関心を呼んでいるんです。
サッシャ なるほど。竹内さんは、今後の政府の方針はどうなると考えていますか?
竹内 今のエネルギー基本計画は2014年に出されました。そこでは、新しい規制基準に合格した原子力の再稼働は進めると書かれていますが、新設や建て替えに関しては一切触れていないんですね。
なので、そこから3年経って見直すとなったとき、「原子力について政府がどう考えているのか」を示す以外に、変える価値がありません。
その他における、再生可能エネルギーを導入することなどは変わらないですし、それをサポートする制度もありますし、電力の自由化もされましたから。
ただ、この記事についてもコメントでは賛否両論が入り乱れました。政府は、世間のみなさまがどう見ているかを、考えていると思います。

再生可能エネルギーの可能性

サッシャ 震災を経験して、原子力発電に対して不安に思う方もいますし、一方で最先端産業は安定的な電力供給がされないと困るので、必要だと思っている方もいます。
その中で、再生可能エネルギーを使っていくことは、将来的な技術革新も含めて、今後描くことはできないのでしょうか。
竹内 もちろん、そういう描き方をするんですね。ただ、現在は太陽光と風力が賄っているエネルギーは全体の約5%です。
最近、テスラモーターズがこれまでの4分の1ほどの価格で蓄電池を出しましたが、今後コストが飛躍的に下がって行けば、エネルギーの絵姿は変わります。
でも、エネルギー政策で一番やってはいけないのが「捕らぬ狸の皮算用」です。
エネルギーは生きていくためのライフラインなので、期待をして今後を描くのではなく、ギリギリのコスト想定をしながら期待値を見積もることが大事になります。
サッシャ だからこそ、環境や技術の変化を見ながら、3年に1回見直すんでしょうね。
再生可能エネルギーに関して言うと、もっと導入しているドイツや北欧などの国に比べると、日本はパーセンテージを含めて低い気がするんですけれど、それはなぜですか?
竹内 特別に進んでいないわけでもないと思います。パーセンテージなど、比較することは難しいんですね。
例えば、水力についてはその国の地形によるところがあります。太陽光に関しては、日本は急峻で山が多く、日射量も異なります。風力においても、ヨーロッパのように安定した偏西風が吹くわけではありません。
この前、北海道の風力発電の現場に行きましたが、「一年中吹く風がないんです」とお話しされていました。冬は風が強いのですが、夏は止まってしまうので、自然条件に違いもあります。
そして、一番大きいのは、日本は再生可能エネルギーのコストが海外の倍くらいであること。再生可能エネルギーを安くする努力が必要だと思います。
寺岡 地熱とかは、可能性がありそうな気がするんですけどね。
竹内 そうですね。日本は火山大国なので地熱は期待されるところではあるんですけれど、地熱は地面の下を掘るので、事業リスクが高いんです。
電気を作れるようになるまで、10年以上格闘しなければいけません。太陽光のように気軽な形で家に設置できるものではないので、難しいところがあります。

リスクを総和で考える

サッシャ 原子力発電に関しては、お金では換算できないリスクもありますよね。原子力発電を増やすにあたっては、そこが解決されていないと心配する方もいると思うのですが。
寺岡 汚染など、環境問題といえば、という感じですよね。
竹内 そうですね。「使用済み燃料の最終処分地が決まっていないじゃないか」とか「事故のリスクがあるじゃないか」と言う声もあります。
そうしたことは東日本大震災の事故で体感しているわけですけれども、「見ていないリスク」もあると思います。
例えば、日本は火力発電で原子力発電を代替していて、全体の9割近くを頼っています。それは、温暖化に対するリスクとしては増やしてしまっています。
あるいは、中東に対する依存度が高くなって、日本のエネルギー自給率が6%にしかなっていない。そうしたところまで含めて、リスクを総和で考えていく、全部を見る目が必要なんだと思います。
サッシャ なるほど。竹内さん、ありがとうございました。
竹内 ありがとうございました。
※本記事は、放送の内容を再構成しています。
今回のニュースをはじめとした竹内さんのコメントは、ぜひ以下からチェックしてみてください。
来週19日は三井不動産の光村圭一郎さんが出演予定です。こちらもお楽しみください。

【番組概要】放送局: J-WAVE 81.3FM
番組タイトル: PICK ONE
ナビゲーター: サッシャ、寺岡歩美(sugar me)
放送日時: 毎週月~木曜日11:00~11:20(ワイドプログラム『STEP ONE』内)
番組WEBサイトはこちらをご覧ください