【堀江貴文×池田純】プロ野球ビジネスは宝の山(後編)

2016/8/26
──今後の日本では野球の競技人口が減っていくといわれていますが、プロ野球のスタジアムに連れてこられる人はまだまだいると考えていますか。
池田 たくさんいると思います。楽しみたい人は世の中にいっぱいいますからね。
堀江 それをいったら、NFLのスーパーボウルを見てください。スーパーボウルは朝7時くらいからイベント会場が開いているんですよね。で、朝からずっと飲んでいるらしいです。試合が始まるころにはぐでんぐでんになって、スーパーボウルどころではないよ、と(笑)。
だけど、そこに行っているお祭り感ですよね。池田さんがずっとおっしゃっていますけど、野球をつまみに楽しんでもらうような場所に球場をしていけると何倍にもお客さんが増えますよね。何倍どころではなく、何十倍に増えると思います。
池田 ディズニーランドやUSJに行くといっても、特定のキャラクターが大好きな人ばかりじゃないですからね。あそこの空間と空気を楽しみに行っているわけで。野球、スポーツもそうなっていかないと。
堀江 ベイスターズはそれを実証されているわけじゃないですか。女性や子どもがすごく来やすい場所にするとか。たとえばトイレをきれいにするとか。
本当に僕、ヤクルトと神宮球場を買えるならいくら出してもいいなと思います。最高の立地ですからね。

カギはプレミアム化と二次流通

──ベイスターズも関内駅からすぐという横浜スタジアムの好立地を生かして観客動員を増やしていますね。今シーズン終盤はチケットの前売りがほとんど売り切れていると聞きましたが、そうなると収益を上げるためには球場を拡張するか、デジタルで伸ばすことが必要となりますか。
池田 両方だと思います。いまは2万9000席ですけど、マーケットを計算していると3万3000〜3万6000席がちょうど良いサイズなので、その範囲での増席はずっと考えていることだし、やらなければいけないことです。今はパンパンすぎるので。
ただ、デカくすればいいという時代ではないと思うんですよね。大きいという価値より、満員という価値のほうがブランドになりますからね。
堀江 どちらかというと、プレミアム化でしょうね。チケットをとれない状態をずっと続ける。とれないから、ネットで見るとかにつながると思うんです。
池田 チケットをとれなくて、そこにすごく価値があるから余計に買いたいわけで。一般的にブランドをつくるって、人の心に響く魅力的な価値をどれだけ高めるかですからね。
堀江 たとえばバスケとかでやっていますけど、プロ野球ではチケットの公式二次流通をまだどこもやっていないですよね。ダフ屋的にヤフオクとかメルカリに出している人がいるわけじゃないですか。あれをオフィシャルで二次流通させるのはありなんですよね。年間シートを持っている人が、「今日行かないから、誰かチケット買って」と。
池田 アメリカでは全部スタブハブ(イベントチケットの売買サイト)でそうやっているじゃないですか。日本では「二次流通をやると、年間席が売れなくなっちゃうのでは?」とか、いろいろな懸念が先に立っちゃう。ありがちですが、未来の見えないことへの心配が先に立って、思考がストップしてしまっているケースが多い。
うちは年間席の着券率を80%くらいまで上げることができたので、そろそろ考えるべきときだと思っています。最初から二次流通文化をつくってしまうと、いつもてんでバラバラな人が来てしまって、球場が盛り上がらなくなってしまう。
私は球場の生の盛り上がり感を一番大切にしています。二次流通単体で考えるのではなく、全体の戦略の中で考えさえすれば、おのずとその方向にしかならないと思います。

