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LA”コンフィデンシャル”Part21

なぜ、LAっ子はペットショップで犬猫を買わないのか?

2016/6/5

実家の老犬、海を渡る

「犬を引き取ってもらえないか?」

体調を崩しがちな母に頼まれ、実家で飼っていた犬を、この春に譲り受けることになりました。10時間のフライトにも耐え、LAにやってきたのは、10歳になるヨークシャーテリアの万次郎です。

両親が東京で飼っていたヨークシャーテリアの万次郎(10歳)は、LAで老後を満喫中。

両親が東京で飼っていたヨークシャーテリアの万次郎(10歳)は、LAで老後を満喫中。

小型犬の10歳というと、人間にすれば60歳のおじいちゃん。まずは健康状態を把握しようと、動物病院で健診してもらうことに。すると、獣医からこんな指摘を受けました。

「健康には問題ないけど、マイクロチップも埋めていないし、去勢手術もしていない。このまま飼うのは違法です。アニマルポリスに見つかったら罰金チケットを切られるよ」

日本でも狂犬病の予防接種を受けるなど、自治体が定めるルールは守ってきましたが、LAではだいぶ勝手が違うぞ……と慌てました。

これをきっかけに、ペットにまつわるルールや歴史を調べるうちに、米国がある課題を直視し、解決しようと努力していることがわかりました。

米国のなかでも特にペットフレンドリーな街をめざしているLAでは、どんな取り組みが行われているのでしょうか。

飼い方のルールから入手経路まで、日本とは異なる点の多いLAのペット事情を、2回にわたってご紹介します。

飼い主への責任強化策

米国では日本以上にペットは身近な存在です。

ペット用品協会(APPA)の調査によると、犬または猫を飼っているのは全世帯の65%にものぼります。日本では24%ほどだといいますので、この数字だけでも米国がいかにペット大国であるかがうかがえます。

ペットにとって暮らしやすい国にするためには、ルールの整備が必要です。動物福祉の先進国であるイギリスやドイツに続こうと、米国でも30年以上かけて議論が重ねられてきました。

米国では州ごとに法律が異なり、自治体が独自の条例を定めることもできます。

たとえば、LAでは飼い主やブリーダーなど動物にたずさわる人々に、さまざまなルールが課せられています:

・飼い主の責任の強化
 ペットは登録制で、毎年登録料をおさめます。狂犬病の予防接種、迷子や遺棄防止のためのマイクロチップの埋め込み、不妊去勢手術が義務化されたほか、犬を車に置き去りすることや、つなぎっぱなしの禁止(1日3時間以内)などの決まりを定め、違反すれば罰金や逮捕におよぶこともあります。

・繁殖の事前申告制
 一般の飼い主もブリーダーも、犬猫を繁殖させる場合には事前に1頭ごとに「ブリーダー許可証」を取得します。年間に妊娠は1回まで、生まれた子どもは勝手に譲渡できないなど細かなルールが設けられています。

犬猫を売らないペットショップ

こうした飼い方のルールについては、日本でも義務化しようという動きもあると聞きますが、さらに大きな違いを感じるのが、ペットの入手経路です。

LA市内を車で走っていても「ペットショップ」の看板をあちこちで見かけるものの、店内に足を踏み入れると不思議なことに気づきます。日本で見かけるような、子犬や子猫が入った陳列ケージがないのです。

実はLAでは2013年以降、ペットショップなどの商業施設で、営利目的に繁殖させた犬・猫・ウサギといった生体を陳列・販売することを禁じています。当初は3年の期限付きでしたが、2016年4月には無期限の条例にすることが決まりました。

2012年10月に可決され、2013年6月から施行されたLAの「Puppy Mills Ban」。

2012年10月に可決され、2013年6月から施行されたLAの「Puppy Mills Ban」。

通称「Puppy Mills Ban(子犬製造工場禁止令)」と呼ばれるこの条例は、子犬や子猫、子ウサギを大量生産する繁殖業者の撲滅が目的です。

全米に1万カ所あるのではないか、といわれるミルの多くが、需要の高い品種を増やそうと無理に繁殖させたり、経費をかけず不衛生で狭いケージで飼育したりと、動物を非人道的に扱ってきました。

そして、これまでペットショップで売られてきた動物の9割以上が、ミルから仕入れたものだといわれているのです。

「犬猫製造工場」を閉め出すLA

ミルの最大の問題は「売れ残り」が発生することです。育てきれなくなった業者がまるで商品のように大量遺棄したり、公営シェルターに持ち込まれることも多く、そこで殺処分されています(筆者注:現在ほとんどの州ではガス室の稼働を禁止し、獣医が薬剤を与えて安楽死させている。「殺処分(kill)」ではなく「安楽死(euthanize)」という言葉が一般的に使われるが、日本のニュアンスと異なるのであえてこの表現を用いる)。

Puppy Millと呼ばれるペットの大規模繁殖業者の実態を伝えるために製作された、動物保護団体「Best Friends Los Angeles」の動画 | Best Friends Los Angeles

