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【SPEEDA総研】自動車教習所から国内自動車市場の動向をみる

2016/6/4
 SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。近年は国内自動車市場の低迷が続いているが、今回はその前提となる免許及び自動車教習所の実態を踏まえて全体動向を確認する。

自動車教習所とは

自動車教習所とは、自動車運転教育を行う施設である。最も一般的なものは「指定自動車教習所」と呼ばれる施設で、これは人的基準、物的基準、運営基準の主に3つの観点に関して、道路交通法令の定める基準に適合しているものとして公安委員会による指定を受けている施設である。

現在は新規免許取得者の約95%以上が指定自動車教習所を卒業している。

人的基準には、法令上の資格要件を備えた管理者、公安委員会の審査に合格した指導員・検定員の配置有無などが求められる。

物的基準には、コース敷地面積が8,000平方メートル(二輪専門教習所は3,500平方メートル)以上であること、コースの種類や形状、構造が法令に定める基準に適合していること、学科や技能などの教習を行うために必要な自動車、建物、機材などを備えていることなどが求められる。

運営基準には、法令に定められた所定の教習課程表に基づき、教習方法や時間数が基準を満たすことが求められる。

そのほか、届出自動車教習所という施設も存在するが、施設の規模がさまざまであること、最終的な運転免許取得の際に公安委員会における技能試験が課せられることなどが、指定教習所との違いである。

なお、特定届出自動車教習所については、前述の3基準について公安委員会より指定を受けている。

教習所数は減少傾向が続く

指定教習所は、1990年代後半から減少傾向が続いている。1992年の1,535か所から、2015年には1,339か所と1割以上減少した。

卒業者数も同様に、1992年には250万人を超えていたが、2015年には157万人と約4割も減少。1教習所あたりの人数は500人以上減少した。
 免許-01_教習所数・卒業者数

免許保有者数は少子高齢化を反映

運転免許の保有者数は、近年伸び率では鈍化しているものの、総数の増加は続いている。
 免許-02_免許保有者

しかしながら、年齢別の保有比率をみてみると、10代は減少傾向をたどっており、若年層の新規取得者数が減少していることがうかがえる。
 免許-03_年齢別免許保有者

60歳以上の保有率は上がり、人数構成も約3割と、特に2000年代以降は少子高齢化の影響が顕著である。
 免許-04_免許保有者構成比
 

免許取得費用は上昇

教習所に関しては、一覧性のあるデータが少ないため、正確には確認できていないが、近年教習所の入所料金は従来にくらべ上がっているという声が多い。

背景としては、道路交通法改正に伴う教習内容の変化が考えられる。

教習内容は、前述の通り基本的に道交法で定められている。教習に影響を与えた具体的な事例として、1994年5月施行の道交法改正により、指定教習所における教習カリキュラムの抜本的な見直しが行われ、危険予測教習、高速教習、応急救護処置教習などが義務化された。

技能教習と学科教習の最短時限数は、1993年5月から1998年4月までの合計68時限(技能と学科34時間ずつ)が最も多い期間だった。

その後1998年5月の改正で学科教習が減り、2016年6月現在は新規の免許取得のうち普通車MTが学科26時限、技能34時限の合計60時限、普通車AT限定は技能が31時限で合計57時限となっている。

教習所の所在地や最終的な教習時限数により料金総額は変動するため一概には言えないが、2016年6月現在の各都道府県の普通車運転免許新規取得にかかる入所料金は30~35万円が一般的な水準のようである。

自動車保有も高まる負担

一方で、免許取得の大きな目的である、自動車保有も、年々ハードルが上がっている。

以下のグラフは、歴代トヨタカローラの価格推移と大学卒初任給の推移を比較したものである。

1990年代前半までは、給与水準と車両価格がともに段階的に上昇してきたが、1990年代後半から2007年頃までは、給与が伸び悩む一方で車両価格だけが上昇を続けた。
 免許-05_初任給とカローラ価格

車両側の性能も上がっているため、その分価格が上がっていくのは自然なことではあるが、初任給で8か月程度であった水準から、1年分に近い水準に上昇していることも、購入意欲に影響を与えている可能性が考えられる。
 免許-06_初任給とカローラ価格対比_修正

さらに、これはあくまで車両価格のみの話であり、駐車場や保険、税金などの保有コスト全体を考えると、購入への道のりはより険しいものなっているのが現状である。

国内新車・保有台数は伸び悩む

こうしたなか、自動車全体の動向をみてみると、国内自動車保有台数は、1990年代まで増加傾向が続いていたが、2000年代に入りほぼ横ばいとなっている。
 免許-07_保有台数_修正

新車販売台数も、1990年の777万台をピークに減少傾向となっている。完成車メーカーが主体となって、国内の自動車需要喚起に努めているものの、このままの推移が続けば全需の目減りは避けられないのが現状である。
 免許-08_新車販売_修正_注修正

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変化を迫られるビジネスモデル

「いつかはクラウン」というキャッチコピーをご存じだろうか。

カローラからマークⅡへ、マークⅡからクラウンへ、など上位車種への乗り換えが、昔のトヨタユーザーの憧れでもあり、その頂点でもあるクラウンに乗れることが1つのステータスでもあった。

そうしたクラウンと上位車種への乗り換えビジネスモデルを表す「いつかはクラウン」。今では、多様化とクルマへの興味の低下がその言葉を過去のものとした。

こうした上位車種への乗り換えモデルは、以下のように日本的賃金カーブが維持されていることが、必要条件でもあると言える。
 免許-09_産業賃金カーブ

産業別の就業者数をみても、賃金カーブの平均からそれをやや下回る水準へと人口が移行しつつある。

このような昨今の社会的産業構造の変化を受け、賃金カーブの下方へのシフトやフラット化、業種構造の変化などがより進行すれば、購買原資である賃金面での影響も厳しさを増し、このような上位車種への乗り換えモデルもより減少することとなるだろう。

まとめ~「いつかは○○」

マクロ動向の変化を受けて、自動車業界の大きな再編はすでに始まっている。販売チャネルの再編という課題にも、その一環として本格的に手をつける必要があるだろう。

クルマは人々の生活必需品ではなくなりつつあり、従来型のシンプルな訴求は難しくなっている。

一方、社会全体が個人の生活における細かな需要に応えられるようになり、限られた所得を何に使うかという点では、選択肢が広がっているというのも実態である。

自動運転やAIなどの技術面、水素や電気といったインフラ面に加え、ユーザー側もカーシェア含めた利用や所有の形態そのものの変化が起こっており、自動車自体の再定義が進んでいるとも言える。

そのなかで、自動車業界にとっての、ユーザーという存在を再定義することも必要となるかもしれない。

モノとしての価値だけではなく、人や社会に対して、新しい価値観を提供することが、今の自動車メーカーが直面している課題でもある。

新しい「いつかは○○」をつくり出せるのか、自動車メーカー各社の真価が問われている。

(写真:iStock.com/UygarGeographic)

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