20160402-moneyforward-tsuji

辻庸介CEOが語るクラウドとフィンテックの関係

フィンテックはブームにあらず。マネーフォワードの挑戦

2016/4/4
フィンテックは単なるバズワードなのか。それとも破壊的イノベーションのキーワードなのか。フィンテックの中心的企業とも称されるマネーフォワードCEOの辻庸介氏に、この1年で盛り上がりを見せるフィンテックについて、また、4月21日(木)に主催する「MFクラウド Expo2016」への思いを聞いた。

今フィンテックが注目される理由

──この1年ほどで、金融とテクノロジーを融合した「フィンテック(FinTech)」という言葉をいたるところで耳にするようになりました。今の状況をどのようにご覧になっていますか。ブームに乗ろうという機運があるのでは。

辻:社内に「Fintech研究所」を設けて国内外への情報発信も手がけていますが、2014年に記者向けに行ったフィンテック勉強会の出席者はたった2人だったんですよ(笑)。

我々としては特にブームに乗っているという感じはなく、やるべきことを着実に進めているだけですね。

──なぜ、急に盛り上がってきたのでしょう。

確かに、昨年からの広がり方は予想外に速かったですね。そこには複合的要素があると思います。まず、アメリカでのフィンテック系スタートアップ企業の台頭、日本の成長戦略としてフィンテックが欠かせないという論調。

それから金融機関がフィンテック企業と組めば顧客の利便性を高められるなどのメリットに目を向けはじめ、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開する機運が高まりつつあることなどでしょうか。

当社の例ですと、住信SBIネット銀行が提供するAPIとの公式連携を3月25日に開始しています。住信SBIネット銀行のインターネットバンキングの利用者は、IDやパスワードを預けることなく、自動家計簿・資産管理サービス『マネーフォワード』で銀行の残高情報や入出金履歴などを確認することが可能になりました。

また、4月からはNTTデータのAPIを活用し、静岡銀行のお客様にも同様のサービスを提供することが可能になる予定です。

正直、金融機関との提携はもっと先のことだと思っていました。ただ、ユーザーメリットを考えるととても良い流れだと思います。まだ始まったばかりですし、長い道のりになると思いますが、今までと変わらずユーザー様にとって便利なサービス創りを追究していきたいですね。

金融機関は危機感を抱いている

──金融機関が既存ビジネスを守るために、フィンテックを脅威に感じているところもあるのではないでしょうか。

辻:マイナス金利時代を迎えたこともあり、地方銀行は現在の銀行のあり方に危機感を持っていると感じます。静岡銀行様、山口フィナンシャルグループ様、東邦銀行様とは昨年から資本業務提携をさせていただいており、最近では群馬銀行様、滋賀銀行様とも業務提携をしていますが、私がお話をさせていただく金融機関のトップの方々は先進的な経営者が多く、フィンテックにも大きな関心を示されています。

また、メガバンクもフィンテックにおける様々な取り組みを進めています。三菱東京UFJ銀行は「Fintechチャレンジ」や「MUFG Fintech アクセラレータ」というプログラムを通じて、ベンチャー企業との協業の機会を検討されていますし、みずほ銀行も当社のクラウドサービスとの提携を既に2度発表されています。三井住友銀行も昨年の6月にGMOペイメントゲートウェイと資本業務提携を締結されるなど、メガバンクもかなり速いスピードで着々とフィンテックの取り組みを進めてきています。

各行とも、外部のアイデアを取り入れて革新的で新しい価値を創り出す「オープンイノベーション」の考え方にも前向きです。

社内にフィンテック推進部署を設ける金融機関も増えています。国を挙げての流れは止められませんし、何より欧米に先行され差をつけられていますから、新しい動きへの対応を試行錯誤中なのでしょう。そこを補うのが我々のようなスタートアップの役割だと思っています。

世界トップを狙うには企業だけではダメ

──PayPal、Squareで決済というように、アメリカではフィンテックのサービスがかなり広がっています。香港で開催されたフィンテックの展示会でも、日本企業の存在感はほとんどなかったと聞きます。日本はフィンテック分野で遅れている印象があるのですが。

