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福島原発でも活躍した戦車型ロボット

株主の要求か。アイロボット社が軍事部門を売却した理由

2016/2/25

アイロボットが、軍事部門を売却したという。

アイロボットといえば、お掃除ロボットのルンバを生んだ会社である。家庭向けロボットを開発、製造、販売して成功を収めた初めての会社として、アイロボットはロボット業界の星である。

ただ、その家庭向けロボットの成功は、軍事用ロボットの開発に支えられてきた。それを切り離すということは、ロボット関係者にとっては感慨深いできごとでもある。

同社にはこれまで3部門があり、ひとつは家庭向けロボット、もうひとつはビジネス向けロボット、そして3つめが軍事向けロボットだった。ビジネス向けロボットは主にテレプレゼンス・ロボット、つまり可動式会議システムが中心だ。

1990年に同社を創設したのは3人のマサチューセッツ工科大学(MIT)出身者で、そのひとりはロドニー・ブルックス。世界的に知られるロボット学者で、あとの2人は教え子だった。3人は、広く有用なロボットをつくることを目標に起業したのだが、それは簡単ではなかった。

当時のコンピューターやロボット部品の価格は、今とは比べ物にならない。何を作っても高価になる。最初の5年間は、給料支払い日に銀行に残高が残っていたことはないと、少し前に創設者のひとりであるヘレン・グレイナー氏に聞いたことがある。

そして、同社が最終的に試したビジネスモデルは何と16もあり、成功したのはそのうち2つだという。私も確かルンバが生まれる前に同社を訪ねて行ったことがあったが、その頃はおしゃべりする赤ちゃん人形を作っていたように覚えている。

予算潤沢な軍事向けで技術開発

さて、その成功したビジネスモデルのひとつはルンバ、そしてもうひとつが軍事用のロボット、ことにパックボットという可動式の小さな戦車型ロボットだ。

アイロボットは、一方で家庭向けロボットをいろいろ試作しながら、その開発費や社員の給料はパックボットなどを開発、販売することでまかなってきたのだ。

パックボットは、可動式のベースの上に長く伸びるカメラがついており、最近の機種はモノをつかむマニピュレーションも付いている。戦場では偵察用に使われたりするが、そうでないところでも危険物を除去したりするのにも利用されている。9.11の現場では生存者を捜し、福島原発事故直後には原子炉建屋の中に入った。

軍事向けロボット部門の売却は、株主からの圧力があったためというニュースが伝わっている。アフガニスタンやイラク戦争が終わった後、同部門は売り上げの伸びが落ちていた。戦場では投げ込んで偵察させるような、ごく小さなロボットが出てきたことなども競合しただろう。

アイロボットは軍事向けとはいえ、自律武器のようなものは開発していないので、それなりのポリシーがあったのだと想像される。それに、ロボット会社としては、これまで軍事向け部門があったことは開発上、効果的な循環を生み出していたと思う。予算が潤沢な軍事向け部門で先端テクノロジーを用いてロボットを開発し、その技術をいずれ家庭用ロボットに導入するという循環だ。

ロボット技術を愛するロボット研究者の会社

それがなくなった後、アイロボットがどう変貌していくのかは興味深い。ルンバの最新型980は、インターネットに接続するIoT化しており、このあたりが同社の次のステップになるはずだ。

それにしても、上記の株主は同社に役員を2人も送り込もうと、プロキシーファイトをちらつかせて再び圧力をかけているようだ。

公開企業なので利益優先の株主のこうした動きは致し方ないだろう。だが、アイロボットは世界で1400万台の家庭用ロボットを売った今でも、純粋にロボット技術を愛するロボット研究者の会社である。ロボットは今、大切な時期。他の株主が、長期的な視野でロボット会社を育もうとする人々であるのを願うばかりだ。

(写真:iRobot)

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。