第15回:ベンチャーキャピタリストだけど質問ある?
起業家は誰のアドバイスを聞くべきなのか?
2016/5/31
いま最も注目されるベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏と、十数年のAppleでのビジネス経験を経てIoTサービス「まごチャンネル」をスタートさせた梶原健司氏が本音で語り合う大好評連載の第15回です。メイクアップアプリを運営する株式会社MAKEYのCEO、中村秀樹氏をゲストに迎え、学生起業やベンチャーのアーリー期ならではの悩みに答えるシリーズも最終回。最後ということで、年長の二人に、ビジネスと少し離れた質問が振られます。
※本記事の取材は2015年11月に行われました。文中の情報はすべて当時のものです。
自分の「軸」を持ってますか?
高宮:ここまで中村さんには、シード期ならではの社内体制の問題や、創業者間契約、エンジニアとの付き合い方などについて質問をしていただきました。だいたいこんなところで、今の悩みはカバーできたでしょうか?
中村:最後に、サービス外の人間関係のような悩みになりますが、よろしいでしょうか。
高宮:もちろんです。
中村:学生起業だったことを言い訳にしてはいけないと思いますが、今にして思うと、自分たちには、ビジネスパーソンとしての動き方と、サービス運営についての知識が、全然足りていなかったんです。
手探りしながら、CGMサービスのつくり方について、自分たちなりのセオリーを見つけていくしかなかったので、いろいろと周りにアドバイスを伺いながら進めていた時期がありました。
会う人会う人皆さんに相談していた感じでした。どのアドバイスもその方なりの経験や知見に裏打ちされていて、しかも親身になってくれる方ばかりで、本当にありがたかったです。
しかし、それらをそしゃくして僕たちのサービスに適用しようとすると、 AさんとBさんのアドバイスが正反対だったり、矛盾したり、ということが出てきました。
たぶん両方とも正解だとは思うんです。でも、どちらかに決めないといけない。そういうときに、正反対になった部分をアドバイスしてくれた人に対して、今後どう接していこうか悩んだりしました。
梶原:なるほどねぇ。
中村:そのタイミングではアドバイス通りの行動はできなかったのですが、基本的には尊敬している方ですし、お付き合いはずっと続くわけじゃないですか。
「え! このあいだアドバイスした内容からずれてるよね? なんでこれをやってないの?」みたいな話になったこともあります。
僕らからしたら、おろそかにしたわけじゃまったくないんですが、そこら辺のうまい伝え方、コミュニケーションの取り方みたいのものが難しかったです。
梶原:年上の立場としては、学生さんとか、自分よりも若い人に対してはいろんなことを言いたくなりますよね(笑)。
高宮:誰の話を聞くべきか、その取捨選択は確かに難しいところですよね。
周りの人は期待も込めてかわいがってくれているわけで、その方との関係を考えるとむげにはできない。
けれど事業として冷静な判断も求められる。状況に応じて都度都度、それぞれの方から最も正しいと思われる意見を、自分なりに判断し受け入れられるようにしたいですね。
そのためにもまずは、自分たちの「軸」をきちんと持つことが大事でしょうね。
アドバイスはあくまでアドバイスに過ぎないわけで、最終的に決めるのは自分たちです。「軸」があれば、どういった判断をしても周りにきちんと説明できるはずです。
じゃぁ「軸」って何だ?って話になるのですが、自分たちのビジョンと価値観だと思います。世の中をどう変えたいのか、量的なところでどれくらいの規模感を目指したいのか、同じ目標に向けてやるにして自分たちのスタイルや美学もある。
迷ったら常にそこに立ち返ればいい。もちろん経営メンバー内でその辺りが共通化できている前提ですが.
そういう意味では、ビジョンや価値観に共感してくれる信頼できる人を自分たちのご意見番のように、「軸」の一部として持っておくのは良いことだと思います。
中村:なるほど。たしかに当時の僕らには「軸」がなかったです。だから、こんな方に判断を仰ぎたいっていう人を選ぶ基準もなくて。
高宮:そうですね。信頼できる人に、定期的に話を聞いてもらう機会を設けるといいでしょう。
他の人からアドバイスをもらった場合にも、「ある方にこう言われたんですが、どう思われますか?」みたいな感じで、率直にその人にぶつけてみる。
そのうえで、自分でしっかりと思考をした言葉でコミュニケーションをとるなら、取り入れなかったアドバイスをしてくれた方も、気にせずに受け入れてくれると思いますよ。
中村:なるほど。僕たちの場合は、お話をしてくれる方全員に対して、常になんらかアドバイスを伺っていったという感じで、いろいろと迷走した時期がありました。
貴重な生の意見をチームにフィードバックして、良い方向に持って行こうとしていたんですが……。
でもそうするとチーム内から、「おまえ、言ってることがなんか行ったり来たりしてない?」みたいな話が出てきて、結果としてチームワークを悪くすることになったりしていました。
梶原:そういう経験を踏まえて、今はどのような状態になられたんですか?