辻:アメリカのフィンテックは日本よりはるかに先んじています。理由としてはまず、スタートアップ系企業に流れる資金が違う。ベンチャーキャピタルなどからの出資が手厚く、日本の10倍もの資金が流れている。スタートアップ系企業はどうしても多産多死になりますから、新しいサービスが現れては消えながら、前進できる環境にあります。また、これは僕たちの責任でもありますが、起業家の量も質もまだまだアメリカには届いていないかと思います。国内では、優秀な方々の多くはまだまだ大企業で活躍されています。

また、アメリカ人は新しいものを抵抗なく受け入れる国民性も影響しているのでしょうね。日本でも新しいサービスの広がり方は早くなりましたが、受け入れられるかの許容度は異なるかもしれません。

技術的にはどうかというと、確かにアメリカに遅れている分野は多いものの、当社の自動家計簿・資産管理(PFM = Personal Financial Management)サービスはアメリカより進んでいるのではないか、と自負しています。

日本のフィンテック系企業が底上げされ、世界トップの技術を争うには、企業だけががんばっても難しい面がある。既存の金融機関様の協力、法改正や行政の支援などが国を挙げてエコシステムを築いて、海外に対しても競争力を持てるような体制作りが必要です。

toC、toB両方おさえる強み

──日本のフィンテック業界において、マネーフォワードの強みは何でしょうか。

辻:個人向けには、自動家計簿・資産管理サービスを提供し、レシート読み取り機能の精度、対応金融機関の多さなどで差別化することで、3年ほどで利用者350万人を突破しています。ビジネス向けには、クラウド型会計サービスを始め、給与計算ソフト、請求書作成ソフト、経費精算、マイナンバーなどのラインナップを、低価格で提供しています。

共通のコアテクノロジーを活用し、BtoC、BtoBの両方を手がける数少ない企業、ということが最大の強みでしょう。

体制としては社内にスモールチームを作り、権限委譲してスピーディーに意思決定を行うことも特徴です。「お客様だけを見ていると間違わない」を基本に、迷うところは社内でなく「ユーザーに聞きながら、とにかくサービスの開発スピードを意識して」サービスを開発していきます。

ただし、ユーザーの声を聞くだけでは期待値を超えるものは生み出せなくなってしまうので「ユーサーが見たことがないものを目指し、その少し先を行く」ということも意識をしています。

実は新しいサービスへの取り組みも近日リリース予定です。

通常、銀行で融資を受けるには、行員の方との対面での面談を含むさまざまな審査が必要です。一方、EC(電子商取引)サイト、例えばアマゾンが行っている融資サービスでは、EC取引における販売実績や決済データなどを審査基準にしていますし、アメリカでは、既にクラウド会計や請求書のデータを活用したオンラインでの資金調達サービスが立ち上がっています。

マネーフォワードでも様々なプレイヤーの方々と恊働しながら、これまで通常の銀行融資で活用されてこなかった粒度(りゅうど)の高いユーザーデータを、ユーザーの同意のもと、ユーザーのために活用していきたいと考えています。

ただ、マネーフォワードが自ら資金の提供や審査をすることは困難ですので、金融機関様と提携して同様のサービスを提供する予定です。多くの金融機関様が新たなファイナンスモデルに関心を示しており、共同でサービスを提供していければと考えています。

起業時から、当社のサービスを通して日本国内のお金の流れが変わってより世の中が活性化し、新たなチャレンジを生み出しやすい環境作りに貢献したい、という思いがありました。また新しい一歩が踏み出せます。

マネーフォワード代表取締役社長CEO 辻 庸介  京都大学農学部を卒業後、ソニー株式会社に入社。2004年にマネックス証券株式会社へ。2009年ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学。帰国後COO補佐、マーケティング部長を経て、2012年株式会社マネーフォワード設立。マネックスベンチャーズ株式会社 投資委員会委員 新経済連盟幹事

マネーフォワード代表取締役社長CEO 辻 庸介
京都大学農学部を卒業後、ソニー株式会社に入社。2004年にマネックス証券株式会社へ。2009年ペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学。帰国後COO補佐、マーケティング部長を経て、2012年株式会社マネーフォワード設立。マネックスベンチャーズ株式会社 投資委員会委員 新経済連盟幹事

