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グロービス × NewsPicks

日本交通、コーセーと考える、現場に寄り添うイノベーション

2016/8/13

AIやIoTが台頭し、市場環境なども大きく変化している現代。そんな時代にこそ、イノベーションが生まれることは、歴史が証明している。では、そうしたイノベーションを起こすために必要なリーダーシップとは、一体どのようなものなのだろうか。

そこで、NewsPicksとグロービスは6月8日、「イノベーションを起こせるリーダーになるためには」と題したセミナーを開催した。

今回は、冒頭の青山社中筆頭代表CEO、朝比奈一郎氏の講演に続き、日本交通総務財務部部長の濱暢宏氏、コーセー チェーンオペレーション推販部青山陽一郎氏とのパネルディスカッションの様子をお伝えする。モデレーターはグロービスの田久保善彦氏が務めた。

(前編)【朝比奈一郎】リーダーに必要な力は指導力より「始動力」

タクシー業界の可能性

:日本交通の濱と申します。私は大学卒業後、シャープにエンジニアとして入社しました。シャープではJフォンの開発、写メールのプロジェクトなどをやっていました。

その後、グロービスに入学したのですが、授業でタクシー業界の研究をすることがありました。研究をしてみると、タクシー業界はまだまだ新しいことが出来ると思い、日本交通に入社しました。

日本交通では、主に新規事業の開発をやっていました、現在はコールセンターの責任者も兼務しています。また、「全国タクシー」というアプリを開発する会社、JapanTaxi株式会社のCOOも兼務しております。

この全国タクシーというアプリですが、全国のタクシー約3万台を呼ぶことができます。クレジットカードを登録することで、日本交通のタクシーだけではなく、他の提携会社のタクシーも注文から支払までワンストップで実施することができます。

非常にスマートなアプリに見えるかもしれませんが、このアプリを運営するためには日本交通グループだけで約7000人、平均59歳の乗務員の一人ひとりと丁寧にコミュニケーションをしていく必要があります。

今日はこの開発の際のコミュニケーションや、移動におけるイノベーションの話ができればと思います。
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ここでしか買えないブランドを

青山:コーセーの青山と申します。私は2003年にコーセーに入社しました。なぜ化粧品会社のコーセーに入社したかというと、私は女性のことを考えるのが大好きだったからです(笑)。化粧品会社なら毎日女性のことを考えることができますよね。いまだに毎日女性のことを考え続けています。

私は入社から10年、支店で営業として仕事をし、その後本社のコンシューマーブランド事業部商品企画課に配属になりました。

そこでは主に「雪肌精」に代表されるようなドラッグストアやGMSで販売されるマスブランドを担当していました。さらに新たな取り組みとしてマツモトキヨシさんと「共業」して「インストリーム」というブランドを立ち上げました。

「ナイトシールドジェル」という、睡眠中にたっぷりのうるおいとハリを与え、睡眠が足りていない人もまるでゴールデンタイムにぐっすりと寝れた後のようなコンディションの良い肌になれる、塗って寝るだけの睡眠美容ジェルマスクを作りました。

私はこのブランドを立ち上げる時にイノベーティブなことが出来たと思っています。

日本には資生堂、花王、コーセーと3大化粧品メーカーがありますが、コーセーのドラッグストアのシェアは他メーカーに比べ低いことが多く、最初はマツモトキヨシさんとの連携もなかなかうまくは進みませんでした。

どうすればマツモトキヨシさんにおいて、化粧品メーカーとしてナンバーワンになれるかと考えた時に、「ここでしか買えないブランドを作ろう。そしてお店の従業員さんが誇りを持って売れるようなブランドにしよう」と考えました。

リリースに持って行くまでは社内でも軋轢があり大変だったのですが、信念を持ってアクションをし続けたことで、最終的にはマツモトキヨシさんの株主総会でも成功事例として取り上げてもらうまでの成果を出すことができました。
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これができたらイノベーティブだ

