電動自転車メーカー「ペデゴ」(Pedego)は、互いに引き寄せあう2つのトレンドを最大限に生かして、利益につなげている。50代以上の顧客がより楽に乗れる自転車を探していること、そして50代以上の起業家が第2(あるいは第3、第4)の活躍の場を望んでいることだ。

74歳、電動自転車販売店のオーナーになる

長年警察に勤務してきたフランク・マスカトは、よく警官仲間に向かってビジネスを始める話をしていた。「自分に起きたことや目にしたことで、気が滅入ったとき」に、起業という白昼夢で気を紛らすことは、職場ではめずらしいことではなかったという。
だが、当時のマスカトは、いずれ自分が本当に事業を起こすとは思っていなかった。それだけに、74歳にして電動自転車販売店のオーナーになったのは、本人にとっても驚きであり、またうれしいことだった。
マスカトは2016年9月、7万ドルを投じてインディアナ州ブルーミントンに電動自転車メーカー「ペデゴ」(Pedego)の販売店を開いた。そして、12月はじめに開催された年に一度のペデゴのディーラーミーティングに、大勢の同じ販売店オーナーたちとともに参加した。
ミーティングの2日目、カリフォルニア州ファウンテンバレーにある真っ白でがっしりとしたペデゴの新しい本社を視察していたのは、ほとんどが50代から70代の人々だった。
時刻はまだ午前8時だというのに、マスカトは早くも地元インディアナの電気工事店に電話をかけ、店舗内装のアップグレードについて相談していた。前日行われた他のディーラーのプレゼンテーションからヒントを得たというのだ。
「新しい照明を入れたいんだ。店での自転車展示について、いくつか新しいアイデアがある。窓に1台吊り下げようと思っている」と、ショートパンツにチューブソックスというラフな服装のマスカトは言う。もちろん、メガネは首紐付きだ。
「昨夜はよく眠れなかった。今後やれそうなことについて、いろいろ考えてしまってね」

起業家の4分の1が55歳以上、10年で大きく増加

ナビガント・リサーチによると、ペデゴはアメリカでは名のある電動自転車ブランドのひとつで、およそ1500万ドルと評価されている(ペダルでも駆動できる電動自転車は世界では157億ドルの市場規模があり、急速に成長中だ)。
2012年からずっと利益を出し続けている同社は、基本的には電動自転車の設計と製造を行う会社であり、販売の85%は独立したオーナーが経営するブランドストアに頼っている。
そうしたブランドストアは現在、アメリカ国内で60店舗近くあり、ごく少数の例外を除いて大半が50代以上、つまりペデゴの主な顧客と同じ年齢層の人々によって設立されている(年齢層が同じなのは、もちろん偶然ではない)。
起業家といえば、フード付きのパーカーを着た技術に強い若者というイメージがある。だが、よりダイナミックな起業家精神を持っているのは、実はもっと年齢の高い層の人々だ。
カウフマン基金によれば、20歳から64歳までの間にビジネスを立ち上げた起業家のうち、ほぼ4分の1を55歳以上の人々が占めており、1996年の15%から大きく増加したという。実際、過去20年間におけるこの年齢層の起業率の伸びは、他のどの層よりも大きい。
ベビーブーマー世代(NP注:おおむね1946年から1964年までに生まれた人々)は、それ以前のどの世代よりも長生きで健康を維持しており、経験が豊富で教育水準も高い。メリル・リンチの調査では、この世代の勤労者10人のうち7人以上が定年退職後も働き続けることを望んでいる。
ギャラップの報告によると、ベビーブーマーによるスタートアップの80%は、引退後の収入を補い、社会との関わりを持ち続けることを意図したライフスタイル上の選択として立ち上げられている。

