20160530-mvno

FREETELのポテンシャル評価は

コンサルタントが見た“進化するMVNO”の可能性

2016/5/30
日本発のSIMフリースマホを開発するメーカーであり、格安SIMを展開するMVNO事業者でもあるFREETEL。コンサルタントとしてFREETELの事業を支援しているプロピッカー・占部伸一郎氏のたっての希望により、元マッキンゼーでコンサルタント経験を持つ経営学者・琴坂将広氏との対談が実現した。FREETELのビジネスの可能性について、そしてコンサルタントとしての関わり方について、さまざまな角度から疑問をぶつけた。

コンサルが表に出る理由

琴坂:現在、占部さんはビジネスとしてFREETELを支援している。しかし、コンサルタントのパートナーがそれを公言するのは極めて珍しいことです。私もコンサルタント経験者ですから、いかに異例なのかよく分かります。

この対談も占部さんの希望で私に声がかかったわけですが、それだけFREETELの仕事に特別な思い入れがあるということでしょうか?

占部:おっしゃる通りです。いま、モバイル業界が大きな転換点にいるということもありますが、理由を一言でいうと、FREETELが普通じゃない会社だからですね。

そもそも普通の格安SIM/MVNOの会社は、自社でスマホを開発しません。競争力があるレベルのハードを作るには、提携工場の開拓からはじまり、品質管理、在庫管理など、相当なコストがかかります。また投資の回収サイクルも長く資金が寝てしまうため、ベンチャーのセオリーではありえない戦略です。

しかし、同社はあえてそこに資金を投入して、勝負して勝っていくというビジョンを描いています。違いは、やっぱり社長の熱意ですね。「10年後、モバイル業界で世界一になる」と公言して、徹底したユーザー目線で「業界を変えたい」と思っている。そこに人と資金が集まってきています。

占部伸一郎(うらべ・しんいちろう) コーポレイトディレクションのパートナーとして、テレコムネット関係、流通小売り、不動産などの幅広い分野において、中期計画の策定、新規事業の立上げ、事業再生支援、組織改革などに活躍。近年は日本企業の中国を中心とするアジア展開戦略や、マネジメント体制の再構築に取り組んでいる。2016年1月からFREETELのビジネスを支援。

占部伸一郎(うらべ・しんいちろう)
コーポレイトディレクションのパートナーとして、テレコムネット関係、流通小売り、不動産などの幅広い分野において、中期計画の策定、新規事業の立上げ、事業再生支援、組織改革などに活躍。近年は日本企業の中国を中心とするアジア展開戦略や、マネジメント体制の再構築に取り組んでいる。2016年1月からFREETELのビジネスを支援。

スマホ開発を手掛けるメリット

琴坂:スマホ開発も、かつてとは構造が変わりましたよね。メガサプライヤーを活用して提携工場を開拓すれば、端末を作ること自体は新規参入者でも容易となっています。ただ、確かに端末は作れますが、競争力のある製品を作って生き残れるかはもちろん別の話ですね。

占部:そうですね。そのなかで、FREETELがスマホを作ることに何の意味があるかといえば、「新しい垂直統合」です。スマホ・SIM・アプリを一社で手掛けることで、総合的な価値の提供を目指しています。

MVNOとしてSIMを売るだけでは収益が限定的で、打ち手も限られます。しかし、スマホ販売の粗利も合わせることでさまざまな打ち手を検討できるし、端末があるからこそアプリレイヤーへの展開の道も開けます。

琴坂:MVNOとしてSIMだけで戦うと、単なる価格競争になるか、自社の顧客フローを活用するニッチなブランドで細々と稼ぐことで終わる可能性が高いとも思います。そこで占部さんの言われる「新しい垂直統合」で差別化をねらうと。

あと、端末も提供していくことの強みは、量販店で比較的良い売り場を確保できる可能性があることではないでしょうか。スマホが画一化して3社寡占が長年続くなか、売り場がつまらなくなっている。ここでFREETELのような個性的なブランドが量販店で場所が取れるのは大きい。

占部:日本最大の家電量販店である秋葉原のヨドバシカメラでは、入り口の一番目立つ場所にキャリア並みのコーナーを展開しています。キャリア以外の会社がここに食い込むのは異例のこととです。やはり「売れるハード」というのが一番分かりやすいんです。

琴坂将広(ことさか・まさひろ) 慶應義塾大学 准教授。マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に勤務後、オックスフォード大学サィードビジネススクール、立命館大経営学部を経て、2016年から現職。博士(経営学・オックスフォード大学)。専門は国際化戦略。著書に『領域を超える経営学-グローバル経営の本質を知の系譜で読み解く』(ダイヤモンド社)など。

琴坂将広(ことさか・まさひろ)
慶應義塾大学 准教授。マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に勤務後、オックスフォード大学サィードビジネススクール、立命館大経営学部を経て、2016年から現職。博士(経営学・オックスフォード大学)。専門は国際化戦略。著書に『領域を超える経営学-グローバル経営の本質を知の系譜で読み解く』(ダイヤモンド社)など。

made by Japanの強み

琴坂:占部さんがのめり込むには根拠があるかと思います。ほかのMVNO事業者と比較したときに、FREETELの最大の特徴はグローバル市場をターゲットに入れているスマホ端末メーカーである、という点で正しいですか?

