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評価散々。『バットマン vs スーパーマン』はどこがダメか

2016/4/3
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『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』3月25日(金)公開
解説
バットマンとスーパーマン、世紀の対決が幕を明ける──。真面目な新聞記者クラーク・ケントのもう一つの顔は、地球を守るスーパーマン。彼は周囲に危害が及ぶことを恐れ、ヒーローであることをひた隠しに戦ってきた。しかし、彼の超人的な能力はときに街をも崩壊させてしまう程のもので「過大な力は害をもたらす」と周囲から恐れられていく。そんな折、スーパーマンの強大な力を止めるべく、一人の男ブルース・ウェインが立ち上がった。高級車でパーティーに繰り出しては美女と騒ぐ彼の正体は、正義の男バットマン。彼はスーパーマンを倒す唯一の切り札として、人類の希望を託されることに。超人的なスーパーマンと最強の人間バットマン。その勝敗やいかに──。

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最後の最後で興ざめ

エンターテインメントとしては非常にいい出来栄え。何よりCGがスゴい。ゴッサムシティやメトロポリスの奥行きのある暗い背景も映画館の大画面で観ると、美しく、そして迫力がある。

一方で、ストーリーは陳腐で既視感がある。今まであったようなヒーローもののストーリーが複数組み合わさっている感じ。

しかも、最後の最後でどう見てもそんなに強くなさそうなメタヒューマンが現れるのが興ざめ。

しかし、そのメタヒューマンがこの後のストーリーを展開していくらしい。

あくまでもテーマパークのショーを観る感じで観ると気分転換にいいかも。残るものは何一つない。

(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

 ns_1.5

ステーキと寿司を一緒に食べたらまずかった

久しぶりに「金返せ」と言いたくなった(ちなみに筆者はすべての映画を自腹で観賞している)。

クリストファー・ノーランによる『バットマン・ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト・ライジング』のバットマン3部作をこよなく愛する一人として、ずっと楽しみにしていた作品だった。

ノーランは、本作のエグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねているが、その関わりはかなり浅いのではないか。そう思わざるを得ないほど、何にも心に残らない作品だった。彼が監督なら、こんな駄作にならなかったはずだ。

まずもって、ストーリーがわかりにくい。

私のように、バットマン3部作、『マン・オブ・スティール』(スーパーマンの前作)を観ている人間でも、話がなかなか理解できない。バットマンとスーパーマンという二大スターを掛けあわせたら、「1+1が2」になるかと思いきや、0.1ぐらいになってしまっている。

しかもアクションがアニメじみていて陳腐だ。

バットマンシリーズは、『ダークナイト・ライジング』の冒頭のシーンに代表されるように、SFっぽくない、リアルなアクションがウリだった。

しかし、スーパーマンが人間離れしすぎて(実際、人間ではないが)、SFとリアルがゴチャゴチャになっている。

マーケティング上、ウケがいいのはわかるが、本作のような、SFじみたヒーローものの作品はもうお腹いっぱいだ。

そして、極めつけは、ベン・アフレックのバットマン役の色気のなさ。マスク姿が全然カッコよくない。彼には、「ゴーン・ガール」の夫役のような、情けない役のほうが似合う。

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 o_3.5

ヒーローものにも「鑑賞の作法」がある

幼少期の私はウルトラマンが怪獣と戦いながらビルを壊すのを見て、「中にいる人死んでない?」と、得意気に指摘する可愛くない子供でした。

そんな私も大人になり「文楽では黒子はいないものとして鑑賞する」というような「お作法」を学ぶにつけ、幼少期の指摘はむしろ野暮だったなと思うに至りました。ヒーローものにも「鑑賞の作法」があるので。

ウルトラマンが変身した後、(3分以内だけど)ビル内の人は避難したに違いない! 地球防衛! ウルトラマンありがとう! と。

私はアメコミ原作でも基本的にこの「お作法」での鑑賞が有効だと考えていました。そこへ楔を打ち込んできたのが、本作の制作総指揮者クリストファー・ノーランです。

2008年公開のノーラン監督作のバットマン『ダークナイト』はここ10年で最も印象に残っている映画の1つです。特に悪役ジョーカーにはある種の畏怖を感じました。

どんな悪人にもトラウマがあり…という「ハリウッドのお決まりパターン」を拒否した「共感できない悪」の描き方は、「安易なトラウマ語りでストーリーを作ること」に辟易していた私には新鮮でした。

