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自律型ロボットを数年内に市場化できるか否か

グーグルがボストン・ダイナミクス売却を決めた本当の理由

2016/03/24

3週間前にユーチューブにアップされて世界中の人々を震撼(しんかん)させ、今日まで1500万近いビューを得たボストン・ダイナミクスの新型アトラスのビデオ。このコラムでも、本当はどれほど自律的に動いているのかを論じたところだった。

このビデオで驚いた以上の驚きが待っていた。何と、アルファベット(旧グーグル)がこのボストン・ダイナミクスを売却する予定という。どうもこのビデオが公開されたときにはすでに、売却が決まっていたのだろうと思われる。

ボストン・ダイナミクスは、2013年にグーグルが立て続けに買収したロボット会社8社のうちのひとつだ。それまで軍事用ロボット技術を開発してきただけあって、同社のロボットは頑強で、屋外でも作動し、まるで人間や動物のように動くのが特徴だった。

素人目から見ると、われわれが胸に抱く「ロボット」というイメージに最も近く、グーグルからこんな歩行するロボットが出てくるんだなあ、一体どんなことをしてくれるのだろう、などと考えていたのだった。

ところが、外部に漏れたアルファベットのロボットグループ内のフォーラムのやりとりによると、ボストン・ダイナミクスのロボットはもっとも実用化に遠いものとみなされたようである。したがって、現在のアルファベットの開発やビジネスの展望からは外れてしまった模様だ。

高額なロボットを誰が買うのか

この場合、実用化というのは数年先に市場で製品として売れているような、という意味だ。ビデオを見ていると、箱を持ち上げて棚に上げたりできるから、倉庫での作業も可能だろうし、歩いていって何かを届けてくれるといったこともできるだろうと希望的に感じたはずだ。

だが、これも素人目でしかない。

まず値段を挙げよう。旧型の大きなサイズのアトラスは、作るだけで100万ドルと言われていた。これに儲けを上乗せすると、いったいいくらになるのか。こんな高いロボットを誰が買うだろうか。

製造方法も問題だ。同社のロボットはすべて手づくりなので、完成するまでに時間がかかる。単なる移動式ロボットではないため、内部の機械は気が遠くなるほど複雑だ。それに、ロボットは組み立てれば終わりではなく、そこからソフトウェアを搭載して延々とテストしなければならない。

テストして納品したとしよう。ところが、ロボットはすぐに具合が悪くなるので、ほぼ付きっきりのサポートや開発者が現場で必要となる。

つまり、いくらスタスタ歩くロボットができたとしても、市場化はまた別問題だということだ。

内部記録では、ローコストの4本足のロボットを作るという案が出されたようだが、ボストン・ダイナミクスがこれに抵抗を示した形跡がある。すぐにローコスト化など不可能ということなのだろう。

要はまだ研究環境で揺籃(ようらん)期にある先端技術なのである。そうした先端技術を育むのがアルファベットかと思っていたが、ことはそれほど単純ではなく、ここへ来て株主の利益が取りざたされているようだ。

次に売却されるロボット会社はどこか

こうして考えると、グーグルが買収した他のロボット会社はもっと商用化に近い技術を持っていたとも考えられる。

そもそも人間や動物のような「全身」を持つロボットを開発していたのは、ボストン・ダイナミクスと日本のシャフトだけで、他社は上半身だけだったりアームだけだったり車輪だけだったりする。

また、そのアームも自社で開発するのではなく、既存の産業用ロボットアームにコンピュータービジョン技術をうまく組み合わせたもの、ソフトウェアの制御の方法を変えたものなど、どちらかというとソフトウェア面のアプローチがユニークだった会社だ。

そうすると、ふと頭の片隅で心配になるのがシャフトだ。グーグルが買収した会社をざっくり分類してみると、シャフトはどこまでもボストン・ダイナミクスに近い。歩行やバランス技術、ヒューマノイド型、研究出身であること、そしてシリコンバレーから離れていること。

ハードウェアが苦手なグーグルが、ロボットだけでなく、ロボット開発者の才能を見分けて未来へつなげてほしいと思うばかりだ。