【プロピッカー】「東京の未来」を考えるために注目すべき視点

2017/6/15
2017年6月の「マンスリー・プロピッカー」のテーマは「マクロ経済を読む」「東京の未来」「飲食イノベーション」の3つとなり、合計12人が就任しました。
今回は、「東京の未来」に関してコメントする4人が、今後の都市を考える上で必要な視点などについてコメントします。
※各テーマに詳しいピッカーの皆さまを紹介する「おすすめピッカー」のページはこちら

新しい都市と人間の関係を前提に

光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)
6月のマンスリープロピッカーを担当しています、三井不動産ベンチャー共創事業部の光村圭一郎です。
私は三井不動産で、①新規事業の創出、②既存本業の革新、③スタートアップと大手企業によるオープンイノベーションコミュニティの形成、という3つのテーマで働いています。
特に3つめのテーマについては、東京・日本橋に「Clipニホンバシ」というスペースを開設し、オープンイノベーション推進のための活動を行っています。
私が所属している三井不動産は「まちづくり」をテーマに掲げる不動産デベロッパーです。このような会社で新規事業の創出や既存本業の革新を考えるとき、そもそも都市とは何なのか、都市はどのように変わっていくのか、という問いに対して、真正面から取り組む必要があります。
都市には多様な定義がありますが、私は「ヒト・モノ・カネ・情報が集積し、交錯するための、最善ではないが最適な形態」と考えています。
人間が生きていく上で重要な要素をもっとも効率的に活用できる場所が都市であり、それがために、様々な弊害が存在するにもかかわらず、多くの人たちが都市で暮らすことを選んできました。
しかし、その一方でテクノロジーの発展にともない、リアルな都市が果たしてきた多くの機能がデジタルで代替できるようになっています。
また、VRやAIなどの革新的な技術は、空間や都市に暮らす人間という存在自体の概念を根本的に変える可能性すらあります。
そのときに、都市は果たしてどうなっているのか。私たちが暮らす空間はどのようになっているのか。
これからの不動産デベロッパーは、従来の都市の概念に則ったまちづくりを行うだけではなく、単なる都市の課題解決を目指すのでもなく、新しい都市と人間の関係性を前提にした取り組みを加速させていく必要があります。
このような問題意識のもと、NewsPicksでは「東京」や「都市」という領域に関するニュースにコメントを付けさせていただきます。
皆さんとのコミュニケーションを通じて、新しい都市のあり方に関する議論が深まることを楽しみにしています。よろしくお願いいたします。

訪日外国人の視点で見る東京

伏谷博之(ふしたに・ひろゆき)
6月のマンスリープロピッカーを務めている、タイムアウト東京代表の伏谷博之です。
「本当に素晴らしいものは、世界のどこであれ誰であれ感動を与えてくれる。」を掲げ、東京の魅力をマルチリンガルで発信しています。
NewsPicksでは、インバウンドやクールジャパン、街づくり、地方創生などが仕事に直結することもあって、このあたりのニュースに関して積極的に情報をピックしています。
たとえば、地域における新しい市場の形成、持続的な発展という視点を訪日外国人の観光行動起点で考える「インバウンド・ツーリズム」や、海外で展開している注目のサービス、日本の地方における興味深い取り組み事例などについて、コメントしています。
私は、東京がこれからどんな街になっていくのかに興味があります。街と社会、人々の生活に変化を促すような新しい動きにはジャンル問わずアンテナを立てたい。
今年の3月には日経新聞とタイムアウト東京で『OPEN TOKYO』プロジェクトをロンチし、タブロイド誌『日経マガジンFUTURECITY』を共同で創刊しました。
東京に潜むあらゆるバリアを取り除くことで、障がい者や高齢者、子ども、子どもを育てる親、LGBT、外国人などマイノリティを含むすべての人が楽しめる都市・東京を実現していこうという取り組みです。
OPEN TOKYOでは、バリアを取り払う活動に取り組む企業や、組織、個人の活動を取り上げ、発信していきますので、そういった領域についても広く興味をもってピックアップしていけたらと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いします。

