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楽天のボールパークビジネス(4回)

最下位でも観客は過去最多。人を呼べる秘密は「バーチャル組織」

2016/2/28

たった2人の最小組織

2013年のパ・リーグ優勝と初の日本一という輝かしい成績から一転、東北楽天ゴールデンイーグルスは翌年の2014年と2015年、まるであのときの強さが嘘だったかのように、2年連続で最下位に沈んだ。

しかし、低迷するチームとは裏腹にファンは増えている。観客動員数は2015年に年間150万人を突破、過去最多を更新した。勝てなくても応援したくなるチーム、足を運びたくなるホームスタジアム──。それを楽天はつくりあげた。

なぜ、勝敗に左右されずにファンを呼び込める球団になれたのか。そこには、たった2人しか専任スタッフがいない最小組織の存在があった。

ボールパーク構想の黒子

楽天が進める「ボールパーク構想」。スタジアムをテーマパーク化し、野球観戦やスタジアムはあくまで一つの要素として位置付け、近隣の施設や広場、スタジアム内で開催するイベントを含めて人を呼び込む取り組みだ。これが観客動員数の増加に大きく貢献した(詳細は本連載の第3回を参照)。

「楽天Koboスタジアム宮城」では野球観戦だけでなく近隣でイベントも開催。野球だけではない楽しみの提供にも積極的だ

「楽天Koboスタジアム宮城」では野球観戦だけでなく近隣でイベントも開催。野球だけではない楽しみの提供にも積極的だ

この構想のもと、イベントの企画立案・実施を中心に、観客動員数を増やすことに専任で取り組むのが運営母体、楽天野球団の「動員企画グループ」という組織だ。

年間に幾多のイベントの企画や実施、パンフレットの制作、観客動員数の予測など、仕事は多岐にわたるが、メンバーはたった2人。それどころか、2015年の夏まではこのグループのマネージャーを務める松本有しか専任スタッフがいなかったという。

たった2人で何ができるのか。「楽天Koboスタジアム宮城」に隣接する楽天野球団を訪れた。

総額100億円以上をつぎ込んで毎年改装を重ねる「楽天koboスタジアム宮城」

総額100億円以上をつぎ込んで毎年改装を重ねる「楽天koboスタジアム宮城」

バーチャル組織による全社会議

動員企画グループが毎週1回開催する定例会議「動員企画ミーティング」。ここには松本ともう1人の専任スタッフでないメンバーが続々と会議室に入ってくる。

その数は15〜20人。従業員数128人(2015年4月時点)であることをみれば、かなりの出席率だろう。このミーティングこそが、観客動員数の最多更新を下支えしている会合だった。

動員企画ミーティングには動員企画グループほか、違う業務に従事している他部門のスタッフが参加。楽天野球団には主に「営業」「チケット」「ファンクラブ」「グッズ」「スクール」「スタジアム」「PR」「総務・経理」といった8つの部門が存在するが、この全部門のスタッフが“ボランティア”で集まる。

参加するための条件はない。「役職、部門を問わず、参加したい人が集まればいいというルール」(松本マネージャー)だという。

ここで、観客動員数を増やすためのあらゆるアイデアを松本が吸収する。どんなイベントが求められているのか、ファンクラブ会員の不満は何か、どんなグッズをプレゼントすればファンは足を運んでくれるのか、メディアが取り扱いやすい企画は何か……。

「普段は異なる仕事をしているメンバーが集まるからこそ、私では思いつかないアイデアが生まれやすくなる」。それが松本が大事にしている信条だ。松本は、とにかくこれまでにない発想の意見をスタッフが出しやすいような雰囲気をつくり、参加メンバーが固定化しないようにすることを徹底、潤滑油に徹している。

会議に参加したり、発案した意見が通ったりすれば特別な手当てがあるわけでもなく、それがダイレクトに給与や賞与に反映されるわけでもない。それでも動員企画ミーティングがスタートしてからほぼ毎回、異なる部門のメンバーが集まる。

「観客はすべての商品やサービスを伸ばすための源。それだけに、普段はそれぞれの仕事に集中している各部門のメンバーでも、他人事とは思わず率先して集まる文化ができた」

動員企画ミーティングを仕切る松本有マネージャー(中央)。観客動員数を増やすために必要なアイデアをこの場で吸収する

動員企画ミーティングを仕切る松本有マネージャー(中央)。観客動員数を増やすために必要なアイデアをこの場で吸収する

成功例はユニークなイベント

動員企画ミーティングはもともと、観客動員数を増やすにはどうすればいいか、という問題意識のもと最初は有志数人で3〜4年前に始まった。

そこから徐々にメンバーが増え、効果が出始めたことで、2年ほど前から動員企画グループとして経費予算をもらえることに。今では約2億円を宣伝やイベント開催、パンフレットなどの制作にあてることができるようになった。

昨年は特にイベントに力を注ぎ、中でも昨年6月下旬から7月上旬にかけてスタジアム近くで開催した「世界のビールと肉まつり」や、筋骨隆々の男性が店員となったコーヒー店「マッチョカフェ」は大ヒット。野球ファン以外の人を取り込むことに成功した。

イーグルスは大小合わせれば数え切れないくらいのイベントを開催。家族連れやカップルを楽しませることができるようバラエティに富んだイベント企画している。写真は昨夏に開いたヒットイベント「世界のビールと肉まつり」

イーグルスは大小合わせれば数え切れないくらいのイベントを開催。家族連れやカップルを楽しませることができるようバラエティに富んだイベント企画している。写真は昨夏に開いたヒットイベント「世界のビールと肉まつり」

7月11日には3000発の花火を試合終了後に打ち上げる大花火大会を実施。午後2時30分から試合開始、5時前後に試合は終わったものの、7時30分からの花火大会開始までほぼすべての観客が待ち、約1万5000人がこの花火を楽しんだという。これらのイベントには、「若いスタッフや女性のアイデアがベースになっている」(松本マネージャー)という。

昨年7月に開催した大花火大会。試合が終わって約2時間半後にスターしたにもかかわらず、多くの観客が残り3000発の花火を楽しんだという

昨年7月に開催した大花火大会。試合が終わって約2時間半後にスターしたにもかかわらず、多くの観客が残り3000発の花火を楽しんだという

目標は最多更新の170万人

動員企画グループが設定した2016年の観客動員数の目標は170万人。前年よりも約10万人上回る人数だ。

「正直に言って、これをやれば目標を達成することができるなんていえるプランは持っていない。それでも全スタッフの知恵やアイデアを借りれば、『これをやったらファンが喜んでくれるだろうな』というプランはたくさん出てくる。同じ運用をしていては発展性がないので、今年もみんなが意見を出しやすい、協力してもらいやすいようにどうしていくか、手探りでやっていく」

どんな組織でもある程度の人数になり、部門が複数できると、風通しの悪い縦割りの雰囲気ができあがる。楽天はそれを見越して、たとえ少人数でも潤滑油となる専任組織を設け、組織の壁を突破しようと試みたわけだ。

一見すると、きれい事のように思えるバーチャルなボランティア組織。でも、それをたった2人の最小組織がうまく機能させ、ボールパーク構想を支えていることは事実だ。(文中敬称略)

(写真:©Rakuten Eagles)

<連載「東北楽天ゴールデンイーグルスのボールパークビジネス」概要>
2004年に球団創設して以来、東北で着実にファンを獲得してきた東北楽天ゴールデンイーグルス。本拠地をボールパークと捉え、充実したファンサービスを行いながら球界に新風を吹き込んできた球団の取り組みについて、隔週日曜日にリポートする。