【堀江貴文×谷家衛】世界の成長に投資しよう

2016/8/24
投資家と起業家の立場で10年以上前から旧知の仲という、堀江貴文氏と「お金のデザイン」ファウンダーの谷家衛氏。フィンテックブームのどこに着目しているのか、投資の哲学や日本における資産運用などについて議論する。
10年以上前から旧知の仲のふたり
――お二人は古くからのお知り合いだとか。
谷家:オン・ザ・エッヂ(注:ライブドアの前身)の時代にもお会いしていますよね。
堀江:谷家さん、当時から変わっていましたよね。
谷家:ホリエモンに比べれば、まだまだでしたよ! ライブドアの時は、投資させてもらえなかったなあ(笑)。
堀江:バブってたんですよ。取引価格である1株300万円がいつの間にか12分割されて、とか(笑)。
お金のデザインは、谷家さんが創業したんですよね。谷家さんといえば投資家なのに、事業会社をやりたくなったんですか? 
谷家:僕は通常とは逆だよね。普通は会社をやって、もうかったら投資を始める。でも僕は、投資家から始めて、だんだん事業家に近づいてきている。例えば、日本初のオンライン生命保険(注:ライフネット生命)などに関わってきた。こういうのって、結局、誰がやるか、に尽きるでしょ。出口治明さん、岩瀬大輔くんと出会えてすごくラッキーだった。
堀江:最近、ライフネットのアドバイザーになったんですよ。岩瀬大輔(注:ライフネット社長)さんと出会って、わりと気が合って。
谷家:それは、いいね!
堀江:生命保険はライブドアでも一度、考えてたんですよ、朝日生命と一緒に。2001年にネットバブルがはじけて頓挫しましたけど。
谷家:相性がいいんですよね、インターネットと金融は。
谷家衛(たにや まもる) お金のデザイン ファウンダー
東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズに入社し、アジア最年少のマネジングディレクターに就任し、アジア投資部門を統括。その後独立系最大手の一つのあすかアセットを創る。その後日本初の独立系オンライン生保のライフネット生命保険を立ち上げ、日本初のインターナショナルボーディングスクール(ISAK)を着想し発起人代表を務める。
今年はトークンエコノミーの年
――フィンテックが注目を集めていますが、どんな分野を注目していますか。
堀江:僕は、今年はトークンエコノミーの年になると思っています。
トークンエコノミーでは、カジュアルに“通貨”が発行できる。通貨というか、株券、トレーディングカードにも近い。通貨的なトークン、ですね。
カウンターパーティ(Counterparty)というサービスがあって、そこではコーディングとかができなくても、簡単にトークンが発行できるんです。
僕も「HORIEMONCARD」というトークンを発行してみました。「オフィシャルカードです」と書いて、上限1000枚で出しただけなんですけど。
谷家:僕、猪子寿之が大好きで、彼のデジタルアート作品も買ってるんだけど、猪子も枚数限定で出すことで値崩れさせない。あれと一緒だね。
堀江:そうそう。発行時は1枚3000円くらいかな。トークンを管理・売買できるウォレット上では(スマホをのぞき込む)、今、1HORIEMONCARDが、買いオファー6400円、売りオファー1万8000円。
谷家:(画面を見て)へえ、面白い。
堀江:専門的な知識がない人でも、簡単にできるんだよね。
ビットコインと互換性があって、裏ではビットコインの取引データに追加の情報を書き込んで、トークンの送信量や送信先といった情報を入れています。
トレーディングカードがヤフオクとかで流通するのと、基本的には同じ感覚です。
谷家:ギフトにも使えるね。便利になると、貨幣とどちらが価値を保てるかという問題だよね。今後価値が上がりそうな仮想通貨を買っておいたら投資になるかな(笑)。
堀江:僕がブログとかでビットコインの送金先アドレスを公開したら、投げ銭してくれた人がいて、それが1万円分くらいあったのかな? それをイーサリアムのクラウドセールに投資したら、なんと70倍になったんですよ。でもパスワード(秘密鍵)忘れちゃった!