これまで以上に“距離”が重要に

速水健朗(はやみず・けんろう)
「都市」をテーマとしたマンスリープロピッカーを務めている、ライター・編集者の速水健朗です。よろしくお願いします。
僕は、取り立てて専門を持たない物書き(元々はコンピューターの雑誌編集者でした)としてやってきたのですが、ここ数年、もっとも取材して本を書いている分野が都市、特に東京についてです。『東京どこに住む』『東京β』という題名の本を2016年に刊行しました。
今、世界的に都市への注目が集まっています。特に都市の最都心部への集中、近接性の価値が高まっていることなどが、その具体的な中身です。
とはいえ、どうしても都市の良さを語る語り口は、田舎とか地方の良さを語る語り口に比べて分が悪い。人気がないというか、嫌われやすい。「田舎いいよね」、「地方見捨てちゃダメだよね」という声の力がどうしても強いんです。
それは、現状の地方創生の政策なんかとも相まって、さらに強くなっている気もします。東京への一極集中は、なぜだかよくないことというのが前提とされてしまう。
でも、人は狭くて混んでいて物価も高いのに、都市に住みます。謎です。そして、現実の解としても、都市に住んだ方が分が良いということも、ほぼ明確になりつつあります。経済学者のエンリコ・モレッティ『年収は「住むところ」で決まる』などを読むとそう書いてあります。
ちなみに、僕が自著の中でずっと触れてきているのも、インターネットや交通技術が発展して、距離を無効化できる時代になっているにもかかわらず、なぜ人々はかつて以上に、距離を重要視して都市を形成するのかという辺りです。
プロピッカーとして取り上げてコメントしていくのも、都市の価値にまつわるものになるかなと思います。都市と地方にまつわる問題。ネットでは常に話題を集めるテーマですよね。しばらくの間、おつきあいください。

“建築的視点”による東京の魅力

谷尻誠(たにじり・まこと)
今月のマンスリープロピッカーを務めている、建築家の谷尻誠と申します。
2000年に建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立し、現在は大阪芸術大学で助教授をしながら広島と東京の2拠点で活動をしています。
仕事の範囲は、住宅からビル、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、リノベーション、アート分野でのインスタレーションなど多岐にわたり、国内でプロジェクトを手がけています。
広島と東京を毎週行き来していますが、2つの拠点を持つことのメリットは、互いを俯瞰して観察できるところです。
地方の問題と魅力、また東京の問題と魅力を知ることで、その問題を魅力に変化させることや、魅力をより助長させることが可能になると考えています。
新しくつくった不動産会社の絶景不動産では、郊外の絶景地を専門に扱うことで、生活の豊かさを提案していくことを目的としていますが、同時に都市の夜景も絶景と定義することが可能です。
断崖絶壁の絶景地には、建築可能かどうかという不安がついてきますが、建築的な視点から我々が土地を考察することでその場所の魅力を安全性を確保しながら引き出すことが可能になります。
常に魅力と不安は表裏一体です。
新しい価値を創造するには不安が常につきまといますが、その不安こそが新しい価値の原料になることも少なくはありません。
魅力を設計すること、それは日常に目をやることだと考えています。
建築家とはよく先生と呼ばれます。僕からすると先生と呼ばれると、医療の業界に例えるとドクターで、本当に大事な時にしか会えない存在のように感じてしまうのですが、僕の目指すべき建築家像はドクターではなく町医者で、いつも町の人とコミュニケーションをとりながら、町の健康を気遣える、そんな建築家像を目指しています。
世の中には、「お金持ちじゃないと建築家には依頼できない」という既成概念があり、まだまだ敷居が高い。もっと「建築を開いていく」ことが、ずっと取り組んでいるテーマの一つです。
わかりやすい言葉で建築を伝え、社会性のある活動をしたいと思っています。
NewsPicksでは、これまで興味深い建築やデザインの事例を中心にコメントしています。
こうしたニュースをピックすることで、建築が持つ魅力や可能性について、みなさんにお伝えできればと思っています。
それではみなさま、今後ともよろしくお願いします。