中村:まず僕らの中で、サービスを最終形態まで持っていくうえでのビジョンをきちんと共有しました。そしてそのビジョンの実現への道筋についても、今はメンバー間で腹落ちした状態になっています。
その上で僕らが抱えている課題とか、どうすべきか判断がつかず困っている部分を、僕らが尊敬する人や先輩の起業家さんとかに聞いて、補正しているという感じですね。
なので、周りのアドバイスに右往左往していた時代からすれば、ある程度は進歩できたのかなと思っております。
軸が定まってないということすら、当時は本当にわかっていなかったので……。今日改めて高宮さんに回答をいただいて、このやり方でいいんだ、と安心できました。
高宮:お役に立ててよかったです。
「梶原さんがいま学生だったら、起業しますか?」
中村:最後に梶原さんにもお聞きしたいです。梶原さんの起業のキッカケは何だったんですか?
梶原:そこから行きますか(笑)。
高宮:それは私も聞いてみたい。
梶原:そうですねぇ。新卒で入社以来、12年間在籍している中で、アップルはとんでもない事業の伸びをしたのですが、末席ではありますが一員としてその成長を内部で体験できたのは本当に得難いことだったと思っています。
一方でジョブズはスタンフォード大の講演で「follow your heart」「他人の心になんか従うな、自分の心に従え」って言ってましたからね。その言葉はずっと心に残っていて、いつか自分で何か創ってみたいという想いが、大きくなってきました。
そのうえで具体的な起業の理由としては、僕が個人的にすごく解決したい課題があって。それはアップルも含めて既存のソリューションでは解決できないものでした。
じゃあ、その課題はこうして解決したらいいんじゃないかと、いろいろな人にヒアリングしてみたら、「それはいま欲しい!」みたいな反応を結構いただけたので、だったら、つくってみようかな。そんな感じで始まったのが「まごチャンネル」だったんです。
中村:いま会社員の経験を振り返ってみて、もし12年前に戻れるなら、学校を出たすぐ後に、社会人1年目で起業という選択肢はあり得たと思われますか?
というのも、僕は学生のうちに起業してしまったので、もし企業に勤めていたら、その経験が今の自分にどんな影響を与えたのかを、想像ベースでしか感じられないので。
そこがもっとわかれば、気持ちの問題ですが、より強い思いをもって今の事業に取り組めるのではないかと思ったんです。
梶原:そうですね。時代背景とかが絡んできちゃうんで、一概には言えないのですが、12年間会社員をやったことは、僕は全然後悔がないんです。
僕がいたときのアップルって、ベンチャーだったんですよ。ジョブズ自身が、「うちの会社は世界最大のスタートアップカンパニーだ」って言ってたぐらいなんです。もう変化が激しすぎて飽きる間もないぐらい(笑)
僕が入社してから、売上は30、40倍ぐらいになっていって。株価も100倍以上になってて、ほんとに途中で株を売らなきゃ良かった。
そうしたら、自己資本でいろいろやれたんだけど(笑)。
中村:悔しいですね(笑)。
梶原:とはいえ、本当にお金では買えないとても貴重な経験をさせてもらいましたね。
大企業の経験も積めたし、「0→1」ではないんですけど、「3→100」くらいになるのを自分でも関わることができたし。あの時代にアップルにいられたというのは、たまたまですけど、すごくラッキーでした。
ただ、いま自分が大学を卒業して、インターネットとスマホがあって、投資の環境とかいろいろ整っているというこの状況だったら、絶対に起業しますね。
中村:おお、そうなんですね。
梶原:します。します。
高宮:いろいろな人の話を聞くと、おじさんはおじさんで「若いころからやっとけば良かった」。若者は若者で「おじさん側の経験値が羨ましい」みたいな「他人の芝生は青い」系の話はすごくあるんですよ。
でも、過去には戻れないという前提で、サンクコストに縛られず、今ベストな判断を考えると、おじさんでも若者でも誰であれ「やりたいことがあるなら、想いがあることがあるなら、今やればいいじゃん」ってことだと思います。
梶原:どれだけ失敗しても、全部経験になって次に生きてくる。そう考えると、最高ですよ。
高宮:最高ですね。
中村:ちなみに今この場に、学生からいきなり起業される梶原さんがいらっしゃったとして、現在の梶原さんが、その起業される梶原さんにアドバイスできることって何でしょうか?
