JALで現場力、BCGで職人技を磨いた御立尚資の「傍流人生」

2016/9/24
ボストン コンサルティング グループ(BCG)の日本代表を11年間務め、2016年1月1日に退任した御立尚資氏の仕事人生は、日本航空(JAL)からスタートした。14年半の勤務で現場力を鍛え、ハーバードMBAで経営学を学ぶ。36歳の時、BCGに転職し、若手に教えを請いながらコンサルタントとして職人技を磨き上げた。いつも周囲から外れ、保守本流ではない道を進んできたという御立氏の“傍流人生”。

本流から外れたところを歩く

2016年1月1日付でボストン コンサルティング グループ(BCG)日本代表を退任した。
日本航空(JAL)に勤めた約14年半、BCGで働いた約23年、さらにその前の学生生活の時代も含めて、敷かれたレールに乗るのではなく、いわゆる本流からはちょっと外れたところを歩んできた──。

36歳で転職。若手に追いつけない

ボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職した時は既に36歳。正直、3年生き残れないと思った。
コンサルティングの仕事の基本は、クライアントの分析を通じて課題を解決することだ。
この左脳的な部分では、大学を出てすぐBCGに入り、2~3年の経験を積んだ20代前半の若手コンサルタントに、全くかなわなかった。
とにかく仕事の進め方、アウトプットの生みだし方などすべてが3倍速の世界。
私もJALの経営企画部門ではある程度鍛えられたつもりだったが、最初はとても追いつけなかった──。

「御立塾」を始めて分かったこと

遅く修業を始めた私は、毎日の仕事で学んだコツやポイントを、走り書きのような形で書き残していた。
仕事を進めるうえでいわく言い難い部分を、言語化することで身につけやすくしようとしていたわけだ。
毎日書きためたメモを重ねると、1年半で約20センチの厚さになっていた。
これを生かし、後進に仕事のノウハウやポイントを伝えよう。
「御立塾」を始めて分かったことが2つある──。

青天の霹靂

思ってもいなかったことが起きた。大激震と言ってもよい。
BCG日本法人のトップだった堀紘一さんが、シニアパートナー2人と一緒にスピンオフし、ドリームインキュベータを設立するため退社してしまったのだ。
私にとっても青天の霹靂(へきれき)だった。
やっと1軍のレギュラーになったと思ったら、監督兼コーチが急にいなくなったようなものだからだ──。

BCGをどんな組織にしたいか

本来は世の中に対して価値を発揮できるのに、周囲と同化することができず、その力を発揮できないという人は案外多いのではないか。
同調圧力の強い会社でうまくやりながら、力を発揮できる人はそこにいればいい。
でも、そうでない人の力を別の場で発揮させれば、世の中の役に立つ。
ならばBCGにそういう人をたくさん集めればいいのではないかと考えた──。

JALの現場仕事が面白い

JALの何が面白かったかといえば、とにかく現場の仕事だ。
高卒たたき上げのものすごくできる人がいっぱい現場にいて、その人たちの仕事ぶりを見て感動した。
仕事ができる、できないと、学歴は全く関係がなかった。
2年目はアシスタントパーサーとして実際に飛行機に乗った。
180人分の肉をトレーに載せるのに、いちいち手袋をしていたら間に合わない。
やけどして指紋がなくなるところまでできないと、全員同時に温かい食事が出せないという世界だった──。

偉そうな奴はろくなもんじゃない

ファーストクラスの乗客を見て学んだこともある。
自分は特別だと勘違いしている人が世の中に実際にいると分かった一方、本当に尊敬できる人は腰が低いということもよく分かった。
BCGで一緒に働く若手が、タクシーの運転手さんに偉そうな口を利いた時は本気で怒鳴る。
サービス業の人は弱い立場にいるのに、金を払うからといって偉そうな口を利く奴はろくなもんじゃない──。

ノンビジネスの話題を語れ

テレビ出演を続けていて分かったのは、課外活動が実は本業に役に立つということだ。
ダボス会議などに行くと、そこに出席しているグローバル企業の経営者は、ビジネスの話なんかしていない。
話しているのは気候変動や社会の動きの話。今だったら人工知能(AI)やロボティクスが世の中にどんな影響を与えるかなどだ。
そういうビジネス以外のさまざまな話題について語れない人は、リーダーとみなされない──。
(予告編構成:上田真緒、本編聞き手・構成:織田 篤、撮影:遠藤素子)
真実はいつも「現場」にある
御立尚資(BCGシニア・パートナー)
  1. JALで現場力、BCGで職人技を磨いた御立尚資の「傍流人生」
  2. JAL14年、BCG23年、現場を経験して「勘違い」を学ぶ
  3. 異文化の中に放り込まれた「どんくさい霊感少年」
  4. 周囲とズレている私を助けてくれた「本と音楽」
  5. 「保守本流じゃない大人」に救われてきた
  6. 第1志望の同志社に落ちて、京大に合格した理由
  7. アナーキーな京大にどっぷり、今も心に残るやましさ
  8. CBSソニーの人事部にカチン。内定蹴ってJALに就職
  9. 学歴関係なし。JALの現場仕事はプロフェッショナル
  10. 現場を深く理解せずして、戦略など「絵に描いた餅」
  11. メキシコ赴任でスペイン語地獄。3カ月でマスター
  12. 理屈通りに動かないのが普通。不条理を楽しもう
  13. 経営をきちんと勉強したい。33歳、ハーバードに留学
  14. 自分にしかできない価値を出して、全体に貢献しよう
  15. 人生はいつ終わるか分からない。JALを退職してBCGへ
  16. 36歳で転職、20代若手に教えを請うて2年で追いつく
  17. 後進育成、「御立塾」で教えた仕事のコツやノウハウ
  18. 激震「堀紘一さん離脱」を乗り越えた、強みと人生観
  19. 「変わり者でも社会に役立つ」チーム戦の組織を作る
  20. 7割の時間「3足のわらじ」を履き、異分野を猛勉強
  21. 課外活動は本業に役立つ。やらないのは許されない
  22. 「兼業」時代に取り組む3つのライフワーク