LA”コンフィデンシャル ”Part22
LAを変えた動物愛護団体の “巻き込み力”
2016/6/19
2017年までに殺処分ゼロ
LAではシェルターに保護される犬や猫が後を立ちません。
シェルターでは、飼育にコストがかかる上に、引き取り手も少なかったことから、保護した動物の半数以上を殺処分してきました。
こうした痛ましい状況を変えようと、LAが新たなルールづくりを進めてきたのは、前回の記事でお伝えしたとおりです。
しかしながら自治体は、「保護動物の90%を生かせる街」の実現をめざしながらも、目標としていた2012年を過ぎても達成できませんでした。
そして今、ある民間の保護団体がこの問題の解決に取り組んでいます。
2017年までにLAを殺処分ゼロの街にする計画を立て、着実に成果をあげているだけでなく、前倒しで達成できそうだとも報じられているのです。
なぜそんなことが可能なのか?
彼らの活動拠点を訪ね、話を聞くことで、彼らの「巻き込む力」のすごさがみえてきました。
全米屈指の動物愛護団体
LAを変えようとしているのは、Best Friends Animal Society(ベストフレンズ)という非営利公益法人です。
ユタ州を本拠地に30年前に活動をはじめた動物愛護団体で、「人間の都合による殺処分」をなくそうと活動しています。
ユタ州には世界最大級の保護地区を有し、アダプション(譲渡)が難しいと判断された犬や猫のほか、馬や豚など合計2000頭が生活する “サンクチュアリ”を運営。
動物たちはリハビリやトレーニングを受けながら、万が一もらい手が見つからなくても、ここで快適に一生を過ごせます。
この団体を一気に有名にしたのは、ある事件がきっかけでした。
NFLのスター選手だったマイケル・ヴィックが逮捕された、闘犬賭博事件です。
事件の証拠品として60頭以上の闘犬が押収され、殺処分されそうになりました。そんな犬たちの救済に乗り出したのが、ベストフレンズだったのです。
彼らは特にリハビリが難しいと判断された22頭をサンクチュアリに引き取り、懸命なケアを続けました。
少しずつ回復し、心を許すようになる犬たちの姿を、ナショナル・ジオグラフィックがドキュメンタリー番組にすると、大きな反響を呼びました。日本でも放映されたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
こうしてベストフレンズの名は全国区に押し上げられたのです。
「No Kill LA」
活動の場を米国全土に広げつつある彼らが、重点都市として位置付けているのがLAです。
全米第2位の人口を有し、トレンドセッターとしても知られる街を「殺処分ゼロ」にするため、2012年には「NKLA(No Kill LAの略)」というプログラムを立ち上げました。
そもそもLAでは、自治体が管理する公営シェルターのほかにも、地元の小規模な団体が独自に保護活動をしてきました。NKLAプログラムでは、これらのバラバラだった活動をまとめあげ、支援することで、譲渡される動物の数を増やそう、というものです。
保護団体をネットワーク化
NKLAプログラムでは、自治体のシェルターやLAを拠点とする保護団体の足並みをそろえようと、パートナー制度を設けています。
NKLAのパートナーになれるのは、米国政府から認定を受けた非営利団体(501(c)3)。加盟すると、動物の保護した数と譲渡できた数を毎月報告することが求められる代わりに、ベストフレンズからさまざまなバックアップが受けられます。
加盟団体にとって最大の支援が「アダプション助成金」。前年の同じ月よりも譲渡数が上回る場合は、1頭あたり150ドルもらえる、というものです。また、NKLAが開催する譲渡イベントにも無償で参加できます。
ネットワークができたことで、ベストフレンズは保護数や譲渡数の推移を正確に把握できるようになり、殺処分問題に戦略的に取り組むことができるようになりました。
加盟団体数も発足当初の20団体から、2016年には100団体へと着実に増え、動物を救うネットワークが形成されています。
知名度を生かすプロモーション
ベストフレンズが力をいれているのがプロモーションです。譲渡数の向上にも、寄付金を募るのにも、情報発信が欠かせません。
①イベント開催
②写真・動画撮影
③インフォグラフィック制作
④季刊誌の発行
を通じて、NKLAプログラムの認知度アップや、保護動物のイメージ向上につとめています。
①NKLAの譲渡イベント開催