占部:MVNO事業はまず日本からですが、端末メーカーとしては国内と並行してグローバルへの進出をはじめています。すでにアジアや中南米の国々を中心に売り始めていますが、これにすごい数の引き合いが来ている。海外における“日本製品”の強さを実感しています。

琴坂:私は専門が国際経営ですが、現実問題として“made in”でなく“made by”が大切ですね。国境の意味が小さくなり、例えばイタリアのビザも、イタリア製バッグも、実際はイタリア人が作っていないことが大半です。“made in Japan”の電化製品ももうほとんどありません。

しかし、だからこそ、“made by Japan”のブランド価値は大きいと思います。価値をコントロールして保証する部分がとても重要な意味を持ち始めています。

占部:このあたりはVol.2の増田社長と楠木先生の対談を見て頂くといいですが、FREETELのスマホは、大手家電メーカーOBが現地で品質指導したmade by Japanとして海外生産しています。大きな工場で、かなり小さいロットで作ってもらっている。通常ならそんな交渉は成り立たないんですが、彼らも製品を見たうえで、「FREETELは化けるのでは」と思っているようです。

社長は「10年で世界一になる」と言っていますが、FREETELスマホの価格設定はグローバルの普及価格帯なので、新興国に早めに入って一気に売ってしまうという方向性です。そこから世界に販路を広げて、グローバルな端末プレーヤーとしてメジャーになることを本気で狙っています。

5/27に発売されたFREETELの最新モデル「麗<REI>」は、独自開発のUIに加え、ナビ機能を集約した「FREETELボタン」を搭載。使いやすさを一新させている。

5/27に発売されたFREETELの最新モデル「麗<REI>」は、独自開発のUIに加え、ナビ機能を集約した「FREETELボタン」を搭載。使いやすさを一新させている。

MVNOの可能性と限界とは

占部:今後の課題は、まず国内のマス層にどう訴求するか。MVNOの認知が広まってきているといっても、まだ正しい理解は進んでいません。リテラシーの高いユーザーから訴求して、そこから広がっていくように促したい。そのためにも「格安スマホ」に代わる名前が欲しいとずっと考えてきたなかで、今回『日本に、もうひとつの携帯会社』というタグラインを打ち出すことにしました。

琴坂:確かに、MVNO全体としてネーミングは変えたほうがいいですね。「格安」は安かろう、悪かろうの印象がある。そもそも、MVNO がなんの略語であるのかも、ほとんど一般には理解されていないのではないでしょうか。

占部:日本でMVNOが広がらなかった理由はいろいろですが、もっとも大きいのは「SIM単体をネットで売る」という販売方法です。これではごく一部、イノベーター層のユーザーにしか訴求しません。スマホ本体とセットで、そしてリアルな接点を含めて売ることがポイントで、かつスマホ自体がiPhoneなどのハイエンド機に比べても見劣りしないことも重要です。

残念ながらキャリアのハイエンド機と比べると、SIMフリーの端末はまだまだ型落ちという印象があります。FREETELとしては、今回の新モデル「REI」を皮切りに新端末を続々投入するロードマップになっており、実物を見てもらって「この端末で十分」と思ってもらえるかが勝負です。

琴坂:量販店などの身近な店舗で、既存キャリアと同じ方法で売る。非常に大事なポイントですね。

占部:ただ、FREETELはセット販売だけをするわけではなく、SIM単体で買うことも、スマホ単体で買うこともできますし、スマホだけ他社に卸したりもしています。垂直統合といいつつも、他社や競合を排除するわけではない。ゆるやかでオープンな垂直統合モデルを目指しているとも言えます。

「ヨドバシAlkiba」をはじめ、FREETELのコーナーが設置されている家電量販店は続々と増えている。

「ヨドバシAkiba」をはじめ、FREETELのコーナーが設置されている家電量販店は続々と増えている。

琴坂:なるほど。お世辞抜きで欲しくなってきました(笑)。実は、私は長らくMVNOユーザーなんですよ。日本でMVNOが開始された15年くらい前からのユーザーです。SIMカードも5枚持っていて、海外出張で行く国の先々で使い分けています。

そこで1ユーザーとしての質問ですが、TVCMを打つことで一気にユーザーが増えたら、回線のクオリティは落ちませんか? 今はいいと思うのですが、特に回線スピードの低下が怖いです。

占部:回線のクオリティは、ユーザーがMVNOに移行する上での一番の懸念ですね。Vol.1のスライドストーリーにもあったように、MVNOの回線スピードは、キャリアからどのくらいの帯域を借りて、そこに何人のユーザーを詰め込むかの事業者ごとのポリシーに依存しています。