12年間の会社員経験からの、「おまえは知らないだろうが、これは知っとくべきだ」みたいな。
梶原:うーん。何だろうな? あんまり思い浮かばないですね。(笑)
中村:ほんとですか。(笑)
梶原:自分がお世話になっていた頃のアップルはさっき言ったようにほんとにベンチャーみたいな感じだったので(笑)。
ただ日本の大企業って、優秀な人は本当にいっぱいいるんですけど、組織としては旧態依然としているところが多いですよね。
IT化が進んでいなかったり、意思決定に時間が掛かる社内体制になっていて、組織全体としてのスピード感がなかったり。そこから学べるものも当然あるんですけど、だからといって、絶対的に優れているわけでもない。
中村:そうなんですか。
梶原:もちろん約束を守ることの大切さとか、そういう基本的なビジネスマナー的なことはある。でもそれは別に会社以外でも学べると思うので、取れるだけリスクを取るというのが、今はいいんじゃないですかね。
高宮:学生から起業しちゃうと、名刺の渡し方からタクシーの乗り方みたいなところって、知らないで当たり前です。
でも、知らないということをきちんと自覚しながら、周囲の空気感に対して敏感になって、わからないことがあったら、おじさんに聞いてみる。
あと、やっぱり若者だけでチームを固めないで、おじさんをちゃんとチームに、どこかのタイミングでは入れたほうがいいかなとは思いますね。チームとしてカバーできていれば、それでいいじゃないかと。
梶原:ですよね。あと最後に、話が少しずれるかもしれないですけど、僕が大人になって、「これだけは絶対に体に染み込ませなきゃいけないな」と思ったのは、「複利で効いてくるものにできるだけ時間を費やす」ということですね。
中村:複利?
梶原:そこって、ほんとに若い人ってわかってない気がしていて。お金もそうだし、ビジネスもそうなんですけど、複利で回せるものって結構あるんですね。
高宮:1日1%成長させると、1年間で38倍、2年間で1000倍以上になるみたいな。
梶原:そうそう。そういう話ですね。だから最初の雪玉を早くつくって、それをずっとやり続けることが、超大事になります。今から僕がやり続けるのと、若いうちからやり続けるって、全然違うぞ、という話です。
高宮:年に10%成長するだけで、7年で2倍くらいになる。10%って、大したことないような気がしますが、複利だとすごく効くんです。それを若者が理解できていたら最強だと思います。
中村:わかりました。今日のお話は全部肝に銘じます。本当に、ありがとうございました!
(写真:疋田千里、企画協力:ダイヤモンド社&古屋荘太)
*過去の記事はこちら
第1回:ベンチャーって、どんな感じで成長するんですか
第2回:ベンチャーのシードフェーズで重要なことは何ですか?
第3回:「ユーザーにぶっ刺さるもの」のつくり方ってありますか?
第4回:VCから投資を受けるのに大切なことは何ですか?
第5回:起業家は撤退ラインを設けるべきですか?
第6回:ピボットすべきタイミングはいつですか?
第7回:創業期のメンバーのリクルーティングって、みんなどうしてるんですか?
第8回:起業家と投資家の良い「知り合い方・付き合い方」ってありますか?
第9回:起業家に求められるスキルって何ですか?
第10回:経営チームに求められるスキルって何ですか?
第11回:学生起業によくある社内体制の失敗って何ですか?
第12回:資本構成と創業者間契約の注意点って何ですか?
第13回:「成長」と「収益化」のどちらに力を入れるべきでしょうか?
第14回:エンジニアと、開発の優先順位をどう合意すればいいですか?
*こちらのフェイスブックページでは、高宮さんへの「起業」に関する質問を募集しています。