本作もアメコミ原作をダークな色調とリアリティのある設定に変換する「ノーラン節」作品。スーパーマンが宇宙人との闘いで破壊したビル内にも「人」がいます。

事実、バットマンが「昼間」に経営する会社の社員もこの被害により下肢切断を余儀なくされています。

スーパーマンは地球防衛のために宇宙人と戦ったのに、被害者に恨まれてしまう。またその圧倒的な力ゆえに、救世主と崇める人々がいる一方で、不安を喚起し、集団ヒステリー状態も作り出してしまう。

この辺りは「世界の警察」を自任するアメリカの、「正義だと思った行為」がある種の不安や軋轢を生じさせてしまう姿と重なります。

ただ、一見単純に見えるアメコミを通して「複雑な世界」を描き出すというノーランの手法は、今回「要素」が多過ぎて、『ダークナイト』ほどの成功を収めているとは思えませんでした。『ダークナイト』の時はきれいに投げていた2つのお手玉が、今回4つになり、ボトボト落ちてしまったというか。

また、そこまで複雑にからみ合ったストーリーの最後は、巨大な怪物にヒーローたちが一致団結して戦うという単純な結末。このエンディングを観て、私はSF好きで知られたレーガン大統領のある演説を思い出しました。

「恐らく我々が世界規模で共通の結束を得るには、外敵(宇宙人)が必要になるだろう」

そもそもここを「着地点」にしてしまうなら、「複雑な社会」を描く意味はあまりなくなってしまうのでは? そう感じました。

たぶん、「スーパーマンとバットマンの対決」、「最後のヒーロー団結の戦闘シーン」はスポンサーサイドからの「大人の事情」でマストだったのだと推察しますが。

「ノーラン節の維持」と「興業的要請」の折り合いに苦慮した作品と好意的に解釈し、次回作に期待したいと思います。

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キャラクターに魅力や共感を感じない

中学生のとき、初めて観たクリストファー・リーブ演じるスーパーマン。目を見張るような戦闘シーンはないけれど、クラーク・ケントの誠実で温かい人格と、ロイス・レインとのロマンスが素敵で、そんなクラーク・ケントが超人的なパワーを持つスーパーマンに変身するという設定に、とにかくときめきとワクワクを覚えて、何度もVHSのテープを再生したものでした。

一方、バットマン映画で一番好きだったのは、クリスチャン・ベールの『バットマン・ビギンズ』。それまでSFアクション映画的だったシリーズから一転、人としてのブルース・ウェインの人生に焦点を当てた濃厚なヒューマンドラマであったことに驚きと感動を覚え、ヒーロー映画の常識を完全に揺さぶられる体験をしたことを覚えています。

映画館を出るとき、そんな過去の作品や、『ウルトラマン』や『ゴジラ』など他の作品を思い出しながら私が痛感したのは、たとえスーパーヒーローものであっても、彼らの超人力やパワーのすごさより、彼らの内面、つまりキャラクターの魅力が物語の魅力に比例するということでした(よく考えれば、それってビジネスでも同じですね)。

本映画についていうと、スーパーマンについてもバットマンについても、そのキャラクターに魅力や共感を感じることが難しく、私はどうしても物語に乗れませんでした。

ベン・アフレック演じるバットマンはなぜか世界に失望し、やさぐれてしまっているし、スーパーマンは有事に対する責任感はあり、母親とロイス・レインを愛していることはわかるけれど、それ以外は淡々としたスタンス。悪役レックス・ルーサーに至っては、結局何を目的にしているのかが最後まで分からず、「?」ばかりが残りました。

きっと今回はそれよりも、9.11を思わせるビル倒壊シーンに端を発する、「スーパーマンの正義」vs「バットマンの正義」の対立構造を描き、その対立を乗り越えて共に目指す正義を見つける、というテーマを描きたかったのだろうと思うのですが、ここも脚本が雑すぎてうまくその構造を紡げていないように思いました。

まるでお互いに存在を気にしているガキ大将2人が、ちょっとした私情と誤解から成り行き上のケンカを始め、びっくりするような小さなことで、やっぱ仲直りしたほうがいいよね、となり、とりあえず目の前の敵を倒さなきゃ、となる──。

題名にある「バットマン vs スーパーマン」の対決が、本来意図していないであろう、そんな場当たり的かつ子どもっぽいものに見えてしまうのは、2つのキャラクターのファンとしては残念でたまりません。

個人的には、最近のハリウッドの迫力ある映像制作力を目の当たりにできたことと、ダイアン・レイン、ジェレミー・アイアンズ、ローレンス・フィッシュバーン、ホリー・ハンター、ケビン・コスナーなど、脇を固める豪華役者陣たちの登場にほくそ笑むことができたことが収穫でした。

ちなみにこの映画はスーパーマン『マン・オブ・スティール』の続編的位置づけとのことです。これからご覧になる方は、そちらの事前鑑賞をお勧めします。

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(デザイン:福田滉平)