田久保:グロービスとして嬉しいことは、この濱さんが日本交通に入社したきっかけは、リサーチの授業でタクシー業界を取り上げ、その過程で日本交通の川鍋さんと仲良くなったこと。さらに、青山さんの商品開発の件もグロービスのマーケティングの授業での発案がきっかけとのことです。

まず、濱さんにお伺いしますが、なぜ全国タクシーのアプリは日本交通だけではなく、どこの会社でも呼べるようにしたのでしょうか。

:日本交通タクシーアプリを開発した当時、日本交通のタクシーの売上も下がっていたのですが、この構想を実現することで新たなタクシー利用者が増えて日本交通の売上も回復させることができると思いました。

2011年1月にアプリをリリースしてから、すぐに東日本大震災が発生しました。各地で交通機関が麻痺したため、東京だけではなく東北を含めて全国でもこのサービスを展開して欲しいというお客様からのご意見を多くいただきましたし、確かにこれができたらイノベーティブだと思いました。

全国では約25万台のタクシーがあります。2人の乗務員でタクシー1台を所有するケースが多いです。するとタクシーに関わる乗務員が25万台×2人で約50万人とすると、その家族を想定すると約100万人がタクシー関係者として存在しているわけです。

単純計算すると日本の人口の1%はタクシーに生計を依存しているのです。この乗務員のみなさんの生産性をアプリにより改善することができれば、待遇も上がるだろうし、結果、お客さまへのサービスも向上すると考えました。

そこに気がついてからは急ピッチで準備をすすめ、全国の会社と繋ぐことは最初のアプリのリリースから約11ヶ月後に実現することができました。

当然、我々のアプリに他のタクシー会社に入ってもらうためには一筋縄でいかないことも多いです。ただ、現在はライドシェア、自動運転と移動の世界が大きく変わろうとしています。

タクシー業界は約100年の歴史がありますが、業界内だけを見ていては、お客さまに見放されてしまうかもしれません。市場全体のことを考える必要があると思っています。

また、アプリを含めて新たな取り組みを実現するためには乗務員の方々とのコミュニケーションが非常に大事だったのですが、私はまず先頭に立つということ、そしてケツをもつということを強く意識していました。

実際、このアプリによって利用者の利便性を向上するためには需要の大きい朝方の供給量を増やす必要がありました。それを実現するために多くの乗務員の方々にシフトを変更してもらう必要があったのですが、粘り強く話し合いを続けて最終的には多くの乗務員にシフトを変えてもらうことができ、朝方のお客様にご満足をいただけるようになりました。

「共業」という考えが抜けていた

田久保:濱さん、ありがとうございました。青山さんにお伺いしますが、やはり化粧品を付けて寝るという発想は突飛と言われなかったのでしょうか。

青山:私の部署はとにかく新しいコンセプトを出すことが求められます。その中でも私は考えることを止めませんでした。

先にもご紹介いただいたように、新しいブランドコンセプトを常に考え続けていた時に、グロービスのマーケティングの授業で、ふと男性の受講生が「最近肩が痛くて寝られない、ぐっすり眠れることが最近少なくなった」と言っていたんです。

マッサージでも同じですが、人は血流がよくなるとよく寝ることができます。これを化粧品でも解決のお手伝いができたら、もっといいということに気が付きました。

そこで、「女性の肌は夜寝ている時に作られる。でも、最近は生活リズムが不規則でちゃんと夜のゴールデンタイム(22時~2時)に眠れている女性は非常に少なくなっているはず。もし、つけて寝るだけでぐっすり眠れた朝のような肌にできる化粧品があったら」と思いついたんです。

その場で「不眠解消コスメ」というコンセプトができたのですが、これは「売れる」という直感はありました。

しかし、商品化を実現するにあたっては多くの課題がありました。最初はコンセプトをかなり意識した「キレイリズム」という名前で出す予定でしたが、マツモトキヨシさんの従業員さんからは「いや、この名前では私たちがわざわざカウンセリングして売るような高級感がないかも……」という反応が生まれてしまいました。

マツモトキヨシさんの女性の販売員さんの気持ちになって考えてみたところ、やはり「キレイリズム」という名前では、彼女たちのモチベーションが上がらず、彼女たちのやる気を引き出すことができないのではないかと思いました。私にはマツモトキヨシさんとの「共業」という考えが抜けていたのです。