NKLAのパートナー団体と合同で行う犬猫の譲渡イベントで、LA市内の大きな公園や商業施設を使って年に2回開催しています。犬猫の譲渡をメインに、寄付金集めやボランティアのリクルーティングの場として活かしています。愛犬家のハリウッド女優やミュージシャンをゲストに呼ぶなど話題性も
②プロが写真・動画撮影
プロのカメラマンを常勤スタッフとし、専用スタジオを開設。保護された犬猫たちをモデルに写真や動画を撮影しています。捨て犬・捨て猫のネガティブなイメージを払拭する、クオリティの高いコンテンツは、チラシなどのプロモーションツールに活用されるほか、希望する団体に無償で貸し出しています。
③殺処分の現状をインフォグラフィックで訴える
最近力を入れているのが、優秀なデザイナーの採用です。NKLAの取り組みや、不妊/去勢の重要性、殺処分数の変遷などを一般にわかりやすく伝えるために、インフォグラフィック・アーティストが活躍しています。
④スポンサーには季刊誌の特典
NKLAの活動を支援し、寄付してくれたスポンサーに、動物たちの近況をまとめた季刊誌を定期発行。メールや郵送で届けています。
ベストフレンズの年次報告書によると、2014年の収入は約55億円。そのうち88%を個人からの寄付(物資支援含め)が占めており、年々増加しています。コンテンツのクオリティを高め、地道な発信を続けることが、彼らの資金力に直結しているのです。
綿密な実態調査
「数字で把握できないものは、管理できない」がベストフレンズの合い言葉。
1年にわたる綿密な実態調査を行い、LAで保護された動物、殺処分した動物を細かく分析。傾向を把握し、それぞれ改善策を考えました。
とくに殺処分されやすいことがわかったのは、①生後8週未満の赤ちゃん猫、②ピットブルなどの大型犬(11キログラム以上)でした。
ボトルネック解消を図る施設
「90%」という目標の達成のためには、赤ちゃん猫と大型犬を救わねばなりません。そこでベストフレンズは、LAにも自分たちの保護施設を開設します。
彼らがオープンした「ベストフレンズアダプションセンター」では、LA内にある市営シェルターで保護された動物のうち、殺処分の対象になりやすい赤ちゃん猫と大型犬を引き受け、譲渡先探しをしています。
センターでは、こんな取り組みも行われています
①赤ちゃん猫を救うノウハウを無償共有
調査から得られた気づきのひとつが、殺処分の61%を生後8週未満の赤ちゃん猫が占めるということ。その理由は「手がかかりすぎる」ためです。生まれたての子猫は排泄にも補助が欠かせず、2時間おきにミルクを与えては体重チェックをし、発育を把握する必要があります。
ベストフレンズのセンターには「ナーサリー」と呼ばれる特別室を設け、ボランティアが24時間体制で子猫のお世話にあたります。
また、ナーサリーの開設を希望する団体を募り、スタッフ育成やオンライン研修も無償で提供しています。
②問題行動を解消する大型犬トレーニング
集合住宅も多いLAでは、大型犬を飼えない物件も多いことから、なかでもアメリカン・ピットブルという犬種が譲渡されにくい傾向にあります。
闘犬賭博のために改良された犬種でもあり、前述のヴィッツの闘犬もほとんどがピットブルでした。危険な犬だというイメージが強い反面、飼い主への忠誠心が強いことから愛好家も多く、商業目的のブリーダーが多いともいわれています。
前述したとおり、ベストフレンズは大型犬のリハビリやトレーニングで名を上げました。このセンターでも、収容する1頭ごとに気質や行動特性を把握し、基本的なしつけをしています。トレーナーがリポートにまとめ、飼い主候補とのマッチングに役立てています。
また、譲渡後も何らかの事情で飼えなくなった場合は、ベストフレンズが引き取ります。その理由を聞くと「動物の幸せを考えて譲渡するのに、無理に飼われることで悲しい目にあわせないため」という徹底ぶりです。
“シェルター”のイメージを一新
ベストフレンズの取り組みにより、2017年には目標どおりLAは殺処分ゼロの街になるだろう、とみられています。
最後に、NKLAの広報担当ミッシェルさんに今後の取り組みについて伺ったところ、「ペットを飼いたい人にとって、動物との出会いの場がシェルター中心になるように、ホームレスの犬猫への偏見を払拭すること。また、年齢や外見、品種にかかわらず、よいマッチングさえできれば、どんな動物でも家族の一員になれることを示していきたいです。」と話してくれました。
非営利団体のレビューサイト「Great Nonprofits」でも、好評価ランキングでトップテン入りし、ボランティアやドナーの満足度も高いベストフレンズ。
殺処分ゼロのプログラムは、ほかの州にも展開する予定で、命を救うネットワークを全米に広げようとしています。