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【SPEEDA総研】人気居酒屋チェーンの未来~死角はあるか

2016/9/10
SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は低価格・テーマ性などで人気を集める居酒屋チェーンの死角と今後を考える。

低価格、特徴ある居酒屋が増加

2007年以降途絶えていた居酒屋チェーンの上場が、近年再び増えている。塚田農場のエー・ピーカンパニーや鳥貴族、海帆、串カツ田中などだ。

既に各所で取り上げられているのでご存知の方も多いだろうが、念のため注目チェーンの概要を記載する。

いずれも低価格、テーマ性などコンセプトが明確で差別化しやすい特徴を持っている。

 居酒屋-01_上場

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既存チェーンを追い越す勢い

これら注目チェーンと従来の大手チェーンの店舗数を比べると、明らかな差異がみえる。

庄やグループの大庄、ワタミ、金の蔵の三光マーケティングフーズなどが店舗数を落としているのに対し、鳥貴族やエー・ピーカンパニー、ヨシックスは大幅に店舗が増加。

7月時点の店舗数では、鳥貴族がワタミを上回るなど、既存チェーンを追い越す勢いがみえる。

居酒屋チェーンとしてはモンテローザ(魚民、白木屋等)が約2,000店舗、コロワイド(甘太郎、土間土間等)が700店舗(居酒屋業態)の規模を持つためトップとはいかないが、準大手の水準といえるだろう。

 居酒屋-02_店舗数-02

売上、利益でも大手に迫る

売上についても同様だ。企業の売上としてはまだ差があるものの、FC店舗を含めた全店売上高(推計)では鳥貴族がワタミに迫る規模にあるとみられる。

さらに、営業利益では既存チェーンが軒並み下降、特にワタミが2期連続赤字であるのに対し、拡大基調が顕著となっている。店舗あたりの営業利益では、ヨシックスは最大手モンテローザの4倍近いことになる。

 居酒屋-03_売上-03

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 居酒屋-04_利益

既存店売上高で明暗

しかし、こうした注目チェーンは店舗拡大を急ぐあまり既存店がマイナスとなっている場合もある。

注目チェーン3社の既存店をみると、鳥貴族とヨシックスの好調が顕著である。業界全体では全店売上高が低下傾向にある中、既存店売上高は概ねプラスで推移、当然ながら全店売上高は大幅な増加。店舗を急拡大しながら既存店の伸張を維持しているのは驚異的である。

一方エー・ピーカンパニー、海帆については全店売上高が大幅に増加する一方で、既存店はマイナス基調である。エー・ピーカンパニーの2015年度決算が減益となったのは報じられた通りだ。2社については予断を許さないとはいえ、今後新規出店数の調整と既存店の改善策がとられれば、成長軌道に戻ることが予想される。

 居酒屋-05_既存店

新業態に死角はあるか

店舗数を大幅に伸ばしながら、既存店も堅調に推移しているこれらのチェーンに死角はあるだろうか。前述したように、これらの注目チェーンは低価格を特徴としており、薄利多売、つまり客の回転率が鍵である。

今のところ客数は好調だが、客足が伸び悩むと一気に苦しくなる可能性が高い。

ここで一つ懸念されるのが、客単価の低下である。業界全体、堅調な上記チェーン双方において、最近客単価の低下が続いている。物価上昇の反面賃金上昇が限定的で、実質賃金が低下したため、消費者心理が冷え込んでいることなどが背景にあるのだろう。

 居酒屋-06_2社客単価

なお、現時点で他の外食産業には居酒屋のような低価格志向が表れていない。若者の酒離れなども指摘されるが、いずれにせよ居酒屋業態のコストパフォーマンスに対して消費者の目が厳しくなっていることは間違いない。

 居酒屋-07_外食客単価-07

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“家呑み”の脅威

客単価の低下を客数で補っている分には特に問題はない。消費者の節約志向は低価格チェーンにとってはむしろ追い風となっているが、さらに進行すると状況は暗転する。安い居酒屋ではなく、もっと手っ取り早く支出を抑える方法として、家呑みが選択肢に浮上することになるからだ。

居酒屋にとっては不幸なことに、昨今コンビニのホットスナックや惣菜類が充実化されており、一昔前に比べればかなり品質の高いものが手軽に手に入ってしまう。

ビールの用途別消費動向をみると、業務用が減少を続ける一方で、昨年から家庭用が増加、全体における構成比も上昇しており、家呑み流行の兆しが見える。

 居酒屋-08_ビル用途別

店舗拡大は吉か凶か

全体としてみれば、専門業態の低価格チェーンはその特徴と消費者の低価格志向からしばらく好調が続くとみられる。円高による原材料費の低下もプラスに働く。

しかし、景気の先行き不透明感が増す中、消費者の低価格志向が徐々に現れている中で、低価格チェーンの今後の競合は居酒屋ではなくコンビニなどの家呑み市場になっていく可能性が高い。

今後の景気、消費動向次第ではあるが、1,000店舗などの数値目標を基準に走れば、市場が反転する兆候を見逃す恐れがある。

観光客需要の取り込み図る企業も

新たな需要の掘り起こしとして、外国人観光客を狙う動きもある。対象となりうる個人旅行者数は2015年に1,500万人規模であったとみられ、かなりの規模となりつつある。また、訪日前に最も期待することでは日本食が最上位であり、当然ではあるが実際に日本の食やお酒を楽しんだ人がほとんどだ。

居酒屋は他の和食料理店よりも比較的安価で手軽に利用できるメリットがある。観光客の1日1人あたりの食費は4~5千円。中国やASEANの観光客は富裕層が多いとみられ、消費意欲は欧米よりむしろ高いが、高級和食を食べられるほどの予算ではない。

また飲食店の言語対応が課題となっている中で、セルフオーダーシステムの普及が進んでいる点も旅行者にとって利便性が高い。

はなの舞を展開するチムニーは、両国や広島では江戸の町や厳島神社などを模した店舗で人気となっているが、観光客における居酒屋の認知度が高まれば通常の店舗でも対応可能だろう。

 居酒屋-09_外国人観光客

 居酒屋-10_観光客消費

 居酒屋-12_飲食費-12

厳しい環境にある居酒屋業界において、家族需要を取り込む企業が増えたように、今後あらゆる潜在需要を対象として考える必要があるかもしれない。

拡大を続ける新興チェーン、従来型のチェーン双方の動向が引き続き注目される。

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