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地図から熊本地震の影響を見る

2016/4/23
SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は熊本地震の概要とその影響を地図から見てみる。

避難者数8万人

地震発生から1週間以上が経過し、止む気配のない余震の中ではあるが、被害の実態が徐々に明らかになってきている。避難者数はやや減少したとはいえ8万人、4万3千世帯で断水、新幹線や高速道路だけでなく、未だ不通の道路も多い。

熊本県内の被害状況(4/22時点)
・避難者数:81,006人
・断水戸数:43,100戸
・道路:全面通行止め60箇所
・九州自動車道:植木~八代間通行止め
・新幹線:博多~新水俣間運転見合わせ

熊本県内の建物被害は1万件

建物被害は熊本県内に集中しており、同県によれば全半壊約3千件、一部損壊と未分類の建物を合わせると約1万件に上る。
 1.建物損壊件数

大手メーカーで工場の生産停止

熊本県内には大手メーカーも多く立地しており、ホンダの二輪車工場、アイシン精機の自動車部品、ソニーのイメージセンサなど重要な工場が被災した。

山崎製パンなどいち早く再開した企業もあるが、多くは稼動再開の目処はたっていない様子である。

また被災工場だけでなく、アイシン精機を始めとする部品メーカーの供給がストップしたことで、全国の自動車工場が生産停止となった。生産再開が決まった工場も多いが、トヨタは2月にも部品供給問題で1週間の生産停止を余儀なくされており、挽回には秋から冬までかかる可能性も指摘されている。
 2.メーカー被災状況

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震源は市街地付近に位置

ではここから熊本県及び九州の全体像と今後の影響についても考えてみたい。

熊本市は九州第3の都市であり、震源地付近に多くの人口が分布している。熊本市だけで73万人、近隣市町村を含むと140万人に上る。震源の深さが浅かったため、大きな被害は熊本市周辺地域で発生している。
 3.人口分布

余震は断層沿いに広く発生

今回の地震は余震発生の多さが特徴の一つといえるだろう。震度1以上の発生件数は750回を超え、その多くは布田川断層帯と日奈久断層帯付近に分布している。

益城町はちょうどその中間に位置しており、被害が大きかったこともうなずける。
 4.断層分布

物流機能が一部停止

現在では少しずつ改善しているようだが、地震直後は物流機能が一部停止し、物資が届けられない状況にあった。市民への支援物資輸送だけでなく、中期的な経済活動にも影響するため、大きな問題である。

図に災害時における緊急輸送道路を示す。九州自動車道を大動脈に、国道3号線などが九州の物流の核となっている。
 5.緊急輸送道路

緊急輸送道路の通行規制

しかし、九州自動車道や中核となる国道が被災により通行止めとなったことで、南北を結ぶ物流に大きな影響を与えた。
現在は解除されている部分も多いが、その他道路においても様々な障害発生が推測される。
 6.地震による通行規制 (1)

トラックターミナルも損傷の恐れ

道路以外にも、重要な物流拠点が震源地付近に多く分布しており、被害を受けた可能性がある。

特にトラックターミナルは多くが内陸にあり、被災した場合は支援物資の輸送や企業活動に支障を来たすことが推測される。なお、港湾では液状化の被害が報告されている。
 7.物流拠点

熊本、鹿児島の製造業に影響

では、こうしたインフラの状況を踏まえて経済活動状況をみてみたい。

市町村別の製造業出荷額をみると、ホンダ工場などのある大津町の出荷額が高く、被害状況によっては熊本県内の経済への大きく影響すると考えられる。

また、物流面では熊本県だけでなく、鹿児島市や宮崎県都城市も熊本経由で輸送していると思われるため、影響は九州南部全体に及ぶ可能性がある。
 8.製造業売上高

観光地は心理的影響が懸念

製造業よりも長期的な影響が懸念されるのが観光業である。

主要な観光地は震源から距離があり、福岡では全く問題がないといわれているように直接の被害はないと思われる。しかし、国内旅行客の自粛、外国人観光客に敬遠される可能性や、新幹線、高速道路不通が熊本以南の観光低迷につながる恐れがある。
 9.宿泊売上高

GWの損失が大きい

具体的に数字をみてみよう。九州地区の2015年における述べ宿泊者数のうち、外国人比率は10%で、中でも福岡は15%と高い。また2014年と比較して69%の増加となるなど、九州の観光業にとって重要な顧客となっているが、熊本、鹿児島方面については当面キャンセルが発生すると予想される。

また、国内旅行者について自粛が回避されたとしても、GWは営業できない施設が多いだろう。2015年実績からすると5月は1~6月において最大の集客機会であり、当該期間の休業や客数減は相当な打撃となる。被害の大きい地域において、復旧が最大の繁忙期である夏季にずれ込めば、さらに損失は拡大する。
 10.宿泊者数

1980年以前の木造住宅が3割

話はそれるが、今回建物被害が大きかった要因の一つに耐震化の遅れが指摘されている。

2013年の調査によると、住宅の耐震化率は全国82%に対し、熊本県は76%と低い。

2008年の竣工年別延べ床面積でも、熊本県では1981年建築基準法改正前の木造家屋が34%、2000年の法改正(地盤調査などが加わった)以前の木造家屋を合わせると64%と高い。

今後同様に耐震化の進んでいない地域は、今回の反省を踏まえ政府や自治体によるさらなる推進策が期待される。
 11.竣工年別床面積

政府補正予算は23億円

以上の被害項目を下記にまとめる。

【熊本県内の被害(資本ストック)】
・民間住宅(1万件):1,000億円以上
・民間資本ストック:(5%被害の場合)6,000億円以上
・道路:(5%被害の場合)1,000億円以上
・その他の社会資本ストック:(5%被害の場合)2,000億円以上

仮に設備資産などの5%が損傷していた場合、熊本県内だけで1兆円以上の被害となる。これに企業の休業や観光業への影響が加わるため、今後政府による大規模な支援が必要になると思われる。

現在、国の予算の予備費から23億円の投入が決まっているが、これは食料や避難生活用品などの費用である。

本格的なインフラ、住宅の復旧は数千億円規模になることが予想される。

日本財団による熊本城修復費用の寄付などが報じられているが、税金及び寄付金だけでは賄うことは難しい規模であり、営業再開後に旅行に行くなど市民による経済的支援策も必要になるだろう。

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