米国のスタートアップ、ブーム・テクノロジーが超音速旅客機の開発を目指している。マッハ2.2(時速約2335キロ)で飛行する45人乗りの航空機を、5000~1万ドルの航空料金で利用できるようにするという大胆不敵なアイデアだ。だが、かつてコンコルドがそうであったように、課題は山積みだ。後編も引き続き、超音速旅客機が航空業界に受け入れられる可能性を検証する。

マッハ2.2で飛ぶ「超音速旅客機」はコンコルドを超えるか(前編)

GEの協力で2017年後半に飛行テスト

コンピューターシミュレーションで導き出した性能データがどれほど楽観的であっても、本物のジェット機が現実の過酷な環境に耐えられることを証明しなければならない。
ジェットブルー航空の幹部で、業界をよく知るマーティー・セントジョージによれば、「机上の航空機」から先の段階へ進むには、大規模な飛行テストが必要になるという。
「最近は、本物の航空機を飛ばす前にソフトウェアを使って何度もモデルを作成できる。それでも、実機を見るまで本当のことは何もわからない」
ブーム・テクノロジーはゼネラル・エレクトリック(GE)の協力を得て、3分の1サイズのデモ機「XB-1」の飛行テストを2017年後半に行う予定だ。
最初のテストでは、1950年代に開発されたGEの「J85」エンジンを搭載。まずは音速以下で飛行し、徐々に速度を上げていく。航空電子機器と環境制御システムはハネウェル・インターナショナルが手掛ける。

膨らむ燃料消費量とエンジン開発

しかし、技術面での最も大きな課題はおそらくエンジンだろう。
航空宇宙関連のコンサルタントで、スウェーデン空軍のパイロットだったビョルン・フェルムは最新の分析で、ロンドン~ニューヨーク間を飛行する場合、ブーム・テクノロジーのジェット機は従来の航空機に比べ、座席マイル当たり約3倍の燃料を消費する可能性が高いと試算している。
ティール・グループで航空宇宙関連のコンサルタントを務めるリチャード・アブーラフィアは「売上が大きい航路の主力として、このジェット機を購入する航空会社があるだろうか」と問いかける。
「ロサンゼルス~東京便やニューヨーク~ロンドン便であれば購入するかもしれないが、やはり座席マイル当たりのコストが重要だ。仕様の似たエンジンを実際に見るまでは、推測すらできない」
生産モデルのエンジン開発については「各方面」と話をしているところだと、ブーム・テクノロジーの共同創業者でもあるブレイク・ショール最高経営責任者(CEO)は説明する。
コアエンジンは「ボーイング787」用に開発された「GEnx」やロールス・ロイスの「トレント1000」など、旅客機で実績のある「素晴らしい選択肢」から1つを採用し、ターボファンやブレードを改良する予定だという。新しいエンジンとして規制当局の認可を得る必要があるため、開発コストはその分かさむ。
「基本的には、大きなファンを持つエンジンを1つ選び、中くらいのファンに入れ替える」。ただし、エンジン開発といっても、すでに飛行の実績があって「認可の道筋」が示された部品を「改良」するだけだ。「技術的に不可能なことは何もない」

乗客は速度とサービスのどちらを重視するか

エンジンメーカーは、このプロジェクトのためにどれくらい研究を行うことになるのだろうか。
ショールCEOは明言を避けたが、航空コンサルティング会社ボイド・グループ・インターナショナルの分析を見る限り、4000基近くのエンジンをつくることになりそうだ。おそらく主要なエンジンメーカーはこの規模に魅力を感じるだろう。
カリフォルニア州に本社を置き、チャーター便と定期便のサービスを提供しているジェットスイートのアレックス・ウィルコックスCEOは、エンジン以外の課題も指摘している。高価格の超音速サービスと、既存のジェット機で提供される高級感のある客室をどのように両立させるかという課題だ。
ブーム・テクノロジーの新しい超音速航空機は、ビジネスクラスとファーストクラスの乗客を呼び込むことができるだろうか。そして、もし呼び込めるとしたら、従来の航空機が空席だらけになってしまうのではないだろうか。
「料金設定について興味深い議論が浮上するだろう」とウィルコックスCEOは話す。「目的地はロンドンとして、超音速サービスとファーストクラスの料金はどちらが高くなるだろうか。そもそも、乗客は速度とサービスのどちらを重視しているのだろうか」

快適な「空上のオフィス」に勝つには

現代はコンコルド時代とは異なり、空の上でもオフィスと同じように仕事できることが重視されるようになっている。
航空会社にとっての優先事項はインターネット接続を安定させることだ。それに比べれば、超音速ジェット機の売りであるスピードの魅力はかすんでしまう恐れがある。
豪華なビジネスクラスキャビンの水平になる座席や贅沢な食事があれば、客席はまるで居心地のいい書斎だ。しっかり働き、休み、食べることができる15~20時間のフライトは、もはやビジネストリップの一部になっている。
ティール・グループのアブーラフィアも「かつては旅客機といえば筒の中に閉じ込められているような状態だったが、今や空のオフィスだ。すべてが比べものにならないほど快適になっている」と話す。1日の大部分を機内で過ごす人の多くが、とくに問題ないと考えるようになっているのだ。
このように、ブーム・テクノロジーの前に立ちはだかる課題は多い。それでも数年後、どこかの時点で超音速旅客機の経済的な課題は解消されると、航空専門家たちは予想している。
「私は心からこのジェット機を見たいと思っている。だから、皮肉な物言いはしたくない」とジェットスイートのウィルコックスCEOは話す。「ただ、本当に困難な道のりが待ち受けているはずだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Justin Bachman記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:© 2016 Boom Technology, Inc.)
©2016 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.