堀江貴文(ほりえ たかふみ)
1972年福岡県生まれ。実業家。ライブドア元CEO。民間でのロケット開発を行うSNSのファウンダー。東京大学在学中の1996年、23歳のときにオン・ザ・エッヂ(後のライブドア)を起業。2000年、東証マザーズ上場。2006年1月、証券取引法違反で逮捕され懲役2年6カ月の実刑判決を下される。2013年11月に刑期を終了し、再び多方面で活躍する。
ビットコイン流通の7割以上が中国
堀江:ビットコイン流通の7~8割は中国。まだ為替に負けているけど、とにかく流通量がすごい。
谷家:なぜかといえば、自国通貨を信じていないからだよね。
堀江:仮想通貨ってもともと、オンラインゲーム内の仮想通貨を売買するリアルマネートレード(RMT)の流れから来ている。もちろん、多くは利用規約違反ですけど。
ビットコインの取引には、自分のコンピューターに計算をさせてビットコインを入手するマイニング(採掘)というパズルみたいなやつが付き物です。計算をして下5桁が5並びになるといったパズルで、解いたら報酬がもらえる。そのパズルが、ビットコインに改ざんがないか調べる機構になっている。これが、電気を意外と食う。
谷家:中国は電気が安いのかな。
堀江:僕、このあいだアイスランドに行ってきたんですけど。アイスランドにも結構大きい、香港系のマイニングファームがあります。
アイスランドって電力料金がヨーロッパの3分の1くらいなんですよ。しかも寒いからデータセンターの冷却もいらない。アメリカ軍が撤退しているので旧アメリカ軍の基地が空いている。そこがマイニングファームになっているわけです。行動力ありますよね。全然関係ない場所に行っちゃう。
谷家:そもそも、なぜホリエモンはアイスランドに行ったの?
堀江:アイスランド人の、大学卒業したばかりの若者が、わさびを作りたいっていうんだよね。わさびって、1キロ当たり3000~1万円。きれいな水があって、冷涼で、電気代が安い。光が足りないときはLED照明で足せばいい。
――ヨーロッパでわさびを売るんですか?
堀江:アイスランドで作れば、FTA加入のヨーロッパ内では自由に売れますからね。
僕、思ったんですけど、マンゴーもいいなあって。宮崎のマンゴー技術をアイスランドに持っていって、「マンゴーアイスランド」を作ったらどうかな、と(笑)。寒いけど、温泉がわいている温室もすぐ作れそうだし、たぶん宮崎より安く作れると思うんですよ。
谷家 中東の富裕層にも売れそうだなあ。
ポケモンGOのヒットは読めなかった
――わさびやマンゴーもそうですが、どんなものがヒットするか、つまり、何に投資したらリターンが大きくなるかは読めるものですか。たとえば、ポケモンGOはここまでヒットすると予想できましたか?
堀江:全くわからなかった。オーストラリアのテストマーケティングはうまくいったけど、「位置ゲー」をやり慣れたゲーム好きのギークからはえらく不評で、アメリカでの公開前は通夜状態だったって聞いたけど。ライバル会社はみんな悔しがっているよね。
谷家:僕も、全く分かりませんでした。
堀江:ポケモンGOをやってみてわかったのは、これまたトークンエコノミーだなと。町中にポケモンカードが落ちているようなもの。これからトレードが実装されていくと思います。禁止はされていますが、相対でRMTやるやつって出てきますよ。レアなポケモンは博士に送らないで持っていて、好きな女の子にあげるとかね。
谷家:レアポケモンが、最強の仮想通貨になったりしてね。
堀江:僕は意外とブームは長続きするかもしれないって感じてるんです。理由は、重課金者をターゲットとしてないこと。普通はゲームユーザー全体の最大でも5%程度しか課金しないんだけど、ポケモンは広く薄く課金するんです。20代の女子が「今日、500円使っちゃった」みたいな。有料でレベルアップしても1.5倍くらいしか強くならない。強くなるのがゆるやかなんだよね。
谷家:これからいろいろな「位置ゲー」が出てくるでしょうね。一部は投資に回るような仕組みになっている「遊んでも無駄遣いをしたという罪悪感が減るゲーム」とか、作れないかなあ。
ワーキングキャピタル以外は全部投資
――アイスランドや中国と、お二方は、世界何カ国に投資しているんですか?
堀江:国の数でいえば数カ国ですよ。
谷家:僕もそんなものです。
堀江:ちなみにワーキングキャピタル(運転資本)以外は全部投資していますからね。
谷家:同じだ!
