コンビニの常識をぶっ壊す、アマゾン「無人店舗」の衝撃

2017/3/6

社長が「シアトル」に飛んだ日

2016年12月6日。日本がほこる大手コンビニチェーンの「3強」の一角を占める、ファミリーマートの社員たちに一通のメールが配信された。
メッセージの差出人は、新生ファミリーマートのトップに就任したばかりの澤田貴司社長だ。
「我々も既存の発想にとらわれず、お客様の利便性とは何かを追求し続けなければ、生き残ることはできません」
澤田社長からのメッセージが全社員に配信された(写真:Sam Edwards via Getty Images)
師走まで、残すところ3週間ちょっと。ユニーグループ(傘下にサークルK・サンクス)との経営統合を果たして、ファミリーマートの店舗数は全国1万8185店まで増え、長らくトップをひた走ってきたセブンイレブンの1万9166店にぐっと迫っていた。
勢いに乗る同社だが、社長からのメールは油断は禁物とばかりにこう続く。
「常に世界の最先端の現場では、何が起こっているのか、社員一人ひとりが興味をもって情報収集し、各分野で何ができるかを考えてください」
そして文中には動画配信サービス「YouTube」で公開されている、ある1本の動画のURL(ホームページのアドレス)が添えられていた。
そこにアクセスをすると、米アマゾンが制作した、あるイメージ映像が流れる。
「Amazon Go」──。
それはインターネットの世界で巨大な経済圏を築き上げたアマゾンが、レジもなければ、会計をする必要もないというコンセプトで作り上げた、まったく新しい「無人コンビニ」の姿だった。
映像に登場する女性は、お腹が空いているのか、陳列棚からサラダをむずと掴む。そしてあろうことか、自分のバッグにサッと入れると、財布を取り出すこともなく店外に出てゆくのだった。
「コンビニ業界からすれば、人間をゼロにすること自体が考えられない発想です」(大手コンビニ社員)
これはアマゾンがふんだんにお金を注いで披露した「一発芸」なのか、それとも強い意思をもって展開しようと思っている「試合開始」の合図なのか、その真意を知るものは殆どいない。
実際に、アマゾンの城下町の米シアトルでは、この「Amazon Go」の1号店がテスト運営されているだけだ。一般の買い物客はまだ入れず、アマゾン社員しか利用できない。
それでも、何か感じ取るものがあったのだろうか。
複数の業界関係者によれば、その後、澤田はシアトルに飛んだ。そこで何を見たのかは、特集後半のインタビューで紹介したい。

進化する5万店の「インフラ」

国内に約5万店舗あるコンビニは、いまや日本人の日常生活にとって欠かすことのできない、一種の社会インフラにまで成長している。
古くは米国で生まれたコンビニエンスストアの事業形態だが、1970年代に日本でもチェーンが続々と展開されると、まったくオリジナルな進化を遂げてきた。
時代のニーズに合わせて、コンビニは無数のオリジナル商品を生んできた(写真:後藤直義)
当初は、24時間365日にわたってお店が開いているという、単純な利便性がセールスポイントだった。客層はサラリーマンの男性が中心であり、タバコやコーラなどを買うために立ち寄る場所というイメージも強かった。
フランチャイズ方式で全国各地に店舗ネットワークが広がり、働き盛りの人々が気軽に食べることができる、おにぎりやおでん、オリジナルのお弁当など「国民食」を生み出してきた。
さらに時代を経ると、女性をターゲットにしたスイーツ類のヒット商品や、健康に気を使った高品質なお惣菜、スムージー、挽きたてのコーヒーも取り揃えるようになる。
店舗のフォーマットも次々と増えて、ドラッグストアを併設する店舗から、生鮮食品を充実させた店舗、その場でお茶を飲むことができる「イートインコーナー」も珍しくなくなった。
使いやすいATM(現金自動預け払い機)やチケット発券、さらには住民票の発行などのサービスも受けられるようになり、2011年3月の東日本大震災では地域を助ける社会インフラとしての役割がよりいっそう明確になった。
被災地などではコンビニの明かりが、多くの人々を安心させた(写真:後藤直義)
「コンビニ市場は飽和している」
10年以上前からそんな指摘を受けながらも、コンビニというインフラは進化を続けており、今やさまざまなサービスを取り込む強固なプラットフォームになっているのだ。

アマゾンとコンビニの「交差点」

一方の、アマゾン。
1994年に、シアトルのガレージで生まれたこの巨大IT企業は、最初はインターネットで注文を受けた書籍を人力で発送するという「ネット書店」に過ぎなかった。
しかし創業者のジェフ・ベゾスは、デジタル時代の買い物客の利便性をひたすらに追求し、物流センターやデータセンターを中心にしたインフラ分野への徹底投資を続け、いつしか競合の追随をまったく許さない「アマゾン経済圏」を作り上げた。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスCEO(写真:David Ryder via Getty Imgaes)
書籍や音楽ソフトから始まった商品ラインナップも、家電製品、玩具、スポーツ用品、食料品、衣類、カー用品などと拡大を続けており、すでに米国や欧州の一部では野菜や肉類など生鮮食品の配送も行っている。
そして、いよいよオンラインの空間を飛び出して、リアルの世界にその事業領域を広げている。
日本国内では2016年12月、ボタンをひと押しすれば、飲料水や洗剤などの生活必需品を発注することができる小型端末「アマゾンダッシュ」のサービスを開始した。また消耗品をアマゾンに自動注文するコーヒーメーカーや洗濯機、そしてアマゾンへの発注機能が付いた冷蔵庫もお披露目されている。
もっともっと消費者を便利に──。そんな飽くなきチャレンジの新形態として登場したのが、冒頭の無人コンビニ「Amazon Go」だった。
【3分読解】専門家らが分析。アマゾン「無人コンビニ」は何が凄いのか?
リアルな世界を網羅するコンビニチェーンと、デジタルの世界から抜け出てきたアマゾン。この2つの巨大プラットフォームは、いつ、どこで交わることになるのか──。
NewsPicksはそんな疑問を出発点にして、私たちの暮らしを支えるインフラである、コンビニがどのように今後進化をしていくかを取材。その結果を1週間にわたるオリジナル特集「コンビニの未来」として、お届けする。
(取材構成:後藤直義、バナー写真:Bloomberg)