エアビーアンドビーが証明

堀江 二次流通市場ができるということは、安心して年間シートを買えるわけですよね。スタジアムに行かない日でも売れると思ったら、「買ってもいいよね」となるはずです。
たとえば、プライベートジェットはそうなっているんです。プライベートジェットって年間に2億円くらい経費がかかるんだけど、乗ってないときには貸すんですよ。僕のジェットはロサンゼルスに置いていて、毎月貸す人のリストが来るんですね。
そうしたら超有名な政治家夫妻や誰でも知っている超有名女優が乗っていたりするわけ。僕の飛行機は内装が良かったらしくて、最後売りに出したときにはその超有名女優が応札してきましたよ。それくらいいい飛行機だったんです。
池田 価値あるものは需要がある、ということですよね。
堀江 そう。二次流通市場があって、自分が乗っていないときに運用してもらえることがわかっていると、安心して買えるというか、あまり損しないよなと思います。
池田 エアビーアンドビーで、「自分が家を使っていないときは、誰かに使ってもらっていい」という人が大勢います。僕は、自分の家を他人が使うのはちょっと気持ち悪くて無理ですが、年間席ならそれこそ経済合理性で考えられるので、使わないときは「使ってください。どうぞ」とできる。
家ですら使わないときに二次流通する時代なのですから、年間席の仕組みとして二次流通ができれば、どんどん活用されるのは自明の理だと思います。エアビーアンドビーで証明されているわけですから。
堀江 VIP席は特にそうだと思います。使っていない席がけっこうあると思います。
池田 先にふれたとおり、年間席の回転率をウォッチさせてどんどん上げているんですけど、もともと30%台しかなくて、70%くらい稼働しないで空いていたんですよ。いまは横浜スタジアムのチケットをなかなかとれないから年間席の価値も上がっていて、回転率が80%弱まで来ています。
堀江 なるほどね。
池田 それでもまだ20%くらい余っているので。
堀江 もし球団オフィシャルで二次流通があると、「今日、年間席に自分は来ないから、ほかの人に出してもいいよ」とできるわけですよね。それを球団がやると、手数料をとれるわけだし。
プロ野球ビジネスにはまだ、やっていないことがいっぱいあるわけですよね。この場所って宝の山ですよ。だって、これだけ人が来るんだもん。しかも、横浜スタジアムは街中にあるから。

スタジアムと街の「精神的距離」

堀江 プロ野球とJリーグの決定的な違いは、スタジアムがほとんど街中にあることですよね。これはものすごいアドバンテージです。野球を知らない人とか、特に好きでもない人を呼ぶためには、街中にあることがすごく良くて。
僕はいつも、「スタジアムと街の間に結界がありますよ」といっています。見えない結界を越えていくのが、スポーツを別に好きではない人たちにとってはものすごいハードルなんです。
その見えない結界を、いかに消していくのかがすごく大事なことで。ベイスターズは球場の外でパブリックビューイングをやっているじゃないですか。あれ、すごく大事ですよね。
池田 僕らは「精神的距離」といっているんですよね。学術的には「解釈レベル距離」というらしいのですが、要するに、このスタジアムもコンクリートの壁で全部閉ざされているじゃないですか。だから野球に興味がないと、すごく近いところにあっても遠く感じるんですよ。
でもスタンドをぶち抜いて外から丸見えにしたり、外でパブリックビューイングをやったり、スタジアムの扉を開け放って「キャッチボールをしに来て、無料で入ってください」というと、メンタル的な距離がどんどん縮まるんですよ。それをやっていけばいい。
堀江さんの言うように野球のスタジアムはいい場所にあるから、どんどん街や市民と近くなれます。
堀江 横浜スタジアムにはベイスターズショップ以外に、いわゆる野球のグッズを売っているショップがありますよね。それが試合をやっていない日も開いているんですよ。
池田 「+B(プラス・ビー)」のことですよね。あそこのショップがオールスターのときに大盛況でした。
いままでだったら12球団のファンが横浜スタジアムのグッズショップに来ても、「自分たちが応援するチームのグッズは自分たちの球場のほうがラインアップがいいから、そっちのほうがいっぱい買えるよ」となります。だから、オールスターのグッズってあまり売れなかったんです。
けれど、いわゆる「野球のグッズ」を販売すれば、12球団のファンのみんなが買ってくれます。
堀江 それはうれしい悲鳴ですね。あまり予測していなかったんじゃないですか。
池田 予測していなかったですね。あんなに売り上げが上がるとは思いませんでした。コーヒー豆からビールまで、全部、野球グッズを買ってもらいました。
堀江 意外と、ほかのスタジアムでは野球グッズって売っていないですよね。
池田 売っていないですね。
堀江 横浜スタジアムくらい、まとめて売っている場所ってないですよね。これは横浜ならではの取り組みです。
グッズ、ビール、デジタルなどいろいろやっているベイスターズは、やっぱり売り上げを伸ばしていくわけですね。
今回、池田さんに詳しく話を聞いて、プロ野球はまだまだやれることがたくさんあるなと改めて思いました。
(構成:中島大輔、撮影:是枝右恭)