一度は「キレイリズム」というブランド名で出す承認もコーセーの社長から得ていたのですが、ここで持ち帰って名前を再検討することにしました。社長から承認をいただいたものを持ち帰って再度検討するというのは、非常に申し訳ないと思いました。

しかし「共業」という最初からの想いを貫くために、その後ブランドネームを数百個考え、マツモトキヨシの従業員さんと協議を重ねながら、彼女たちが気に入ってくれた「インストリーム」という名前で世の中に出すことにしたんです。
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「現場の1.2~1.5倍」の構想力

田久保:濱さん、青山さん、ありがとうございました。こうお二人のお話を聞いていると、イノベーションというのは誰かの強い思いに引っ張られて実現するのだと改めて思いました。

質問者:朝比奈さんにお伺いしますが、これまで個人の思いが実現した例として「これはすごい」と思ったものはありますか?

朝比奈:私のかつての上司にJリーグの設立で中心的役割を果たしていた人がいました。かつての日本はプロリーグはおろか、ワールドカップに出たことすらなく、野球などと比べてサッカーはまだまだ根付いていませんでした。

ただ、その上司は「日本にプロのサッカーリーグを作ろう、そしてワールドカップも呼ぼう」と現場で常人の数倍の強いエネルギーを持ってチャレンジしていました。

そして、本当にプロリーグを作ってワールドカップを招致し、Jリーグでは元ブラジル代表で、サッカーの神様的存在であるジーコまで呼んで、リーグを盛り上げて軌道に乗せることができました。

濱さん、青山さんのお話を聞いて思ったのは、お二人は構想力も素晴らしかったですが、現場に寄り添う力も素晴らしいと思います。まさに先ほど私がお伝えした「現場の1.2~1.5倍」の構想力を持ってアクションされていたと思います。

田久保:この現場に寄り添うということで、青山さん、濱さんがコミュニケーションの方法で意識していることはありますか?

青山:化粧品の商品企画という部署には、卓越したセンスを持つ女性が多くいます。部署に配属された当初はまったくかなわないと思いましたが、そこで自分が得意なことを紙に書き出していった時に「女性と話すことが得意、さらに話を聞くのが得意」ということに気が付きました。そこからは聞き役に徹する「傾聴力」を重視したコミュニケーションの方法を見出しました。

:自分はオープンであることをとにかく意識しています。先日、コールセンターに電話が繋がらない問題が発生しました。この時も自分が先頭に立って、エンジニア、オペレーターがオープンにコミュニケーションを取れるような環境を作っていきました。普段から起きている小さな問題でも共有することが大事だと思います。

変革を楽しむ

田久保:こう考えてみると、どこにでもイノベーションのチャンスはありますよね。それを意識すると普段の業務もわくわくしながら取り組めるかもしれませんね。最後にお三方からメッセージをいただきたいと思います。

青山:企画をする部署に行ってから、私はずっと悩んでいましたように思います。しかし、いま思い返すと「悩む」というよりは、必死に手を動かし、行動して、必死に「考えて」いたのではないかと思います。答えを出すために、考えつづけることは時に辛いこともありますが、行動してから考えるより、じっくり考えてから行動することで、いい結果がでることが多いと思います。やはり、イノベーションを起こすには「正しく考える力」は大事です。

:私は仕事をするからには楽しいことをしたいと思っています。いま、「移動」という行為がライドシェア、自動運転などで、かつてないほど変わりつつあります。ただ、「移動」という行為は今後も存在し続けるので、未来の移動のあり方について考えることはとても楽しいです。みなさんも色々な業界にいらっしゃると思いますが、一緒に変革を楽しんでいきましょう。

朝比奈:イノベーション、リーダーシップは客観主義、合理主義の対極にあると私は思っています。リーダーは時に孤独で辛いものですが、その苦しみをどう楽しみながら乗り越えられるかが大事です。みなさん、一緒にがんばりましょう。

(構成:上田裕)