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ソフトバンクが投資するスタートアップも

アマゾンのキバ独占がもたらした「倉庫ロボット」開発競争

2016/08/18

アマゾンが配送センターにロボットを導入して、人間の作業員が動き回るよりも速く発送ができるようにしているのは、よく知られたところだ。

配送センターの自動化を目指して、同社は2012年にロボット・スタートアップのキバ・システムズを買収し、最近では自社でもアームの開発を行っているとされる。またロボット・ハンドの研究と開発のレベルを押し上げるべく、世界中の研究者や開発者を集めてアマゾン・ピッキング・チャレンジも主催している。

さて、そのキバ・システムズの買収の陰で知られていなかったのは、同社のシステムを導入していた顧客企業の契約が更新されなかったことである。つまり、アマゾンがキバの技術を独り占めしてしまい、画期的なロボット技術を導入していた他の配送センターはロボット化をあきらめるか、別の方法を探す他なくなったということだ。

アマゾンによる買収は、キバ・システムズの顧客企業だけではなく、ソフト開発会社にも影響を及ぼした。キバのシステムに基づいて、利用企業がより使いやすくなるようにソフトを開発していた企業にも、そうした外部開発のための窓が閉ざされてしまった。

キバの技術を独占することで、オンライン・ショッピングサイトとして他の競合に大きく水をあけたアマゾンのやり方には、いい意味でも悪い意味でもうなりたくなる。

倉庫で働くロボットと人間の共同作業

ところが、これが功を奏したと見ることもできる。というのは、そのアマゾン買収によって新しいロボット会社も生まれているからである。

そのうちの1社は、ローカス・ロボティクスというボストン近郊の会社だ。同社は、アマゾンのキバ・システムズ買収によって直接痛手を負った親企業から生まれた。

ローカス・ロボティクスの親会社はロジスティクス会社で、かつて配送センターにキバのロボットを導入し、複数の顧客企業商品の発送を行っており、運営のためのシステム用ソフトウェアも開発していた。

ところが、キバとの契約が切れることになり、別の解決法を探らざるを得なくなった。そこで独自のロボットを開発し、ローカスをスピンアウトさせたのである。

ローカス・ロボティクスのロボットは、アマゾンの配送センターのキバ・ロボットほど高速で動くわけではない。だが、倉庫のどこにどの商品があるのかがわかっていて、注文が入ると該当エリアに向かって自動的に走行する。

そのエリア担当の作業員は、ロボットが待っているのを見つけると、傍らへ寄っていってスクリーン上に表示されている商品をピックアップし、スキャンしてカゴに入れる。

キバ・システムズを導入したアマゾンの配送センターのビデオを見ると、ロボットは配送センターの中央を縦横に行き来し、人間の作業員は周縁エリアで配送作業をしている。これに比べてローカス・ロボティクスのシステムは、もっとロボットと人間が一緒に働いているという設定だ。

配送センターを舞台にした「知恵比べ」

アマゾンによるキバ・システムズの買収、そしてその技術の独占は、配送センターもうまくロボットが使える現場だとロボット開発者やロジスティクス会社を目覚めさせた出来事だった。

折しも、われわれがオンライン・ショピングを常用するにつれ、配送センターはますます忙しくなっている。

この分野を目指してロボットを開発しているのは、ローカス・ロボティクスだけではない。アメリカではフェッチ・ロボティクス、ネクストシフト・ロボティクスといった会社が生まれており、ヨーロッパでも棚から水平に商品をスライドさせて取り出すロボットを開発したマガジーノといったロボット会社もある。

フェッチ・ロボティクスはソフトバンクも投資するスタートアップなので、日本でもその名を知っている人は少なくないだろう。それぞれにロボットも異なれば、ロボットを動かす背後のしくみも異なっている。

配送センターの倉庫ロボットは、今後しばらくはロボット開発者の注目する分野となりそうで、これからも新しいしくみのロボットとそのシステムが出てくるに違いない。

この分野はロボットだけでなく、システムの知恵比べのようなところがあり、非常に興味深いものがあるのだ。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。

(文:瀧口範子)