日本サッカーに足りないもの(第1回)
なぜJリーグの試合は欧州トップレベルと違って見えるのか
2016/4/25
今年3月、Jリーグの村井満チェアマンが「スカパー!」のサッカー番組「Jリーグラボ」に出演したときのことだ。就任3年目を迎えたリクルート出身のチェアマンは、こう語った。
「世界のサッカーの水準と、日本の水準のギャップがどこにあって、世界の競技レベルに追いつくために何をすべきなのか。ここから2年間は、それがものすごく大事な期間になる。何が足りなくて、どんな手が必要なのか。その道筋をつけることが一番大事だと思います」
このような問題意識を抱いているのは、村井チェアマンだけではない。2010年W杯前、元日本代表監督のイビチャ・オシムが同じく「スカパー!」の特番でこんな指摘をしていた。
「毎週Jリーグと欧州リーグを見ている人が、これが同じスポーツ? という疑問を持ったときに、サッカーの解説者には答える責任があると思います。なぜ違うように見えるのか、ちゃんと説明しなければいけません。そしてなぜ日本人選手が同じようにプレーすることができないのか、説明できるだけの知識と責任感を備えていなくてはいけません」
衛星放送やインターネットの発達によって、サッカーファンは日常的にバルセロナやバイエルンのプレーを目にできるようになった。
残念ながらオシムが「これが同じスポーツか?」と言うように、初心者が見てもわかるようなレベルの違いがある。
Jリーグと欧州トップリーグのギャップはどこにあるのか──。その正体と処方箋を明らかにしない限り、日本サッカーの発展は成し得ないはずだ。連載の特別編として、5回連続でそれを解き明かすことに挑戦したい。
試合のレベルとは何か
まずはサッカーの試合の「レベル」とは何なのだろう。試合を見れば誰もが直感的に判断できるものだけに、普段はあえて定義を意識しないでも問題にならないが、「ギャップ」を考えるためにはその言語化は欠かせない。
すでに答えは出ている。結論から言えば、サッカーの試合のレベルとは「爆発的なプレーの出力の大きさ、およびその頻度」のことである。
オランダの名コンディショニングコーチ、レイモンド・フェルハイエンが理論を構築する過程で、サッカーにおけるアクションをわかりやすく定義したからだ。
レイモンドはヒディンク監督の右腕として韓国代表の2002年W杯ベスト4やロシア代表のユーロ2008のベスト4を陰で支え、その他にもライカールト監督時代のバルセロナでトレーニング改革を成功させた人物だ。19歳でコーチの道に進み、まだ44歳と若いが、すでにオランダではカリスマ的な存在になっている。
プレーの爆発力とその頻度
レイモンドはプレーをアクションとして捉え、2つの要素を定義している。それが「爆発力」と「アクションの頻度」だ。
ここで爆発力が大きいアクションをX、爆発力が小さいアクションをxで表すことにしよう。イメージとしては、メッシの高速ドリブルが大文字のX、高校生のドリブルが小文字のxだ。ボールを受けてから素早くパスを出すといった時間を短縮するプレーも、爆発的プレーのひとつだ。すなわちトラップといった技術的要素もうまく含まれている。
選手の体力には限りがあるので、90分の中で X–X–X–x–x–xとだんだん爆発力が下がっていくのが普通だ。実際には疲れるとアクションの頻度も下がるため、より正確なイメージはX-X–X–x—x—-xという感じである。
こう定義すると、トレーニングの目的もシンプルになる。以下の2つを向上させればいい。
x → X (爆発力の向上)
X——–X → X–X–X–X (アクションの頻度の向上)
両チームが90分間Xを大きくし続け、さらにその頻度を保てれば、白熱した試合になるはずである。すなわちそれが「レベルが高い」ということになる。
レベルの高い試合の定義
レイモンドは自著『サッカーのピリオダイゼーション』(ワールドフットボールアカデミー)に、次のような図を載せている。
X—-x—–x——-x : サッカーの試合
X-X-X-X-X-X-X-X : レベルの高い試合
レイモンドの定義に基づけば、レベルの高い試合とは「プレーごとの爆発力が大きく、さらにその頻度が高い試合」ということだ。
Jリーグは爆発的プレーが少ない
この言語化によって、村井チェアマンの1つ目の疑問、「世界のサッカーの水準と、日本の水準のギャップがどこにあるのか」に答えることが可能になる。
Jリーグの多くの試合は、欧州のトップと比べて、「爆発的なアクション」が少ない。それが欧州と違って見える最大の原因だ。もちろん強度が高い試合もあるが(たとえば今季の浦和レッズはその代表例だろう)、欧州に比べるとその数は限られている。
車にたとえたら急発進・急ストップが少なく、60%くらいの出力で安全運転をしている感じなのだ。もっとエンジンの焦げ付きを恐れず、乱暴な運転をしていい。
具体的に言えば攻撃時のスプリントが少なく、守備時のプレッシングが弱いということだ。パスに関してもスピードが遅く、Xではなくxになってしまっている。特に前半は互いに探り合いになって、だらだらした展開になることが多いように思う。
ただし、Jリーグの多くの監督や選手も、当然ながら手を抜いているわけではないだろう。もっと瞬間的に出力を上げて、激しくプレーしなければならないことは十分に理解しているはずだ。
では、なぜ頭ではわかっているのに実行できないのか。答えは、極めてシンプルだ。走り方・体の使い方に、大きな誤解があるからである。
*続きは明日掲載します。