クラウド、フィンテックを盛り上げたい

──昨年は「MFクラウド Expo」という、クラウドサービスでは最大規模のイベントを開催されました。2回目の今回は、クラウドだけでなく、フィンテックも大きなテーマですね。

辻:こうした大型イベントを一企業、しかもスタートアップ企業が主催するのは珍しく、かなりチャレンジングなことですが、開催するのには理由があります。世の中に素晴らしいクラウドサービスはたくさんあります。企業にとって、そのような素晴らしいサービス、カスタマーサポート、マーケティング、社内コミュニケーションなどクラウドサービスを使いこなすと生産性は劇的に向上するはずです。一方、経営者は常によいサービスを求めていながら、両者はなかなか出合えません。

効率よく情報収集してもらう、せっかく足を運ぶなら勉強、交流ができる場にしたい。そんな思いで昨年から始めました。

クラウドのあらゆるデータをもとに、我々でいうと決済や融資といったサービスが生まれるように、クラウドとフィンテックは相性がいい。今年のテーマとして、フィンテックを掲げたのは、われわれがフィンテック業界全体を盛り上げていくべきだという決意の表れでもあります。

昨年は、基調講演で堀江貴文さんと大前研一さんにきていただき、大好評でした。今年は、基調講演では、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏に「日本経済の行方とフィンテック革命~フィンテックが経済に与える衝撃とは~」というテーマでお話しいただきます。

福岡市長やマネックス社長も登壇

辻:一日を通して、我々のメインユーザーである中小企業の経営者の皆様はもちろん、大企業や金融機関、士業の方にも学びや気づきを感じていただけるに違いないと思っています。

午前は「自ら時代を創る『意思』を持つ~10年後に差がつく経営術~」と題して、福岡市の高島宗一郎市長やメタップスの佐藤航陽代表、クラウドワークス吉田社長、V-cube間下社長など、若手アントレプレナーに登場いただきます。私がモデレーターとなり、リスクをとる、叩かれても道を切り開いていらっしゃる若手リーダーに「時代の作り方」を探ります。

夕方の特別講演のテーマは「No.2では生き残れない。No.1企業の作り方」。登壇していただくアスクル岩田彰一郎社長、マネックスグループ松本大社長、C Channel森川亮社長に共通するのは、すさまじい成功経営者という点です。現場で長年活躍し、結果を出し続けられている経営者の方々ですので他では聞けないような貴重なお話が聞けると私自身も楽しみにしております。

マネックスの松本氏は、部下だった時代から高い志に引かれた尊敬する経営者です。マネーフォワードの社外取締役でもある森川氏はものごとの本質を見極める経営者。前職のLINEもユーザー目線で課題にきっちりと向き合ってグローバルで通用するLINEというサービスを作り上げられました。岩田氏とは3月に業務提携を発表したばかりのビジネスパートナーでもあります。

「お客様一番」を掲げる企業は多いものの、それが本当にできているかにはばらつきがあります。世の中に出ている話で終わらせるのでなく、実際の企業で「臨床」まで行う実践型の専門家である兵庫県立大学教授、川上 昌直先生のモデレートで、もうひと掘り、ふた掘りしていただける予定です。

午後に会場を分けて行われるセミナーも昨年の18から26(予定)に増やします。それぞれどれも見どころのあるセミナーですので、どこに参加するか迷うほどです。

会場には展示ブースを設け、クラウド、フィンテック企業の情報が効率的にキャッチできます。時間のない人ほど足を運んでいただき、講演やセミナー、ブースから効率的に情報を得て、ビジネスに活かして頂ければ本当にうれしいです。

(聞き手:久川桃子 編集:阿部祐子 撮影:下屋敷和文)

MFクラウド Expo 2016
 クラウド化する中小企業経営とフィンテックがもたらす変革
 〜スペシャルゲストと共に、変化する経営とフィンテックの全貌をご紹介〜

・開催日時:2016年4月21日(木)10:00~19:30 (開場9:00)
 ・場所:ウェスティンホテル東京
 
大盛況のうちに終了しました。
イベントの一部を以下でリポートしております。
パネルディスカッション:ディスラプター4社の創業者が語る「固定観念の壊し方」
講演:フィンテック専門家の提言。「幻滅期の後にヒットは生まれる」