楽天のボールパークビジネス(3回)
球場に観覧車や砂浜、動物園出現。1日中楽しめるテーマパーク化
2016/2/15
総工費30億円をかけて行われている本拠地・楽天Koboスタジアム宮城の改修工事で、天然芝化と並ぶ目玉の一つが、左中間後方に設置される観覧車だ。5月の完成予定だが、一つ率直な疑問が浮かぶ。
なぜ、野球場に観覧車がつくられるのだろうか。
球場の観覧車はランドマーク
その目的について、東北楽天ゴールデンイーグルスの川田喜則スタジアム部長はこう語る。
「ハードとソフト面を合わせて、“楽しいボールパーク”というコンセプトでやっています。みなさんに『なんで観覧車?』と思ってもらえるだけでも、気にかけてもらっているわけですよね。インパクトがあるし、球場の象徴になればと思います」
もちろん、ただの話題づくりではない。Koboスタは仙台駅から徒歩20分ほどの距離にあり、東北新幹線から見ることもできる。そうした立地にあるスタジアムを、杜の都のシンボルに相応しいものにしようと考えているのだ。
「Koboスタというボールパークの中で、観覧車は目立つランドマークになると思います。観覧車に乗りながら試合を見られるのは、ほかの球場ではなかなか提供できるバリューではありません」
観覧車が持つもう一つの役割
より魅力的なボールパークとするべく、観覧車以外にジェットコースター、メリーゴーランドの建設も検討された。「ホテルをつくって、バルコニーから観戦できるようにしたら面白いのでは?」という声もあったという。
その中から観覧車に決まったのは、明確な目的がある。
「観覧車にLED照明をつけて、ホームランを打ったらきれいに光ったり、選手の登場に合わせての演出も考えています。観覧車のあるエリアだけでなく、球場全体を楽しませる効果も含めてチョイスしました」
子どもから大人まで満足の空間
イーグルスは球団創設以来、コアな野球ファンだけでなく、ライト層や野球に関心のない人にも楽しんでもらおうと取り組んできた。
その根幹にあるのが、いわゆる「ボールパーク」の概念だ。スタジアムだけでなく、外周を含めた一つのエンターテインメント施設として、イーグルスはボールパークと考えている。
宮城野原公園総合運動場の中にあるKoboスタは、周囲にある広大な敷地が特徴だ。イーグルスはこの立地を生かし、多彩なイベントや企画を実施している。
たとえば、昨年7月下旬から1カ月ほど実施された「夏スタ!2015」ではスタジアム正面広場にビーチやプールを設置し、ハワイアンマーケットで地元フードやハワイアンテイストの球団グッズを発売した。最終日に配布されたスクラッチでは4組8名にハワイ旅行が当たるほど、熱の入れようだった。
そのほかでは、遊園地にあるような小型列車「イーグルストレイン」を走らせたり、那須どうぶつ王国のペンギンやカピバラを呼んで移動動物園を開催するなど、野球場の概念を超えた本格イベントが行なわれている。大人のファンが楽しめるよう、ビール100銘柄を集めた「世界のビールと肉祭り」などの企画もある。
いつも面白いことをやっている
こうして球場外での仕掛けを充実させていったこともあり、客足が確実に伸びてきた。
パ・リーグ6球団が出資するパシフィックリーグ・マーケティングのアンケートによると、来場動機としてイベント(プレゼントなし)を挙げたファンはイーグスがリーグで最も多かった。それは何より球団の取り組みが実を結んできている証拠だと、川田氏は考えている。
「野球を3時間楽しむだけでなく、試合前の2時間、試合中の3時間、さらに帰りがけにも楽しめるように考えて、各シリーズを開催しています。スタジアムに早く行って楽しむという考え方はあまりなかったかもしれませんが、Koboスタに行ったら1日中楽しめるようにしたいと思っています」
「それはテーマパークと一緒の考え方ですね。『今日はどんなイベントをやっているかわからないけど、楽天イーグルスの球場に行けば、何か面白いことをやっている。家族で1日楽しめるよね』というのが浸透して、来場結果につながっていると思います」
買い物でWin-Winの関係
このオフ、取材でKoboスタを訪れて驚かされたことがある。球場外周にあるグッズショップの規模が、とても大きいのだ。
高い天井は2階まで吹き抜けで、物理的に広さを感じさせるデザインとなっている。さらに、マフラータオルは在籍する全選手のバージョンをとりそろえるなど商品ラインナップが充実しており、視覚的にもファンは開放的な気分になるだろう。
サッカーの欧州名門クラブはこのような「メガストア」を本拠地に持っているが、たとえばセルティック(スコットランド)のそれに勝るとも劣らないほどの規模感だ。
ディズニーランドに訪れる客にとって買い物が一つの楽しみであるのと同様、イーグルスファンは試合後、グッズショップに長く滞在していくという。
球団サイドに立てば物販は収益における重要な要素であり、ここを強化するのは当然の施策だ。加えてファンの満足度が高まれば、互いにとって幸福な関係となる。
今江の息子の“後押し”
さらに言えば、その波及効果は選手にも及んでいる。
今オフにフリーエージェント(FA)でロッテから加入した今江敏晃は、入団決定後、仙台の球団事務所を訪れて職員たちの前でこう話した。
「うちの子どもから、『楽天はグッズがたくさんあるから、移籍してもいいと思うよ』と言われました(笑)」
もちろん移籍を決めるうえで、重要な条件がたくさんあったはずだ。だが、子どもが納得して新天地に移るのと、そうでないのとでは家族の生活にとって大きく違ってくる。
大げさに言えば、こうしてグッズやイベントの充実をどう考え、実現させていくかという姿勢から、球団の文化はつくられるのだ。その評判が元ロッテ選手の息子にも届いているということは、楽天の球団運営がいい方向に進んでいる証だろう。
(写真:©Rakuten Eagles)