ネットフリックスの新たなチャレンジ
LA発。電通のプロが語る、ハリウッドビジネスの最新トレンド
2016/1/24
ハリウッド・ビジネスPicks!では、電通エンタテインメントUSAに勤務するIanとYuichiが話題のメディア・コンテンツ関連のニュースを解説付きでお届けする。
ネットフリックスの新番組
ネットフリックスの大ヒット犯罪ドキュメンタリー「Making a Murderer」の裏側
<要約>
クリスマス直前の2015年12月18日、ネットフリックスが新ドキュメンタリー番組「Making a Murderer」(全10回)を公開した。
当時22歳のスティーブン・エーバリは、強姦容疑で不当な有罪判決を受けた。18年にわたり服役した後に釈放。その2年後、裁判で不当判決に対して3600万ドルの補償を求めていたところ、再び別の殺人容疑で逮捕され終身刑が言い渡された。
彼の2つの刑事事件を追いながら、ドキュメンタリーではアメリカの刑事裁判システムの問題点を明らかにしていく。
このドキュメンタリーの公開が、アメリカ国民におよぼす社会的影響は非常に大きかった。彼の無実を強く信じた30万人以上の人々が嘆願書にサインし、ウィスコンシン州知事、オバマ大統領まで送られた。
<IanとYuichiのコメント>
Ian:クリスマス休暇中の多くの人々は、全10回のシリーズを一気に見たと言われている(ネットフリックスは視聴者数などのデータを公表しないため定量データはないが)。
私の周りでも、新年になり仕事に戻った後には大きな話題になっていた。テレビシリーズとは異なり、全10回がまとめて公開されるので、すぐに全話視聴しないと会話に置いていかれるか、もしくは番組の結末をばらされてしまうことに。
ストリーミングコンテンツをネット上で見て、見ながらツイートすることがますます一般的になっている。見た後には行動するものが現れ、影響力がますます大きくなっていることを感じる。
すでに大手放送局NBCが別の角度から本事件を取り上げるドキュメンタリーの制作を決定。また同じくNBCの看板トークショー「Late Night with Seth Meyers」がパロディ映像を流し、ユーチューブにアップした動画は数日間で25万ビューを超えた。
Yuichi:先日の「CES(Consumer Electronics Show)」でのネットフリックスCEOによる基調講演の中で、年末に同じく公開されたアダム・サンドラー主演の西部劇コメディ映画「Ridiculous Six」がネットフリックス最大のヒットになったとの発表があった。
配信から30日間で過去最多の視聴数があったとのこと。2016年には人気女性司会者を起用したトークショーの配信も予定しており、オリジナル番組がますます充実しそう。
ネットフリックスのスピンオフ番組
ネットフリックス・大ヒットシリーズ「フルハウス」スピンオフ番組を配信
<要約>
ネットフリックス・オリジナル番組「Fuller House」が2016年2月26日から配信される。
この番組のもととなる「フルハウス」は1987年から8年間大手ネットワークABCで放送された。シリーズ最終回は2340万人が視聴。オリジナルのキャストはほぼ全員が新しい番組に出演している。
<Ianのコメント>
Ian:ネットフリックスをはじめとするSVOD(サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド)サービスでは、過去のヒット番組を再生することがトレンドになっている。
また、ネットワークやケーブルチャンネルで視聴率が下がり、放送することが正当化できなくなった番組が、再びSVODサービス向けに製作されるケースも多く見られる。
ビジネスモデルが異なるため視聴率は関係なく、新シリーズを求めるファンをサービスの会員にすることが目的である。
結果として番組の内容により大きなリスクを取ることができ、テレビ番組全体のクオリティが上がっている。これが今、アメリカがテレビの新黄金時代と呼ばれている理由の一つではないか。
配信業者としてのネットフリックス
2015年のホーム・エンターテインメント収入がハリウッドスタジオを心配させる理由
<要約>
アメリカで2015年にホームエンターテインメントへの消費支出は前年度比1%増を示し、180億ドルを超えた。しかし、この数字は誤解を招きかねない。ホーム・エンターテインメントへの消費支出は事実上減少している。
増えたように見えるはSVOD(ストリーミング・ビデオ・オン・デマンド)がその計算に入ってるからだ。しかし、SVODは放映権収入など、ほかのカテゴリの収入を奪いかねない。DVD販売・レンタルの売り上げは継続的に低下しており、SVODを含めない場合、スタジオのホーム・エンターテインメント収入は前年度比6%の減少になる。
<IanとYuichiのコメント>
Ian:日本のホーム・エンターテインメント産業では、DVDやビデオを高価格で、ファンやコレクターに売る構造がある。SVODがアメリカで登場してから、DVD販売とレンタルの売り上げは継続的に低下し、現在の日本と同じくコレクターしか買わないようになってきている。
SVODは去年から日本で本格的にスタートし、これから日本の業界がどう変わっていくのか注目している。
Yuichi:最初の2つの記事はネットフリックスの「製作者」としての話題だったが、こちらは「配信業者」としてどのような影響を与えているか、に関して。
一見すると、収益に貢献しているネットフリックスをはじめとするSVOD配信が、実はコンテンツ製作者の収益の最大化につながっていないことが判明すれば、スタジオ側からSVOD業者への販売価格上昇につながる。しいては、消費者に価格転嫁されるか、もしくはSVOD業者の業績低下につながるだろう。
すでに日本でも販売価格の上昇が始まっているようで、ネットフリックス・アマゾンの参入が影響して、SCODサービス「dTV」を運営するエイベックスは調達費用がかさみ大きく業績を下方修正している。
映画・テレビ・デジタルをバランスよく紹介するはずが、結局すべてネットフリックスをはじめとするSVOD関連になってしまった(苦笑)。しかし、これがいまのハリウッドの空気感とも言える。アメリカでは日本よりも一足早く、2016年に新しい業界のカタチが見えてくる気がしている。
(写真:trekandshoot/iStock.com)