【新】GDP1兆ドル。中国経済の心臓部「珠江デルタ」の全貌

2017/1/16

9つの都市+香港・マカオ

「新常態」(ニューノーマル)という中成長の時代を迎えた中国。かつてのふた桁成長の時代はとっくに過ぎてしまったが、なお7%前後の成長は続いている。
「中成長」になったとしても、13億人がいる中国経済のインパクトは大きい。少なくとも、中国が世界経済の中心の1つであることは間違いない。
中国の巨大な国土においては、地域によって明暗が分かれている。
今、光を浴びている成長センターの筆頭が、本特集で取り上げる「珠江(しゅこう)デルタ」だ。
珠江デルタは南部の広東省にあり、中国政府は9つの都市を珠江デルタの主要都市と定義している。広義の意味では、2つの特別行政区である香港とマカオも「珠江デルタ」に含まれる。
珠江デルタは中国南部の広東省に位置する
珠江デルタ9都市と香港、マカオ

東京を凌ぐ経済規模

鄧小平政権(1978-89年)による改革開放をきっかけとして、珠江デルタは急ピッチで工業化が進んだ。その結果、珠江デルタは成長を続け、2015年時点での9都市合計のGDPは9995億ドルに到達。これは東京都の7882億ドルを凌駕している。
1人当たりGDPも、深圳(しんせん/シェンジェン)、珠海(しゅかい/ジューハイ)、広州(こうしゅう/グアンジョウ)ではすでに2万ドルを突破。これは中国全体の約2.5倍であり、韓国や台湾に近い水準だ。
さらに輸出額を見ると、珠江デルタ9都市の金額は約6000億ドルに上り、日本全体の約6300億ドルに迫る。とりわけ、深圳は単体で2600億ドルに達しており、タイやマレーシアを超え、約2700億ドルのインドとほぼ同じだ。
まさに、珠江デルタは中国経済の心臓部なのである。

若き才能が中国から集結

珠江デルタでは、世界に名を轟かす企業も続々と生まれている。
例えば、次世代イノベーションで注目のドローン。そのドローン製造の中心的な役割を演じているのは、深圳で創業したDJIだ。
さらに、時価総額で世界トップ15位にランクインしているテンセントも深圳にある。WeChat(ウィーチャット)などのインターネットサービスは中国国内だけでなく、近隣のアジア諸国へと拡大しているほか、外国のスタートアップへの投資も始めている。
DJI製ドローンは深圳の街のあちこちで売られている(写真:川端隆史)
また、国内外のスマートフォン市場で急速にシェアを伸ばしている東莞市のOPPOや、東芝の白物家電部門を買収したミデア・グループは仏山市にある。
今、中国で元気の良い企業がひしめきあい、才能のある若者が中国中から集まる場所。それが今日の珠江デルタなのだ。

不足する珠江デルタの情報

しかし、「中国経済の心臓部」であるにもかかわらず、日本では珠江デルタについてあまり知られていない。
こうした現状を踏まえて、NewsPicks編集部では珠江デルタを特集。中華圏アジアの分析報道に携わってきた野嶋剛(NewsPicks東アジア特約コレスポンデント)とアジア・ASEAN研究を専門としてきた川端隆史(ユーザベース・アジア・パシフィック社リードASEANエコノミスト)が現地取材を行った。
本連載の構成は次の通りだ。
まず、この予告編に合わせて第1回としてフォトスライドを公開している。
現地で撮影した写真を多く用い、珠江デルタの雰囲気や、現地の人々の息づかいが感じられるように工夫した。また、経済データを整理し、数字で珠江デルタと日本や他のアジア諸国との比較も行っている。
【スライド】現地写真とデータで見る「珠江デルタ」
第2回と第3回は、珠江デルタで最注目のハイテク都市・深圳市をフィーチャー。深圳については以前にも「紅いシリコンバレー」の特集でも扱っているが、本連載では違った角度から深圳に迫った。
深圳を語る上で香港との関係が重要だ。これまでは「香港あっての深圳」だったが、最近は立場が変化しつつある。
第2回では、「東洋のシリコンバレー」の座を巡り競り合う、香港と深圳の関係を描き出す。
そして深圳の地場企業にもスポットライトを当てる。
第3回は、伝統的OEM企業、OEM企業からデザインオリジンへと変貌する企業、そしてロボットスタートアップという三者三様の企業を取材した。
OEMでの請負生産が中心だったが、最近、デザイナーを雇い、独自デザインのデジタルガジェットを製造販売するREMAX。深圳にある本社ショールームの様子(写真:川端隆史)
第4回からは、広東省州都の広州市へと話題を移す。
広州で重要なのは物流ハブとしての機能だ。広州ならではのユニークな「専業市場」をキーワードにして考察する。
第5回は広州市のもう一つの顔として、「チョコレートシティ」に迫る。
広州市には2万とも数万とも言われるアフリカ系の人々が住んでいる。彼らは何をするために広州にやってきたのか。その実態に迫る。
第6回は、珠江デルタの活力を象徴する離縁製の高い交通網を取り上げた。
新幹線、地下鉄、フェリーが1つに結ぶ。この「スーパー移動」インフラを使って縦横無尽に移動した体験記を記す。
手軽な料金で乗れる中国版新幹線の「和諧号」。珠江デルタの移動には欠かせない交通機関だ(写真:野嶋剛)
第7回の舞台はマカオだ。
折しも、日本でも通称カジノ法案が国会を通過した。中国の発展と共に世界最大のカジノ・シティとして繁栄したマカオの今と未来はどうなるのか。匿名取材も含めて現地で話を聞いた。
第8回は、空からの「一帯一路」に着目する。
珠海市で行われた「エアショー・チャイナ2016」では、ドローン戦闘機「影雲」とステルス機J20が初公開されたほか、中国の航空産業の発展は目を見張る水準だ。そこから見えてきた空からの「一帯一路」を分析する。
2年に一度、珠海市で行われる「エアショー・チャイナ」。中国最大の航空産業展示会であり、中国の航空産業の実力を推し量るためには重要なイベント。中国だけでなく、世界の注目が集まる(撮影:川端隆史)
本特集が、日本にとって「巨大で抗いがたい現実」である中国を理解するための一助となれば幸いだ。
(編集部注:「チョコレートシティ」という呼称は学術研究や英語圏の報道においても広く使われており、本連載でもその用例に従います。使用例として、Shanshan Lian, " The Shifting Meanings of Race in China:A Case Study of the African Diaspora Communities in Guangzhou", City & Society,Vol. 28, Issue 3, pp. 298–318. CNN, "The African migrants giving up on the Chinese dream",September 26, 2016など)
(バナー写真:iStock/kaidencl、広州市の様子)