FREETELはこの基準を高く持っていて、インフラは大手キャリアのOBが設計し、「増速マラソン」を繰り返すなど相当気を使っています。各種のスピードテストでも常に上位に来ているので、ネットでは「爆速」と言われています。事業の採算性を見ている立場としては原価高になって頭が痛いところなんですが、スマホ端末の粗利があるので成り立っているとも言えます。

琴坂:もうひとつ気になる点として、これはMVNO全体にいえることですが、3キャリアとの関係はどうですか? 売れるにつれキャリアとの関係性が悪化するようなことはないのでしょうか。

占部:MVNOはキャリアの回線網あってのビジネスですし、国全体のインフラ構築をするうえでも、3キャリアの存在はとても重要です。これから5G回線も登場してくるなかで、まだまだインフラに設備投資が必要になっていきます。

海外の例を見ても、MVNOのシェアは全体の20%前後になるケースが多いですから、良い意味で「棲み分けがすすむ」という認識です。

例えば、街中にあるキャリアショップは、ユーザーにとっては何かあればすぐ相談できる便利な存在ですが、裏を返せばあれだけの店舗網を維持するためのコストを、ユーザーが月々負担していることでもあります。

安心を取るか、価格を取るかは人によって違ってよいのですが、これまで寡占だったところに「新しい選択肢」ができること自体がとても重要なんだと思っています。
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ライバルと比較したFREETELの強み

琴坂:今夏登場する予定の「LINEモバイル」をはじめとして、MVNO事業者には多くの競合がいます。端末販売を考えずに、SIM自体での差別化という点では、なにか特別な点があるのでしょうか?

占部:FREETEL SIMは、LINEをはじめとしたメッセンジャーアプリの通信料が無料だったり、料金プランも多彩なバリエーションがあったりという特徴があります。この辺りは、MVNO事業に参入したのが他社に比べて遅かったことが有利に働いている部分です。

というのも、以前から格安SIMを手がけているMVNO事業者は、自社で持っている通信設備・システムがレガシーになってしまっていることが多く、柔軟な料金プラン設計などの足かせになっている。それは簡単には切り替えられません。

一方でFREETELは自社の通信設備・システムが新しいため、アプリ別の速度調整や多彩な料金プランの設定など、いろいろな最適化ができる。それが顧客ニーズに柔軟に応えられるという強みにつながっています。

琴坂:「レイト・ムーバー・アドバンテージ」ですね。各社の動きを見たうえで、後出しできるから強い。そう考えると、SIMと端末の双方に強みを持っているFREETELは、いまのところ競合がいないのかもしれません。

占部:ビジネスモデルとしては既存のキャリアに近いポジショニングになると思います。SIMだけ展開しているMVNOプレーヤーとは明確に違うポジションだと位置付けていて、それが「日本に、もうひとつの携帯会社」というメッセージにも込められています。

とはいえ、FREETELはまだまだ後発で参入したベンチャーにすぎないですし、SIMと端末双方を持っているメリットをユーザーにどこまで伝えられるかは課題です。あくまでも挑戦者という認識ですね。
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占部氏はなぜジョインしないのか

琴坂:最後に聞きたいのは、なぜ占部さんはFREETELにジョインしないんですか? きっと読者もそう思っていますよ(笑)。

占部:そうですね…こういう会社のこういうフェーズに多く立ち会えるのもコンサルタントだからですし、中に入ると「いち担当者」になってしまう中で、組織図に縛られない「リベロ役」としての役割を担えるという意味で、いまの立ち位置だからこそ出せる価値がある気がしています。

琴坂:組織図にしばられない動き方ができる?

占部:経営メンバーの目線で、直近でつぶすべきポイントは何か、今後を踏まえて仕込んでおいた方がいいことは何か、と常に考えることができるのが個人的には面白いですね。外部の人間だから言えることもあるし、局面によっては「嫌われ者になってもいい」という気持ちもあります。

FREETELさんとは1月からのお付き合いですが、「より一般層を取り込むFREETEL2.0への進化」という大きな方向性を決め、その実行のために必要なプロモ―ション、チャネル、オペレーション、ファイナンスと、5名のスタッフとともに多岐にわたる支援をしています。

自分も半分以上の時間はFREETELさんのオフィスに居て、それらの「実行」に日々立ち会っていますので、「コンサルは提案するだけで実行に関われない」という、よく聞く「コンサルの限界」のようなものを感じることも少ないです。

琴坂:FREETELが独り立ちするのはいつ頃になるんでしょうね? コンサルタントの本音としては最後まで関わりたいと思いますが、難しい問題ですよね。

占部:いまのFREETELには続々と経験豊富なメンバーが集まってきています。一方で、さらに成長して事業領域を拡大していけば、どんどん新しい課題にぶち当たりますし、外部の力が必要になるところも出てくると思うので、そのバランスでしょうか。

その意味でも、われわれがどこまで結果を出して、成長を後押しできるかにかかっているのだと思っています。

(編集:呉 琢磨、構成:阿部祐子、撮影:岡村大輔)

日本に、もうひとつの携帯会社。FREETELについての情報は公式Webサイトから。