これまでもLAでは、業者の動物虐待を取り締まってきましたが、こうした業者からの仕入れを禁止し、かれらの収入源を絶つことで廃業させようしています。

同様の条例を設ける都市はほかにもあったものの、全米第2位の人口を抱えるLAの決断は影響力があり、シカゴやフィラデルフィアなどの大都市が後に続きました。

譲渡会場はペットショップ

ペットショップで生体販売をしていないとすると、LA市民はどこでペットを入手しているのでしょうか。

ペット探しの方法は、一般的には2つあります。

1)アダプション(シェルターや保護団体から動物を譲り受ける)

2)プロのブリーダーから直接購入する

LAでは現在、アダプションを通じてペットを飼うことが定着しており、8割以上にのぼるといわれています。アダプションの方法としては、シェルターに出向いて探す以外に、保護された動物をオンライン・データベースで検索することも可能です。

米国最大のペット・アダプションのサイト「Adopt a Pet.com」では、住んでいるエリアやペットの品種や性別、年齢、サイズなどを条件に、保護動物を検索できる。登録しているシェルターの数は全米13,600カ所を超える。

米国最大のペット・アダプションのサイト「Adopt a Pet.com」では、住んでいるエリアやペットの品種や性別、年齢、サイズなどを条件に、保護動物を検索できる。登録しているシェルターの数は全米13,600カ所を超える。

もっとも手近なのは、「アダプション・イベント」と呼ばれる保護動物の譲渡会への参加です。シェルターが主体となって開催するイベントのほか、ペットショップの店頭を会場にするケースも多くみられます。

カリフォルニア州に本拠地がある米国第2位のペットショップチェーン「PETCO」の店舗では、こうしたイベントを定期開催しています。ある日曜日に出向いてみると、地元の保護団体「Karma Rescue」のイベントが行われていました。

創業から51年、犬や猫の生体販売を行わず、シェルターに保護された動物のアダプションを推進し、米国ペット用品業界第2位までのぼりつめたPETCO。

創業から51年、犬や猫の生体販売を行わず、シェルターに保護された動物のアダプションを推進し、米国ペット用品業界第2位までのぼりつめたPETCO。

この日イベントにきていたのは犬が1歳から10歳の犬が10頭前後と生後8カ月の子猫が数頭。いずれもLAのシェルターで保護され、引き取り手を探しています。

「LAの公共シェルターの多くは2週間を期限として動物を保護します。期限が過ぎても殺処分されないよう、里親ボランティアさんに預かってもらいつつ、新しい家族を見つかるようにコーディネートしています。(Karma Rescueのボランティアスタッフ)」

スターキーとハッチは4歳のミニチュア・ピンシャー系のミックス犬。スターキーは保護された際に後ろ足を複雑骨折していたため、切断手術を受けている。こうした手術の手配や術後の健康管理も保護団体が行っている。

スターキーとハッチは4歳のミニチュア・ピンシャー系のミックス犬。スターキーは保護された際に後ろ足を複雑骨折していたため、切断手術を受けている。こうした手術の手配や術後の健康管理も保護団体が行っている。

ケージには犬ごとに紹介書が提示されており、犬種や年齢のほか、持病やケガの有無といった情報や、予防接種や不妊去勢手術が施されていることが明記されています。

8カ月の黒猫に見入っている女の子。この日は猫がつぎつぎと引き取り手が見つかった。

8カ月の黒猫に見入っている女の子。この日は猫がつぎつぎと引き取り手が見つかった。

全米1430店舗で開催される譲渡会を通じて、PETCOでは毎年約40万頭の犬猫を救出しているといいます。

こうしたイベントはまた、保護団体にはボランティアを募集する場でもあり、ペットショップにとっても良いプロモーションになります。

PETCOでは譲渡会でペットオーナーとなった人向けに特別割引を設けるなど、商機としてうまく活かしている印象を受けました。

主役は自治体から民間団体へ

米国動物愛護協会(HSUS)の調べによると、1970年のピーク時には全米で2300万頭以上、人口1000人当たり112頭の犬猫が殺処分されたとしています。

大量生産業者の取り締まりや、不妊去勢手術を徹底するなど、ペットが過剰に供給されるのを防ぐこと。

不幸にもシェルターに保護された動物を、1頭ごとに新しい飼い主とマッチングすること。

動物にかかわる人がそれぞれの立場で努力を続け、2014年にはようやく10分の1以下にまで減らせたものの、年間200万頭がいまだに殺処分されています。

LAでは2003年に当時の市長が「シェルターで保護した動物の90%を殺処分から救える街にしよう」と宣言。

2008年を目標に取り組んできましたが、景気後退の影響もあって達成できず、2011年時点でも57.8%と苦戦していました。

そんななかで、目標の期日を2017年度中と据えなおし、動物に優しい街づくりを目指そうと呼びかける、民間の動物保護団体があります。

その団体の活動が着実に成果をあげ、2016年4月時点で84.3%の過去最高記録を更新しました。LA市が「今度こそは目標達成できそうだ」と発表したことで話題をよんでいます。

次回は、LAで活躍する動物保護団体の、ユニークな取り組みをご紹介します。

ハリウッドサインの下に広がるのは、LAの愛犬家たちに人気の公園「Lake Hollywood Park」。

ハリウッドサインの下に広がるのは、LAの愛犬家たちに人気の公園「Lake Hollywood Park」。