国際裁判管轄の企業間合意、初の無効判断 アップル訴訟、国内審理へ 東京地裁
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注目のコメント
(若干加筆修正。)
・国際裁判管轄合意の有効性については昭和50年11月28日の最高裁判決(チサダネ号事件判決)がある。
・チサダネ号事件判決では、船荷証券に薄字で書かれた「この運送契約による一切の訴は、アムステルダムにおける裁判所に提起されるべきものとし・・・その他のいかなる訴に関しても、他の裁判所は管轄権を持つことができないものとする。」という、かなり包括的な国際専属管轄合意の有効性が認められている(批判もあるが・・・。)。
・その際の最高裁のロジックは、「管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反するとき等の場合は格別、原則として有効と認めるべきである。」というもの。
・「はなはだしく不合理で公序法に違反するとき」だけ、国際専属管轄合意の効力が否定されるとあるが、これは極めて例外的で実務上のハードルは極めて高い。
・ところが、本記事をみるに、今回東京地裁は、上記例外のハードルを回避するロジックとして、そもそも合意の対象が広すぎるから、合意自体無効ということで、最高裁のロジックの検討に入る前の入り口の時点で、島野側の主張を認めた。
・これは結構びっくりだけど、それだけ、アップルの調達契約が一方的にこれでもかというくらいアップル側に有利にできていたんだろう。
・おそらく「本調達契約に起因し又はこれに関連して生じた紛争の一切は、米国カリフォルニア州の連邦裁判所の専属管轄に属するものとする」という通常の内容程度に定めておけば、有効性が否定されることはなかったはず。
・アップル側がやりすぎた結果、足元をすくわれてしまったという図式か?
・ただし、上記のとおり、今回の東京地裁の判断は、最高裁判例のロジックを迂回するものなので、今後、東京地裁の本案判決が出た後に、高裁・最高裁で維持されるかどうかは要注目。
・なお、本記事を読む限り、優越的地位の濫用ゆえに、管轄合意が無効というのは、島野側の主張にすぎないか。
<追記>
・Matsumoto Shinsukeさん(松本真輔先生?)のご指摘を受けて気がついたが、国際裁判管轄については、民訴法3条の7第2項で、管轄合意は「一定の法律関係」に関したものでなければダメと規定されている。
・契約書の文言次第なので詳細はわからないが、本件は、これを素直に適用できるケースだったのかもしれない。こんな言い方をするとなんですが、島野製作所には勝って欲しいだけに少し前向きな展開になったのは歓迎したい。判決ではないですよ、審理をする場所がカリフォルニアではなく、日本で妥当という判断がされただけ、という話。まだまだ先は長い。
アップルのやり方はフェアではない。桁違いの利益の裏には沢山のサプライヤーの涙と血と汗と屍がある。
カリフォルニアで審理するか、日本で審理するかではサプライヤーにとっては大きく影響あるだろう。
特に中小企業であれば、いちいち裁判のたびにアメリカのお高い企業弁護士に大金を払い続けるか?とか、資料の和訳/英訳などの労力たるや計り知れず、普通は泣き寝入りを余儀なくされると思われる。三星のようにサンノゼの裁判所で激しくアップルとやりあえる企業はそうは多くない。
アップルに恨みがあるわけではないが、年間で何億円も何十億円もお買い物する上得意様が求めてくる契約書、圧力に負け、サプライヤーがサインしてしまってるケースは結構多いのではないだろうか。そのようなアップルの企業としての暗部/闇の部分はもっと知られても良いのではないだろうか。
追記
本職の法務や弁護士の方の見解が聞けて非常に有意義な記事です。NP冥利に尽きます。管轄の合意については民事訴訟法3条の7第2項に規定があり、「一定の法律関係に基づく訴えに関」するものでなければ効力を生じないとされている。これについては、一般的に将来当事者間に起こる紛争についての一切の訴訟などといったものは無効と解されている。記事を読む限り、東京地裁の判断はこの通説的な見解に従ったに過ぎないように思われる。通常の契約では「本契約に関する一切の紛争」という形で限定を付けているが、それまで無効にする趣旨ではなさそうので、実務への影響はそれ程大きくないのではないか。
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