人生後半での起業には特有の難点も

だが、なかにはもっと大きな野心を持った人々もいる。2008年に、当時50代前半だったドン・ディコスタンツォとテリー・シェリーが共同で創立したペデゴは、その両方の要素を併せ持った例外的な「ブーマー・スタートアップ」だ。
同社は、50代の連続起業家がもつ豊富な経験と新参者の熱意が組み合わさって誕生した。
ハートフォード大学とセントラル・コネチカット州立大学でそれぞれ財政学教授を務めるカーメン・コテイとジョセフ・ファルハートは、50代の起業家の会社はすべての年齢集団のなかで最も残存率が高いとしている。
3年間で154%というペデゴの成長の主な原動力となっているのは、初めてビジネスを立ち上げる定年退職者やセミリタイアした人々だ。そうした人たちは、最初は消費者としてこの電動自転車と出会った。そして、当初販路の不足に苦しんでいたペデゴを救うために集まってきた。
もちろん、人生後半での起業には特有の難点もある。
ディコスタンツォとシェリーは、高齢者が使いやすい電動自転車を作ったのと同じように、ディーラーの一部が抱えるテクノロジーやソーシャルメディアに関するスキル不足も十分に考慮して、ペデゴのビジネスを作り上げた。
そして、手持ち資金は豊富でも損失の挽回に使える時間はもうあまり長くない彼らのために、ビジネスモデルは意識的にリスクが最小化されている。

「25歳のときよりいい判断ができる」

それでも2人の創立者は、自分たちの命運をAARP(全米退職者協会)のメンバーたちに預けることに、少しも迷いはなかったという。
ペデゴの販売店オーナーたちは、もっと若い世代の自営業者よりも「成熟していて、私に言わせれば、より合理的でもある」と、CEOを務めるディコスタンツォは言う。ディコスタンツォは電動の乗り物が大好きで、3台のテスラを乗り継いできた人物だ。
「55歳のときの判断を、25歳のころと比べてみるといい。おそらく最近のほうがいい判断をしているだろう」
ディコスタンツォは、いまや60代を迎えた自分とシェリーは人生で最も野心的な起業ベンチャーに取り組んでおり、5年以内に評価額1億ドルの達成も可能と考えていると述べた。
「20年前よりも現在のほうがエネルギーに満ちている。わたしたちはディーラーの人々を年寄り扱いはしない。自分たちのことも年寄りとは思っていないからだ」
2006年、当時50歳に近づいていたディコスタンツォは、丘の上に建つ家に住んでいた。ビーチは丘の下にあり、サーフィンと日光浴を終えて自転車で家に戻ってくると、もう両脚が言うことを聞かなくなっていた。
そこでディコスタンツォは、オンライン通販で電動自転車を購入した。だが、その後さらに7社の電動自転車を次々と買う羽目になった。丘を上るときに手助けをしてくれる機能は気に入ったが、自転車としてはどれも好きになれなかったからだ。
そして、単純に面白そうだという理由で、2007年にニューポートビーチで電動自転車の販売店を開業した。

電動自動車が「心理的補助輪」になる

この店はあくまでも副業だった。ディコスタンツォは当時、起業家としての新たな人生をエンジョイしていたのだ。
ディコスタンツォは、自動車用化学製品メーカーに25年間勤務したあと、2004年に自動車ディーラーのサービス部門向けの雑誌を創刊し、シェリーをパートナーとして迎え入れた。
2人は1975年にカリフォルニア州立大学フラトン校で、フラタニティ(学生社交団体)「ファイ・カッパ・タウ」のプレッジクラス会長を争って以来の親友同士だ。シェリーは住宅ローン業界に長年勤務した後、やはり何かしないと落ち着かないと感じていた。
ディコスタンツォとシェリーは、しばらくこの雑誌を運営した後(現在もオーナーではある)、2007年に次のビジネスへ移行した。トヨタ製トラック用カスタマイズキットの製造だった。だが、この事業はグレート・リセッションによって行き詰まり、2人はディコスタンツォの「趣味」のビジネスだった電動自転車に着目した。
ディコスタンツォの店の客の大半は、ベビーブーマーかそれより年上の人々で、自転車に乗るなんて何十年ぶりだろうという人も多かった。そして、気持ちはまだまだ元気でも、身体のほうはそれほどでもなかった。電動自転車は、そんな人たちの「心理的補助輪」になった。
「大勢の顧客が、股関節とか足首とか心臓とかに問題を抱えていた」と、ペデゴのCFOを務めるシェリーは言う。
「股関節が痛み始めたら、スロットルを使って電動で走ればいい。そう思えることで、積極的に外へ出ていって何かをするようになる。誰の世話にもならずに帰宅できるとわかっているからだ」
※ 続きは明日掲載予定です。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Leigh Buchanan/Editor-at-large, Inc. magazine、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:SIphotography/iStock)
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This article was produced in conjuction with IBM.