堀江:「堀江さん、結構持っているでしょ」とよく言われるけど、ほんとに持ってない。投資が好きだし、逆に現金を持っててもしょうがない。
――日本人は預金がないと不安という人が多いです。
谷家:それはここ40年がデフレと円高だったからです。「購買力を守る」はずだったのが「円で元本を守る」ことにすりかわってしまっていますけど。
その昔は「お金と不動産と株」というように三分法がいいと言われていました。ところが、最近は、たった一つの円という通貨に資産を集中させることがリスクだと気付いていない人が多い。
堀江:円は伸びないですからね。
谷家:日本って既存のものがしっかりしているから。不便だったとしても、消費者は実はそれほど困ってはいない。
堀江:ルワンダの市場に行ったら、SMS決済サービスの看板が出ているんです。銀行口座がなくても簡単に安い手数料で送金できるからね。
谷家:抜本的に面白いサービスはアフリカ、インド、ミャンマーとかの発展途上国の方がずっと可能性が高い。
堀江:日本だとATMが全国にあるから、ATMで引き出してお札で払ったほうがいいよねとなる。
実は賢かった日本人の投資行動
谷家:じゃあ、円で貯金してる日本人は投資に無関心か、というとそうでもない。何十年という長期で見ると、個々人はともかく、国民で合計すると常にいちばん賢い投資行動をしているんですよ。
高利回りの債券割引債、ワリコー(興銀)、ワリチョー(長銀)も並んで買っていたし。不動産バブルのときは、個人がいちばん売っていた。株もここ20年くらいあまり投資してこなかった。なぜかといえば、円高で、デフレで、財政も健全だったから、それがいちばんよかったんですよね。
ところが、今は時代が違う。人口が減り高齢化し、日本が世界に占めるGDPの割合も低下するなか、本当は年金で時間を分散しながら、世界に分散投資するのがいいんです。
――それでお金のデザインでは、個人型確定拠出年金(DC)のサービスも始めるのですか?
谷家:福利厚生代行会社のベネフィット・ワンと提携して、個人型確定拠出年金のビジネスに参入するんです。DCは税の優遇もあるのでユーザーにとってのメリットが大きいですからね。
投資しないことがリスクの時代
谷家:世界に分散投資することで、購買力もキープできる可能性が高いと思っています。やらないと、日本のこの借金の多さでは、何が起きても不思議はないですから。
ホリエモンは、日本はどうなると思う?
堀江:アイスランドは、かつては実際金融立国を目指していたけど、サブプライム問題と、その後のリーマン・ショックで国家財産が破たんして、IMFが入ってきて、クローネが切り下げられた。かなり大変だったと。
アイスランドみたいに規模が小さい国だと「ドカン!」ってなるけど、日本は国の規模が大きい。ありうるのは、アイスランドで起きたことの巨大版が、ゆるやかに起きてくることなんじゃないかな。
――アイスランド危機は2008年に起きて、2012年ごろには回復し始めた。それよりもっとゆるやかなペースで、私たちは困ることになると。
堀江:お金をたくさん持っている年配の人は、困ると思いますね。でも、まあ、みんなは貯金はしないでおこうとか、そんなところかな。
谷家: 本来預金の役割は、購買力を担保して生活水準を守ること。今は、それが円に預金することだけで達成できるかわからなくなってきている時代です。
アジアの多くの国の人は、自国の政府とか通貨とかを信用していない。だからいざというときのために、世界に分散しておく気持ちが強いんです。日本人は安心しているから、投資するほうが、リスクがあると思っている。
――もうそんな時代じゃないぞ、ということですか?
谷家:そうですね。実は逆で、世界に分散しておく方が安全かもしれない。安全なことをみんなにやってもらう。それを達成したいと思って始めたのが、ロボアドバイザー「THEO」です。
THEOなら、今まで金融機関や一部の富裕層しかできなかった世界分散投資を、10万円から手軽に始めることができるんです。
チャレンジャーを応援したい
谷家:僕やホリエモンみたいに投資が大好きな人はいいんだけど、世の中はそんな人ばかりじゃない。お金の不安から解放されることで、もっと自分らしく生きられる世の中になったらいいと思ってるんですよ。
そういえば、ホリエモンと僕は、男の趣味は似ているよね(笑)。猪子を応援したり、登山家の栗城史多さん(注:エベレストに単独・無酸素で登頂する登山家)を応援したり。
お金のデザインでは、“OUTLIER”(異端児)を応援する活動もしてるんですよ。社会の基準に縛られず、地球全体に対してはよさそうなことをしている人たちです。
自分なりの価値観で生きる、自分を表現できる。そういう幸せな人が増えたらいいよね。起業もその1つだと思う。
ホリエモンは今は宇宙をめざしているし、いつもチャレンジャーだよね。
――谷家さん、今度こそ堀江さんの活動に出資しますか?
谷家:実はロケットには間接的に出資はしているんですよ。
堀江:9月には機体完成予定です。見にきてくださいよ、北海道へ。意外と「こんなすごいんだ」と思いますよ。
谷家:ぜひ行きたい!
猪子寿之氏のデジタルアート作品の展示もあるお金のデザインのオフィスにて
(構成:阿部祐子 撮影:岡村大輔)