孫正義は、テクノロジー界のバフェットになれるのか?

2017/4/17
「私に資金があれば、ARMのような企業にもっと投資ができる」
2016年9月3日、東京・赤坂の迎賓館。ソフトバンクグループの孫正義社長は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子との面談で、未来のテクノロジーに10兆円以上を投資する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の設立構想を披露した。
サルマンといえば、弱冠31歳にしてサウジアラビアの経済改革と外交の旗振り役であり、石油マネーを握る若きプリンスだ。
サルマンが作成した経済改革計画「ビジョン2030」は、国家経済の70%を石油に依存する体質から、グローバル投資によって収益を得る「投資立国」へのパラダイムシフトをうたっている。
サウジアラビアの副皇太子、ムハンマド・ビン・サルマンは、MBSの愛称で呼ばれるプリンスだ(写真:Anadolu Agency via Getty Images)
自身も米シリコンバレーなどに赴き、フェイスブックやグーグルといったIT企業の経営者と話をしている。台頭するテクノロジーベンチャーへの投資機会をうかがっており、すでに政府系公共ファンドを通して35億ドル(約3800億円)を配車サービスのUberに出資している。
一方の、孫。
通信会社のソフトバンクを中核にしながらも、その関心は、すべてのモノがインターネットにつながる「IoT(Internet of things)」の世界を広げることに注がれている。そのグランドデザインを描くためには、3.3兆円で買収した英半導体設計のARMの“次”に投資をしたい。
石油マネーの投資機会を求めるサルマンと、テクノロジーへの投資を急ぐ孫──。
2人の思惑が一致したのか、会談後、談笑する2人の写真をサウジアラビアの国営通信社が配信した。
そして6週間後には、今度は孫がサウジアラビアの首都リヤドを訪問。サウジアラビアの政府系ファンドが450億ドル(約5兆円)を出資するという、“電撃結婚”の覚書にサインした。
このファンドの出資者には、ティム・クックCEOが率いるアップル、孫の盟友といわれる郭台銘CEOが率いるホンハイ精密工業(フォックスコン)、そしてクアルコムや、オラクル創業者のラリー・エリソンなど、そうそうたる企業や経営者が加わってゆく。
ソフトバンクは米投資会社フォートレス・インベストメント・グループも、パートナー企業と約3700億円で買収(ソフトバンクの出資額は未定)すると発表している。もはや通信会社ではなく、投資コングロマリットになろうという本気度は、疑いようもないレベルに達している。
似て非なる「投資の神様」
10兆円を超える前代未聞のファンドを設立する孫は、一体ソフトバンクを今後、どのような企業体に進化させようとしているのか。
孫が20年前から繰り返し口にしている名前が、世界でもっとも著名な投資家である、ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイだ。
86歳になるバフェットは、米国最大の投資企業であるバークシャー・ハサウェイを経営する(写真: Eric Francis via Getty Images)
今年(2017年)で87歳を迎えるバフェットは、世界中から「投資の神様」としてあがめられている人物だ。大株主として経営するバークシャーは、時価総額にして4018億ドル(約43兆6000億円)という米国最大の投資企業になっている。
そんな孫とバフェットには、その投資スタイルによく似た点がある。
バークシャーは中核となる保険事業で生まれる潤沢なキャッシュを使って、雪だるま式に再投資を繰り返す。対してソフトバンクは、通信事業から生まれる安定したキャッシュが、その資金の源泉になっている。
これぞという優良企業に絞って投資を決めて、そうした企業の株を10年、20年、30年と長期間保有する「超長期視点」もそっくりだ。
一方で、まったく違う点もある。それは投資アプローチだ。
「ルーブル美術館」と「MoMA」
バフェットは、高いブランド力と収益性をほこる、歴史ある老舗企業などに好んで投資してきた。そのため2000年前後のドットコムバブルに世間が浮かれた時代も、かたくなにIT投資をしなかったことは有名だ。
そのためバークシャーが大株主として抱え込んでいる企業群は、まるで歴史的な名画が並ぶ「ルーブル美術館」のようだとたとえられる。
過去10年間では、世界で初めてトマトケチャップを発売したことで知られる食品会社のハインツ(1867年創業)や、そのルーツを19世紀にまでさかのぼることができる貨物鉄道大手のBNSFなど、米国の産業史を代表するような銘柄が並ぶ。
アップル株への投資が浮いて見えるが、これはスマートフォンの歴史をつくった会社として、もはやIT企業を超えた価値をもつと見なしたからだろう。
一方の孫は、足元ではキャッシュを生まなくても、大化けする可能性のあるITベンチャーやテクノロジーに積極投資する。IT業界で勝ち残ってきた実業家としての目利きが、その担保だ。
つまりソフトバンクの抱える企業群は、現代アートの名作が並ぶ「MoMA(ニューヨーク近代美術館)」のようだと言える。
上図には入っていないが、2000年にまだ無名だった中国のイーコマース企業、アリババに20億円を「秒速」で投資したのはその好例だ。過去数年では、急成長するインドの配車サービスやイーコマースの大株主になり、英国IT産業の至宝といわれたARMも手にした。
高値づかみか、格安の買い物になるのか、まだ結果が分からないコレクションも多い。
21世紀の伝説になれるのか?
NewsPicks編集部では今回、生ける伝説にもなっている投資家バフェットと、これからテクノロジー分野の世界的な投資家になろうという孫を、あえて比較しながら、その狙いや戦略をリポートする。
【秘録】孫正義の10兆円ファンドを束ねる、知られざる鬼才の素顔
生まれた国や時代、そして投資アプローチまで違うこの2人を、そのまま比較するのは難しい点があるのは否めない。
しかしもっと俯瞰して眺めれば、バフェットは20世紀に世界で最も豊かな国となった米国そのものに、半世紀以上にわたって投資をしてきた人物だ。
そうした成功が果たして、21世紀の経済を牽引するテクノロジーに投資する孫に再現できるかという視点は、多くの気づきや疑問点を私たちに与えてくれるはずだ。
孫は、果たしてバフェットのような存在になれるのか──。この挑戦に、今や日本人のみならず、世界中の人々が注目しているのだ。
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