まるで子どものケンカ:ボリス・ジョンソン敗戦ドキュメント(後編)
2016/07/09, NewsPicks編集部
英国首相の座を巡る、汚れた戦い
まるで子どものケンカ:ボリス・ジョンソン敗戦ドキュメント(後編)
2016/7/9
ブレグジットの旗手として、離脱派を勝利に導いた、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長。離脱派の英雄は、なぜ一転、首相候補から引きずり降ろされたのか。その内幕を、英テレグラフ紙のチーフレポーターであるGordon Rayner氏が描く。
前編:これぞ権謀術数
中編:ゴーブの謀略
後編:まるで子どものケンカ
不気味な作戦
「ボリスは尊大な自信家だ」と、ドミニク・ラアブ下院議員は言う。
「私たちが選ぶのは、国を率いる首相であって、学校の優等生ではない」
ニック・ボールズについて、ジョンソンの支持者は次のように語った。
「ただの裏切りではない。三重の裏切りだ。入念に練り上げられた筋書きに思える。実に不気味な作戦だ」
複数の情報源によると、ゴーブはクロスビーに連絡する前に、テリーザ・メイ内相に出馬の意思を伝えていた。実に冷静沈着な奇襲だった。
午前9時半に出馬会見を開いたメイは、見るからに生き生きとしていた。
英国王立防衛安全保障研究所の会見場では、約50人の下院議員がスタンディング・オベーションで彼女を迎えた。全身にタータンをまとっていたのは、離脱に反発するスコットランドの怒りを鎮めたいという意思表示だろう。国民投票で、彼女は残留を支持した。
党首選が子どものケンカに見える
メイの決意表明は熟練の技だった。首相に必要な非情さが彼女にあるだろうかと疑っていた人々も、すぐに答えを知った。
英議会には政治が「ゲームではない」ことを忘れている人々がいると、メイは指摘した。
自分は「派手な」政治家でも「仕掛け」が大好きでもなく(4年前にジョンソンがロンドン五輪関連のイベントで空からの登場を試み、ワイヤで宙づりになった姿が思い浮かぶ)、国会議事堂内のバーで飲まないし、テレビの収録をはしごするわけでもない。「目の前にある仕事に取り組むだけです」。誰のことを指しているのか、説明は必要なかった。
敵を冷笑することは最悪の作戦だということも、メイは承知している。
アンゲラ・メルケル独首相と渡り合えるかどうかを質問されると、メイは自分がヨーロッパで達成してきた政治家らしい実績を挙げ、次のようにつけ加えた。
「ボリスもヨーロッパで交渉しました。彼が最後にドイツと取引をしたときは、新中古の放水銃を3基、持って帰ってきたと記憶しています」
会見場がどっと沸いた。
ゴーブがジョンソンを背後から刺した後に、メイが正面から斬りつけたのだろうか。
「そんな感じだ」と、ジョンソンを支持するナイジェル・エバンズ下院議員は言う。
「国のトップを決める党首選が、子供のけんかに見えてくる」
ジョンソンを支持していた下院議員は次々に去り、97人から47人に減った。陣営は、「カッコーの巣作戦」に屈したことを悟った。
この数カ月、ジョンソンはゴーブが描くブレグジット戦略の卵を温めてきたが、ようやく孵化するというときに巣から蹴り出されたのだ。
ジョンソンは「悲しみ、失望して、裏切られたと感じ」、これ以上は争わないと決めたと、ある関係者は語る。
「保守党内で自分とマイケル・ゴーブが核戦争を繰り広げるような事態は望んでいなかった。そうなれば党が割れるだろう」
newspicks.com
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コメント
注目のコメント
ゴーブ氏が本当は誰を次の首相にしようとしていたのか?
レッドソムエネルギー相なのか、実はメイ内務大臣だったのか?
あるいは本気で自分がなれると信じていたのか?
最後まで不明のままでしたが、やはり彼は生粋の党人政治家であり、古き英国政治の伝統に従い、自らキングメーカーたらんとしたのかもしれませんね。
彼の心中の変化が、どういう歴史的な結末に帰着するのかは、これから先の展開を見ないと何とも言えません。有権者・国益置き去りの政治ショーでした。植民地で食べていたころならいざ知らず、そのころと同じ感覚で国の経営はできないのではないんじゃないですか?早く夢から覚めないと、国民には本当の意味での悪夢になる気がします。